騎士とギルドと・・・
歩き続けること三時間、ニートにはいささか厳しい環境に耐え続けた結果、ひとつの町にたどり着いた。
町は見上げれば首が痛くなるような高さの城壁に囲まれ、門にはまさに騎士というような風貌の男が立ちはだかっている。
「む、冒険者か?それにしては武器の類が見当たらないが…身分証を見せてくれ」
「あー悪い、身分証無くしちゃって…どうにかならないかな?」
「それなら通行料の銀貨一枚を払えば通れるぞ。…まさか金もないのか?」
「そ、その…実はそのとおりで…」
「身分証もない、金もないとすれば…一度詰め所に来てもらうしかないが、犯罪歴とかはないんだな?あるならば町に入れることはできんぞ、それどころかその場で牢屋行きだ」
「ろっ…ないない!犯罪なんかこれっぽちもしたことない善良な一般市民だっ!」
「あわてて否定するところが怪しいが…まあとりあえず詰め所にきてもらうほかないな。そこで犯罪歴を調べて問題なかったら借金という形で町に入れる。利息などは発生しないが、ちょろまかしたら怖いお兄さんたちが回収しにくるぞ。はっはっはっはっは」
「(どこの闇金融だよ…)」
「はぁ、まさか町にきてそうそう借金する羽目になるとは…さてこれからどうするか…とりあえずお金を返さなきゃだから…ギルド?テンプレだとまずギルドで登録するよな…」
道がわからないので町行く人にギルドの場所を聞こうとするが、ここでニートの悪い癖『コミュ障』が発動してしまう。
というか人々が徹の顔をちらちら見て目が合うと逃げるように目をそらすので話しかけるどころではないのだ。
「(なんなんだよいったい…顔に何かついてんのかな…それとも不細工すぎて…はぁ)」 実際はメイキング時の容姿100のせいで超絶な美少年になっており、人々が話しかけにくいだけなのだが。
「ねえ」
「(はぁ…やっぱ所詮ニートはニートか…自力でギルド探すしかないのかな)」
「ねえ」
「(といってもこの町広いしなぁ、せめて地図とかあればよかったんだけど…)」
「ねえってば!」
「わっ!な、何だよ……っ!」
声をかけてきた少女の姿にハッと息を呑む。
光を吸収したような金髪に白い肌、碧い瞳が大きく輝きこちらを見ている。
-美少女-そう形容するほかないような女性だった。
「さっきからよんでるのにさー、ぜんぜん気づかないんだもん!きょろきょろしててさ、なにか探してるの?って聞いてる?」
「あ、ああ、えーとギルドを探してたんだ。冒険者登録したくてさ」
「ああ、ギルドね!ちょうど今から向かうところだからさ!つれてってあげる!ほらきて!」
「あ、ちょっと!ま、待てって!」
そういうと少女は俺の手を握って引っ張る。
不意の行動にドキッとしながらも素直に従うことにした。
そうして半ば強引につれてこられた先は、二階建ての大きな建物だった。
端には剣や竜を模したような旗が掲げられている。
「でかい建物だなぁ…」
「まあね!ここはギルド本部だから!さあいこ!」
正面の木でできた内開きのドアを勢いよくあけると、そこにはたくさんの武装した大人が酒を片手に歓談し、奥のボードには依頼書らしきものが所狭しと張られていた。
怒号ともとれるような馬鹿でかい声が飛び交い、初見の者ならばそのまま尻尾を巻いて逃げ出すような光景である。
「さ!登録するなら受付に行かないと!」
促されカウンターに向かうと紫色の髪をしたお姉さんが迎えてくれた。
「こんにちは、当ギルドは初めてですか?」
「あ、はい。えっと冒険者登録がしたいんですけど…」
「はい、登録でしたらこちらの用紙に名前、年齢をお書きください。文字がかけないようでしたら代筆いたします。
それから登録には費用として銀貨一枚がかかるのですが…お持ちでしょうか?」
「あっ、代筆お願いします。それからーえっとお金持ってないんですけど…借りたりとかってできますかね?」
「わかりました。そしてお金ですが払えない場合は仮登録という形になります。ギルド内の道具屋で割引が受けられないほか、依頼によっては受けられないものもございます。」
「えっと、わかりました。じゃあとりあえず仮登録をお願いします」
「かしこまりました。それでは代筆をいたしますのでお名前と年齢」をお教えください。」
「えっとマエバラ・トオルです。トオルが名前でマエバラが苗字です。21歳です」
「かしこまりました。トオル・マエバラ様ですね。それでは仮登録とさせていただきます。Fランクからとさせていただきますが、仮登録の間はランクを上げることはできません。正式な登録をしたさいには試験がありますのでそちらで正式なランク付けをさせていただきます。
それから依頼を失敗した際には違約金が発生します。続けて依頼を失敗したり、悪質な行為があった場合には資格剥奪となりどこのギルドでも登録することはできなくなりませんのでお気をつけください。
細かい注意点はこの冊子に書かれていますのでよくお読みください。なにか質問等ございますでしょうか?」
「いえ、大丈夫です。」
「それではこちらがギルドカードになります。トオル様の血を一滴垂らしてくだされば登録完了となります」
カードと小さな針を受け取り、血を垂らすとカードがうっすらと光った。
「はい、これで登録完了となります。まだ仮登録ですが冒険者の一員としてがんばってください。ギルド員一同応援しております」
おそらくマニュアル通りの登録(まだ仮ではあるが)を終え、一息つく。
「おつかれー、登録終わったんだ!」
「あ、さっきの!えっと…」
「あ!あたしリーシャ!リーシャ・メニスカスっていうんだ!君は?」
「あ、ああ俺はトオル!トオル・マエバラだ。さっきはありがとう、助かったよ!」
「んーん、いいの!丁度いくところだったし!それよりも…君、新米君でしょ?一人で大丈夫なの?」
「あー、まあたぶん大丈夫だと思う。それに…ここら辺に知り合いもいないし…」
「えっ!君友達いないのか!ぼっちくんかぁ~」
「そんなはっきりいわなくても…それに友達がいないわけじゃ…」
「よし!お姉さんが手伝ってあげよう!」
「えっ!い、いやそんな悪いし…」
「気にしない気にしない!こうみえてもそれなりの冒険者なのだよ!それに~わたしも一人だからね!ちょうどいいじゃん、よし決定!そしたらば君!宿はもう決めた?」
「いや…まだだけど…」
「よし!じゃあわたしの行き着けの宿があるからそこにしよう!さあいこう!」
「ちょ、ちょっと待った!俺さお金ないんだ・・だからまず依頼受けないと…」
「こんな時間から受けたら夜になっちゃうよ。お金なんてわたしが貸すから!さあ!」
半ば強引に宿につれられ、俺の異世界一日目は終了した。リーシャに振りまわされっぱなしの一日だったがたまにはこういうのも悪くないかもしれない。
たまに、ですめばの話だが。