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5   神林虎丸

2014 4/4

文章修正・追加をいたしました。


 最近俺の仕事場が騒がしい。


 以前からもたびたび騒がしいことはあったが、ここ最近毎日怒鳴り声や笑い声、悲鳴がこだましている。

 まあ、元気がいいのは良いことだな。なによりあの坊ちゃんが同年代の友達と騒いでる! ってのがいいことだ。


 大人に囲まれて育ったせいか、妙に斜に構えた考え方をしている10歳の少年。跡取りとか昔の事とか、色々なことが子供らしさを奪ったんだろうが、もっと少年ぽくバカ騒ぎした方がいいと前から思っていた。


  まあ、実際は『少女』だけどな。


 このことを知っているのは、モーズリスト家当主とその使用人だけである。

 使用人の数は8人・・・いや、10人か。


 二名ほど普段から存在を完璧に消して、裏の仕事を請け負っている者がいるのだ。おそらく今もどこかに身を隠し、じゃれあっている微笑ましい二人を見守っているのだろう。


  しっかしあいつ等、いくら『忍者』だからってどんな時も忍び装束を脱がない!ってのはどうなんだろーな。逆に目立つんじゃねぇか? って毎回思うんだが・・・ まあ、身を隠してるあいつ等を見つけられた試しがねぇから言えねぇんだけどよ。顔見てみてぇぜ。


 坊ちゃんに至ってはあいつ等の存在自体知らないしな。

 誰も自分を護衛しないとぼやいてるが、実際は二人の忍びが常に張り付いて護衛しているのだ・・・本人に知られずに。


「誰かにずっと見張られてるのって、精神的に疲れるからさー」


 自由と安全性を考慮した策! とメロスの旦那が以前言っていた。

 坊ちゃん以外にも、二・三年ぐらい前に屋敷にきた使用人には『忍び』の存在を知らない奴もいるかもな。


 四年前にメロスの旦那と契約した二人の忍び。

 名前は服部半兵はっとりはんべい服部満蔵はっとりまんぞう・・・うさんくせえ。


 どっちがどっちか全く見分けがつかないし、同じ日ノ本出身としては色々思う所もあるが・・・細かいことは聞かねぇどいてやるよ!

 ちなみに俺の神林虎丸かんばやしとらまるは本名だ。かっこいいだろう!


 10年前に旦那と出会った頃はバリバリの聖騎士だった俺だが、今ではこうして植木をチョキチョキしてるとは・・・人生ってのは面白いねぇ。またいつ危険な事をやるはめになるかわかんねぇけど、まっ旦那といれば大丈夫だろ。


 俺は旦那以上に凄い人物に出会ったことがない。

 あとここの使用人共は一癖も二癖もありまくるのが揃ってやがるから、全く飽きない所だ。


 祖国を出て15年、母ちゃん元気かなぁ。 



「きゃ――!」


 感傷に浸っていると唐突に現実に引き戻された。

 さすがに毎日だと慣れてきたが、やっぱ悲鳴は心臓に悪い。


「何だどうした?」


「エンジェルがっ、エンジェルが動物と戯れていますわ! なんて、なんてあざとい!!」


 なんだそりゃ・・・

 俺が切り揃えている植え込みの横で、メイドのマリーテアが双眼鏡を構えている。完全に変質者だ。


「おい、通報するぞ」


「見ているだけですわ。見物料なら払いますわよ?」


「普通に近づけばいいだろう。メイドなんだから給仕してこいよ」


「エンジェルはジェノ坊ちゃんと二人きりの方が良い表情しますの。私は邪魔などいたしませんわ!」


「俺の仕事の邪魔を今してるがな」


 ・・・おい、無視するな。それになんだエンジェルって!

「頭おかしくなったのか?」そう言ったらお盆で殴られた。

 角はやめろっ!

 クールで冷静なマリーテアは、一体どこへ行ってしまったのか・・・


 フリルのスカートが汚れるのも構わず叫ぶ姿に、普段の面影は無い。

 約7年ほど行動を共にしてきたが、こんな事は初めてだ。よく知ったつもりでいたが、考えを改めねぇとな。


 それもこれもあの日、「白馬の温泉王子様事件」が全ての始まりだった――



「メロス・モーズリスト殿とお見受けする。・・・無断で敷地内に入ったこと、お詫びいたします。申し訳ありません」


 童話から飛び出したかのような白馬から降り立ったのは、童話に出てくる王子様のような美少年。

 彼はメロスの旦那の素晴らしき僥倖で温泉が湧きだし、どんちゃん騒ぎの宴を開いている最中に突如現れた。


 初め、夢かと思った。

 それほどまでに卓越した容姿だったし、雰囲気も幻想的だったのだ。

 向こうにいる使用人の連中も、


「酔っぱらってんのかなぁー? 馬が見えんだけどぉ!」

「大丈夫です。私も見えますから」

「白馬とは、白い馬と書いて白馬と読む。これぞ自然の摂理」

「意味わかんねぇよ、うざっ!」

「俺知らなかったっす。凄いっす!」


 と、騒いでいる。


 興味深々でこちらに近寄ってくる使用人もいたが、その姿が突然視界から消えた。

 うおっ、どこいった?

「痛ぇ! なんだこの穴!?」下から聞こえる声に「旦那様が掘った穴です」と淡々と告げるマリーテア。 

 よくよく目を凝らすと、地面に黒い穴がいくつも空いていた。


 あー埋めるの忘れてた・・・これ夜は危なすぎる。使用人共はいいとしても、坊ちゃんは守らねえとな。

 更に騒がしくなる宴会席はうるさいので放っておこう。


「気にしないでー 別に減るもんじゃないし」


 ひらひらと手を振り軽く答える旦那に、フードをとった美少年は少し驚きながらも名乗る。


「突然の訪問をお許し下さい。私はカルシェンツ・ゼールディグシュと申します。本日はご子息とお話がありお伺いしました。ひいてはその許可を頂きたく――」


「いいよ。ジェノの友達なのー?」


「えっ! あ、いや、あのえっと・・・はいっ、と、とととともだちです!」


 ん? ゼールディグシュ? どっかで聞いたことがあるような。

 急に慌て出したカルシェンツ少年は、少し迷った様子を見せた後、意を決したのか緊張した面持ちで言い切った。


「いえ、見栄を張りました。まだ私達は友人とは言えませんが、いずれ誰もが羨む関係を築き・・・全世界が認める親友となります!応援よろしくお願いしますっ!!」


 全世界とは大きく出たな、めちゃくちゃ広いぞ。

 見事な角度でお辞儀した少年。隣で旦那が吹き出し、大爆笑し始めた。

 こらこら旦那、この金髪美少年は真剣なんだからもうちょい抑えてやれ・・・気持ちはわかるがな。


 そして後ろでマリーテアが「天使がっ、天使がここに!」となにやら胸を押さえ悶えだした。

 どうしたっ、何かの病気か!?


「最後はジェノが決めることだけどね、友人は必要だし面白そうだから応援するよー」


「本当ですか! 全力を尽くして頑張ります」


「頑張ってねー。あ、でも・・・」


 急にへらへらとした笑みをすっと引っ込めると、旦那は声を潜め少年に耳打ちした。


「あの子を泣かせる様なことがあったら・・・たとえ王子様でも、許しはしませんよ」


 普段より数段低い声。


 心が冷える様な冷たく暗い瞳。


 この場をすぐに逃げ出したくなる異様な空気。



 これは仕事時の旦那の表情だ。

 ちょっと子供に向けちゃまずいやつでしょうよソレは・・・うっわ、もろこの空気に当たって少年ガッチガチに固まってんじゃん。いくら坊ちゃんが心配だからって子供を脅しちゃいかんよ、かわいそうだろう旦那。


 それと・・・王子様って言ったか今?

 思い出した、確かゼールディグシュってのは王家の姓だったはずだ!


 今はもう笑顔だが、目が全く笑っていない旦那に「目が死んでます、戻して戻してっ!」と耳打ちする。

 目を瞑り顔をむにむに動かし、へらへらに戻す。

 そうそうその調子です。応援するなら優しくしてくださいよ。ったく、坊ちゃんの事となると恐いくらい真剣なんだよな。普段との差が激し過ぎる。


 主に坊ちゃんの前以外では、基本メロスの旦那はこんな感じだ。自分の懐に入れた者にはとことん甘いが、それ以外には極端に冷たく、容赦がない。


 俺は旦那を心から尊敬してるし、もはや陰で崇めていたりするが・・・たまに恐ろしくて堪らない時がある。詳しい事は言えないが、味方で良かったとつくづく思うのだ。


「・・・私の持てる全ての力を持って、ジェノ殿を守ります! ジェノ殿は私に必要なのです。そして私も、彼に必要とされる人間になりたい! だからっ」


「うん。君のその決意を信じるよ」


「――えっ?」


「僕はジェノが辛い想いをしなければいいんだ、友達になるのには全面的に協力するしねー」


 ぱぁっと、花が咲いた様に笑顔になる美少年に、今度は本当に微笑む旦那の姿を見て驚いた。


 おお、この少年なかなか強いな。

 あれをすぐに立て直すとはかなりの精神力だ。それに珍しくメロスの旦那が気に入っているし、どうやらただの王子様じゃなさそうだ。


 だが・・・何故か結婚の許可をもらいに来た彼氏と父親の会話に聞こえる。

 あれ? 友達になりたいんだよな?


 この子、絶対に友達いないだろうな。

 作ったこと無いからこんな変な言い回しになってるんだ・・・周りの奴ちゃんと教えてやれや。

 目線を上げると白馬の後方にひっそりと立っていた執事の男が頭を下げてきた。


 うおっいたのか! 気付かなかった、なかなかやるなぁ。

 かなりの手練れだと雰囲気で察し、今度手合せ願いたいと笑が浮かんだ。


 

 その後、坊ちゃんの元に向かった美少年はまるで愛の告白の様な友人の申し込みをし、メロスの旦那を大爆笑させた。

 やっぱズレてんな、この子。


 パニクっているジェノ。


 笑い転げるメロス。


 発狂するマリーテア。


 満足気に帰って行った王子様のせいで屋敷は大混乱だったが、その後温かい温泉に入って、なんとか皆落ち着いたのだった。


 満面の笑みで懲りずに擦り寄っていく姿を

「ああっ! エンジェルが噛まれたっ!!」


「そら尻尾をあんなに引っ張ったら噛まれるわなぁ。自業自得だ」


「「あ・・・」」



 王子様が坊ちゃんに頭を叩かれる。もはやいつもの光景になりつつあるジェノのシバきに、王子様は妙に嬉しそうだ。見ると、王子様だって事を忘れそうになる。


「エンジェルはマゾなのかしら?」


「否定しきれんな」


「でもそこも可愛いわね」


 うむ・・・今日も平和、だな。

 マリーテアに付き合いきれないので休憩することにし、屋敷へと向かった。


 

 どっぷりと日が暮れようやく帰る気になった王子様を外門まで送っていくと、馬車に乗らず此方を振り返る。何か俺に用があるようだ。


「お願いがあります・・・ジェノ君の様々な情報を教えて下さい」


 恐ろしいほど真剣な瞳に一瞬たじろぎそうになったが、「いや、本人に聞いた方がいいんじゃね?」と返す。その方が仲良くなるだろうし。


「聞いても警戒しているのか教えてくれないのです。好きなものをプレゼントしたいのだが」


「ちなみに何を質問したんだ?」


「スリーサイズを。最高級ブランドの洋服を見繕いたいと思って」


 あー・・・うん。それは教えてくれねぇわな、女子にはきついだろ。特に王子様は坊ちゃんより細身だ。普段男の子っぽいしまだ10歳だが女は面倒な生き物だからな、あれで案外体型に気にしていたりして。 


「お揃いで出歩くプランを練っているがなかなか実現しない」とぼやく少年に、坊ちゃんはペアルックとか絶対しないだろうなぁと口の端を歪める。


「まぁプライバシーってのがあるからな、俺の口からは教えられん。すまんな、地道に頑張ってくれや!」


「ふむ・・・その通りですね、小細工無しでぶつかっていきましょう。それでこそ世界一の親友と言うもの! サイズも正々堂々入手することにします」


 不敵な笑みを浮かべる王子様と、溜息をつき頭を振る付き人の姿を見て、首を傾げる。別の方法?


「どうやって入手するんだ?坊ちゃんは教えてくれないんだろ」


 聞くと白く美しい手をスッと差し出された。反射でこちらも手を出し、小さな掌を握り返す。

 何だ? 握手でいいのか?

 目の前の少年が意味深に頷いたかと思うと「デカいな」と呟いた。


「相談に乗ってもらったお礼に、今度手袋をプレゼントさせてください。ぴったりで着け心地のいいものですのでお楽しみに。では本日はこれで失礼しますね、また明日」


 颯爽と走り去る馬車をぼんやり見遣り、これはまずいんじゃねーか?と顎を擦る。


 今、完全に手のサイズを測られた。

 握っただけでわかるのも凄いが、問題はそこじゃない。


 スリーサイズを入手するという事は、手を握るぐらいでは済まないだろう。

 うーん坊ちゃん、さすがに同情するぜ。相手が美少年なのがせめてもの救いだな。




 屋敷に戻ると、玄関入ってすぐの大階段にちょこんとジェノが座り込んでいた。落ち込んでる様に見える少女は、階段のど真ん中に陣取り頬を両手で覆っている。

 幅が広いからいいが普通は邪魔になるぞ坊ちゃん。


 二階の広間に向かおうと階段の端を上る。

 かなり様子が気になるが・・・ここはそっとしといてやろう、女の子は色々あるもんな。ふっ、俺はウザイおっさんにはならないぜ。


「いやいやスルーやめてよ! 構ってオーラ出してんじゃん。カンバヤシ冷たい!」


 頬をプクゥーっとふくらませ恨めしそうに見つめてきたジェノに「うそぉ!?」と振り返る。 

 くっ、優しさが仇となったか。

 横のスペースをポンポンと叩かれ、言い訳しながら隣に腰を下ろした。


「どうしたぁ、おっさんが解決出来る悩みか?」


「あいつどうにかして!」


 おっといきなりだな。しかめっ面で俺の太ももをぺしぺし叩く坊ちゃんはご立腹だ。

 あいつってのはおそらくカルシェンツ王子の事だろう。


「凄い変な奴でさ、うるさいし異様に近いしキウイを邪魔者扱いするし・・・疲れる」


「んー坊ちゃんと仲良くなりたくて必死なんじゃねぇか? ほら、坊ちゃん淡泊なとこあるから向こうは焦ってんだよ」


 こんな初期段階で亀裂が入るのは困るので、一応王子様を擁護しておく。いきなり互いを理解するのは難しいだろうが、時間をかければ距離も縮まるだろう。


「なんでか僕のスケジュール把握してていつも先回りされるんだけど」


 それは・・・完全に情報を売ってる奴がいるな。

 一人嬉々として売りそうな人物の顔が浮かび、話題を変える。


「あー王子様とはどんな話をしてるんだ? 天才なんだろ、やっぱり凄いのか?」


「わかんない。僕の事ばっかり聞いてくるし、無駄に褒めてくるんだよね」


 ぺしぺしが段々べしべしに変わってきた。

「いい筋肉してんなー」と深く頷く坊ちゃんに苦笑する。10歳の女の子とは思えない言い方に少し不安になりながら「褒められるのは良い事だと思うが」と言い、力こぶを作ってやった。楽しそうにニギニギと触るジェノは、愛らしい笑みを浮べご満悦だ。


「今日なんかカサブタの色が理想的で、ささくれの跳ね具合が絶妙だ! って叫ばれたんだけど、褒められてるのか馬鹿にされてるのかわからなくなってきた。何だささくれって、細か過ぎるわ!」


 確かにそこまでいくとよくわからない。多分もう色々出し尽くしたんだろう、まだ内面を深く知らない段階で見た目を褒め続けるとそうなるのか・・・


「どんなにうざがっても嫌だって言ってもついて来るし、あいつMにみせかけたSだと思うね・・・いや、Sと思わせといてMかな?」


 悩みだしたジェノに「どっちでもいいわ!」とつっこんだところで、夕食を告げに来たメロスの乱入で会話が終わる。神林は伸びをしながら今日一日を振り返った。


 二人の性格は全然合わないのかもしれないが、それならそれでいい気がする。例えどんな関係を築こうと、それは坊ちゃんを色々な意味で成長させてくれるだろう。あとは良さげな方向へと背中を押すのが俺達の役目だ。


 存分に遊んでゆっくり大人になるといい。おっさん達がのんびり見守ってやらぁ! 

 神林はゆる~く、そして固く決心し、微笑んだ。



 あぁやっぱり今日は、平和だなぁ。

気になる部分があったので少し変更し、追加文を加えました。

お読みくださり、ありがとうございます。

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