異世界にて確認
「眼下に広がるのは広大な大地と密林。頬を撫でる風は乾き…ってんなこと言ってる場合じゃないよなぁ、これ」
先ほどまでいたはずの薄暗い部屋は見る影もなく、目の前の景色にはただただ驚かされるばかりであった。
「俺の知らない間にVRMMOが開発された…訳もないだろうし、ここまでのクオリティはいくらなんでも表現できないだろうし、これはもしかしてかの有名な異世界転生ってやつか?」
徹自身、異世界転生ものの小説は数多く読んできたし、そういった展開を何度も妄想し年甲斐もなく憧れてきたものではある。
それでも妄想は妄想であり現実に起こり得ないことは重々承知はしていたがそれがまさか現実となってしまった。
「やっぱあの課金したゲームが入り口だったのかなぁ…そうだとしたら俺ってもしかして最強なのか?いやでもMAXに振ったからといってもレベルとかもあるかもしれないし…そうだ!こういうのってだいたいステータスとか見れたりするよな!」
徹は目を瞑り、心の中で『ステータス』と念じてみた。
が、何もでてこない。
「だー!くそ、ステータスが出てこなかったら自分の能力とかもわかんねーじゃんかよ!あー、これからどうすっかな…とりあえず街を探すのが定石だろうけど…」
そうして辺りを見渡すが、言うまでもなく周囲に街などみたらない。それどころか人影すらない。
出て来て欲しくはないがこの際魔物でもなんでも自分以外の生命を見たいと思う徹であった。
それからあてもなくふらふらと歩く徹だがじきにある事に気がついた。
「あれ?そういえば普段より身長高くないか?それに体もがっちりしてるし…てか髪さらっさらしてんなおい!そっか、あのキャラクターメイキングのが活かされてるのか…ってことは!もしかして!『ファイアーボール!』」
一番メジャーであろう魔法名を唱えてみるがかざした手のひらからは火どころか熱すら感じられない。
「なになに、もしかして魔法使えない?魔力がないですよみたいなそういうオチは勘弁してくれよ…あとここで確かめられそうなのは
…力か」
おもむろにしゃがみこみ、拳を握り地面を思い切り殴りつけてみる。
轟音とともに砂煙が舞い上がり拳の先には鉄球でも落ちてきたのかと見まごうような穴ができていた。
「おおお…すげぇ…って俺がやったのかこれ、まさしくチートだろうこれは。とりあえず力は正常に働いてるからな…なんで魔法が使えないのか…」
試行錯誤するもその理由は浮かばず、またあてもなく歩きつづける徹だった。