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2014 3/20 編集しました。

少しだけ、変更しております。

 徐々に拡大する水溜りは四つの照明機材でライトアップされ、ちょっと綺麗だ。

 40~42℃とまさに適温だと判明し、集まった使用人達が宴の用意をしてはしゃいでいる。

 なんか出来過ぎな気がするけど・・・メロスだしな。


「こりゃあ財宝を掘り返す前に金の泉を掘り当てちまったなー」


「財宝ってどういうこと?カンバヤシ」


「おお坊ちゃん、昼間に財宝見つけてジェノにプレゼントだ!ってメロスの旦那が叫んでたからな。財宝掘り当てようとして温泉にぶつかったんだろーぜぃ」


 水溜りを囲う道具を持ってきた庭師のカンバヤシが意気揚々と答え、その隣ではマリーテアが呆れた様子で首を振る。「もうすぐ業者が着くぜぃ」と言いながら素早く作業し仕事を熟す庭師を眺め、ジェノは納得した。


 一週間程前、ここから南に50キロ行った坑道で化石が発見されたのだ。おそらくその情報を今朝聞いたメロスが、うちの庭にも何か埋まってるかもと思いたち適当に穴を掘った。

 動けば何かしら事件が起こると名高い迷惑男の噂は伊達でなく、欲していたものとは違ったがメロスは見事に温泉を堀り当てたのだ。


「一日目で温泉掘り当てるとは恐れ入ったぜぃ!さすがメロスの旦那だ、ただもんじゃねーなぁ!」


 はっはっはっ!と心底楽しそうなカンバヤシは38歳の体格のいい東洋人で、何事にも寛容な愉快な男である。5年前メロスと共に屋敷を訪れてから庭師として働いている。

 東洋の仕来りなのかたまに謎の行動をするカンバヤシだが、その気さくな性格のおかげで幼いジェノも比較的早く打ち解けられた。


 屈強な男。


 ジェノは彼をそう表す。身体も心も男の中の男!といった感じのカンバヤシに、ジェノは密かに憧れていた。

 あの筋肉、いいよね。力こぶとか僕にもできないかな?

 細くふにふにした自分の二の腕を摘みガクッと項垂れた少女は、「筋トレしよう」と小さな闘志を燃やした。


 

 作業してる人たちをぼんやり眺めて過ごし、気付けば一時間以上経過していた。

 うわ、もうこんな時間だ。そういえば夕飯途中だったな。


 時刻は午後7時半。

 遠く離れた所で使用人達が宴会して盛り上がっている姿が見える。立ち上がり足元を見ると大量のお菓子が置かれていた。使用人の誰かがジェノのために持ってきたのだろう。


 戻ろうかなぁ。

 お菓子を拾っいながら屋敷の方角に目をやると、一瞬白いものが視界の端に映った。

 ジェノは気にせず全てを拾い終え歩き出そうとしたが、違和感を覚え足を止める。


 なんだあの白いの・・・近づいてくる?

 日が暮れてよく見えないが、白いものがこちらに向かってくるように見えた。

 デカいな、馬か?


 予想は的中し、白く美しい馬が悠々と歩を進めて近付いてくる。

 白馬。

 そして背にまたがる黒いフードを被った人物。


 普段目にする事のない存在が突如現れ、周囲がザワつく。何故白馬がモーズリスト家の庭にいるのか。

 皆が一斉にメロスを見たが、メロスは知らないと笑みを浮かべて首を振る。当主がいつもの気まぐれで買ったのかと思った使用人達はますます混乱し、奇妙な侵入者をどう対処しようか相談し始めた。


「超白いっすよ、馬っすよ馬!」

「見りゃわかるっつーの!うるせぇな」

「さっさと誰か捕まえてきて下さい。どうみても曲者でしょう。私は見てますから」

「嫌っすよ!超デカイっすもん、踏まれたらあの世行きっす」

「それは好都合。早く突撃して下さい」

「どういう意味っすか!?俺まだ死にたくないっす!」


 誰が対応するかで口論し、終いにはジャンケンで決めだした使用人は完全に全員酔っ払っているようで使い物にならない。

「馬刺しにしよう」という物騒な発言も聞こえ、ジェノは馬よりも彼らの動きに注目して見守った。


「てか、あれって絶対あの子だよな・・・?」


 一人だけ落ち着いている少女はつい昨日目にした美しい白馬を思い出し、静かに頷いた。

 フードで顔は見えないが紛れもなく乗っているのは、今朝突撃してきたあの人物だろう。

 白馬から降りた小柄な黒マントは屋敷の当主であるメロスの元へ向かって行き、なにやら話し出した。


 ジェノの位置からでは会話が聞こえないが、爆笑しているメロスの姿から凄い盛り上がってる様子が伺える。ジェノは気になりながらも自分から話しかける勇気はなく、大人しく待機し続けた。


 キョロキョロと落ち着きなく立ち竦んでいると、フードをとった相手がクルッと振り返り、質の良さそうな布をはためかせて近づいてくる。

 溜息が漏れる見事な金髪に夜でも映える白い肌。


 見蕩れるような麗しい顔立ちは月の下で更に魅惑的に仕上がり、ジェノは自然と目を奪われた。昼夜関係なく煌きを放つ美少年はなにやら緊張感を漂わせ、形の良い桜色の唇から細く長く息を吐き出す。


 悩ましげな少年を前にして、ジェノは驚いていた。

 来てもいいと許可をだした時点でまた訪れるだろうとは思っていたが、予想以上の早さだったのだ。

 おいおい、まだ一日経ってないぞ? 知り合って間もない人物の屋敷に一日二回来るって・・・余程の要件があるのか、それともただの迷惑野郎か。


 ジェノの2m前で少年は足を止めた少年は、張り詰めた表情で夜空を見上げた。

 月明かりに照らされ反射する金髪が風で波立つ光景に、向かい合う少女は瞳を逸らせず息をのむ。


 これほど美しい者がこの世にいるのか。そう思わせるほど、彼の美は完成されていた。

 これでは周囲の者はなんでも我が儘を聞いてくれただろう。歓んで従者になろうとした者が多くいたのも本当かもしれない。

 深く長く深呼吸する少年の言葉を、ジェノは静かに待った。


 意を決したのか、力強い黄緑色の瞳がジェノの黒目を捉える。

 その瞬間、動けなくなった。


 フワリと揺れるマントの下。

 鮮やかな花で出来た可愛いらしい花束が不意に現れ、視界を覆う。


 片手で持つのに大き過ぎるそれは覆われていたにも関わらず、形が崩れる事なく綺麗なまま保たれてあった。

 オレンジにピンク、白や紫、黄色の小さな蕾に濃い緑の葉。

 色も種類もばらばらな花束は不思議と調和し、とても可憐に収まっている。


 花束に目を奪われていると、ふいに名前を呼ばれ顔を上げた。

 流れるような美しい動作で片膝をついた少年は、零れ落ちそうな黄緑色の瞳を細め、可愛らしい花束を優雅に掲げる。



「ジェノ・モーズリスト殿。私と・・・親友を前提に友達になって下さい!」


「・・・・・・」


 一瞬、思考が停止した。

 滑らかな所作とロマンチックな演出、世にも美しい少年の組み合わせに物語の世界に入った感覚を味わっていた少女は、告げられたセリフを反芻して思わず首を傾げた。


 友達? あぁまず友達からってことね。それで親友になる前提で――  っていやいや! アプローチの仕方間違ってね―か!? ちょっとドキドキしちゃったじゃんかコノヤロー!


 世にも稀な美少年から跪かれて言われた言葉の意味は全く色気のあるものではなかったが、演出とセリフ回しは完全に愛の告白に使用されるやつだ。

 おいおい誰か、こいつにちゃんと教えてやれよ。このままじゃまともに育たねーぞ!

 てか僕のドキドキを返せっ、ただ友達になりたいと言われただけなのに少しときめいてしまった・・・くぅ、やはり僕も女の子だったんだなぁ。


「・・・返事は?」


「えっ!?」


 真っ直ぐに瞳を向けられ妙に胸が騒ぎ、素直に瞳を合わすことが出来ない。


「イエスしか聞き入れないから!」

 

 なにその強引な感じ、ちょっとキュンとするんですけど!

 普段なら「何ふざけたこと言ってんだ」と鼻で笑うところだが、この時ばかりは完全に雰囲気に酔っていた。温泉のスポットライトが良い感じに闇夜の美少年をキラキラと演出し、湯気も幻想的な世界を創っていく。


 まるで本物の王子様みたい・・・


 ぼーとしていたら、何時の間にか目の前に近付いていた少年に「返事を聞かせて?」と囁かれる。

 待て待てなんだその無駄な色気は! いきなり妙な色気を使ってくるなよ。僕の目と耳がおかしいのか!?


 完全にテンパってしまったジェノの思考は上手く働かない。

 考えなきゃ、考えなきゃ、考えなきゃ、ちゃんと考えなきゃ―――


「考えさせて下さいっ!」


 ガバッと頭を下げると、少年の驚いた気配が伝わってくる。

 周囲の「おお、保留か!?」という声も。


 その後少年が「イエスしか認めない」と詰め寄ってきたが、ジェノの頭は最早真っ白だった。見かねたメロスが間に入り、少年を宥めなんとかその場は治まった。


「まずお互いの事を深く知るところから始めよう! だから毎日会いに行くよ。親友というのは一朝一夕ではなれないからね!」


 熱く闘志を燃やす少年に、ここで毎日はやめてくれとキッパリ言えていればよかった。

 メロスも笑ってないで止めてくれればよかったのだが、後の祭りだ。


「ではまた明日会おう、ジェノ・モーズリスト殿! あっそうだ、ずっと言い忘れていたんだが・・・」


 花束をジェノに渡し、颯爽と白馬に跨った美少年が輝く笑顔で言い放つ。

 うっわ、まぶしー。


「私の名は、カルシェンツ・ゼールディグシュ。カルと呼んでくれ、未来の親友よ!」


 走り去る馬の背を見つめながら、立ち尽くしていたジェノは呆然と使用人達の驚愕の悲鳴を聞いていた。



 ・・・ゼールディグシュ?

 ゼール、ディグシュ。


「ねえメロス、ゼールディグシュってどっかで聞いたことない?」


「このヴェジニア国の王家の姓だよー。ちなみにカルシェンツ君は現国王の直系で第三王子様」


 あっさりと答えるメロスに唖然とする。そして、


「この国の王位継承は現王が第一、第二とか関係無く、直系の中で一番有能な者を次期王と決めるだろう? 第三王子は僅か10歳ながら幅広い分野で歴史に名を残す快挙を連発している天才らしい。あらゆるジャンルで超越した才能を発揮し、世界各国から大注目されている怪物。ほぼ彼で次期王は決まりだと王様が公言してるってさ」


 続いた話に開いた口が塞がらない。  

 王子様? 天才? 次期王!? アレが!?


「気難しい性格で冷たい氷の王子様って噂だったけど、めっちゃ熱くて面白い子だったね!」


 メロスは楽しそうに笑っているが、ジェノの耳にはもはや何も聞こえていなかった。






 真ん丸るい目を覗き込み、口元に小さく切ったマンゴーを持っていく。勢いよく手から果実を奪い噛り付く姿は「愛らしい」の一言だ。

 今自分の目尻は下がり、頬が緩んでることだろう。あぁ、ずっとこの可愛い生き物を眺めて過ごしたい。


 しかし残念な事に、隣にいる存在がそれを許してはくれなかった。


「そいつばかりじゃなく、私にも構ってくれ! こっちをちゃんと向いて私を見ておくれよジェノ君」


 何だこいつ鬱陶しいな、この構ってちゃんめ。


「隣にいるのに何故か遠い気がする。何ということだっ、もっとお話をしようじゃないかジェノ君!」


 椅子を寄せて来るな、顔を覗き込んでくるな、今まででも充分近かっただろうが! 

 はぁ、落ち着け僕・・・可愛いこの子で癒されよう。


「そんな表情も出来るんだね、私に向けるものとは全然違う気がする。何故なんだいジェノ君! 私にもその顔で接してくれないか、笑顔プリーズ!」


 いやいや、くっそうざい。

 頼むから少し大人しくしていてくれ。


「名前、キウイにしようかな」


「キィキィ鳴くからかい?私はサルでいいと思う」


 けんか売ってんのか!? 猫にネコって名付けるようなものだぞ!

 膝の上で指にじゃれつく子ザルを眺め再度心を宥める。

 ふぅー、キウイは本当に可愛いなぁ。誰かさんとは大違いだぜ。


「こいつ今ジェノ君の指に噛み付いたぞ! もう檻へ戻した方がいいよ。絶対その方がいいよ。決まり! さあ今直ぐ私と遊ぼう!」


「お前もう帰れ!」


「なっ、なんでだい!? まだ来て3時間半しか経っていないよ? これから二人でスゴロクとバドミントンと魚釣りをするんだから、まだまだ帰らないよ。私はずっとジェノ君の傍にいるよ」


「勝手に決めるなっ、なんだその予定は! てか、毎日家に来るのやめてくれないか? こっちにも都合があるんだ」


「ジェノ君は学校行ってなくていつも暇だから毎日遊びにおいでってメロスおじ様が仰っていた。私は暇で退屈している可哀想な親友を楽しませるという重役を担っているんだ」


 くっそメロスめ、余計なことを言いやがって! 大体こいつ四日連日で押しかけて来るなんておかしいだろ、他人の迷惑もちょっと考えろよな!


「お前は学校あるんだろう?勉強は大事だぞ、頑張れ」


「応援してくれるのかい!? 嬉しいよ! しかしジェノ君と仲良くなる方が私にとっては重要な事柄だ! それに勉強は大卒までの範囲が終了しているから問題ない」


 は? こいつ僕と同じ歳だよな?

 今僕と同じ10歳のはず・・・メロスが言っていたことは本当だったのか。 

 目の前の美少年をまじまじと見つめると、嬉しそうに顔を赤らめ照れだす。

 いや、意味わからん反応するな。


 連日高いテンションで屋敷に通い詰められ、ジェノは辟易としていた。

 それもこれも全てあの日のせいだっ、あの時冷静に断ってさえいれば!

 数日前の自分をジェノは心底呪い、深々と項垂れた。


「大丈夫かい? 親友の私が優しく擦ってあげよう。痛いの痛いの、汚職塗れの役員の所へ飛んで行け~」


 何それこの国汚職に塗れてんのか!? 王子様が言ったら洒落にならないだろう。

 楽しげな少年にオデコを擦られ、少女は思いっきり叩き落とす。


「王子様だろうが天才だろうが関係ねー、僕は一人で遊びたいの! いいから帰れっ、触るな!」


「はぁ~そういう所が良いよね、ジェノ君て! 仲良くなるまで絶対に帰らないからっ、覚悟してくれたまえ親友!」


 ――っ、親友じゃねぇ!

 僕の平穏は、どこかへ消え失せました。

色とりどりの花は 花言葉がすべて友情だったりします。

やっと美少年の名前を出せて一安心です。


このまま「少年」でいくのかと不安でした・・・

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