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2014 3/19 編集しました。

話の内容は変わっていません。

 あれ、玄関の花替えたのかな?菫もきれいだけど紫陽花もいいよね。


 見てると心が洗われるようだわぁ。

「ほんとに男の子みたいですよね」ってマリーテアによく言われるけど僕にもちゃんと女の子っぽいところあったんだね、うふふ。


 ドンドンッ!


 あ、中指の爪だけちょっと長いかな?まぁそんなに問題ないけど、近所の悪ガキ共とごくたまーに野球したりするから危ないかもな。

 でもこの爪だけ切りに行くのもなー、攻撃する時使えるかもだし・・・まっ、いっか。


 ドンドンッ!!


 明後日届く「キツネザル」の名前どうしようかな。雄か雌かでもかわってくるし、覚えやすい方がいいよね?


 ドン・・・キンコーン


 渋いのもカッコいいよね!


 ドドドンッ


 皆から募集するのも手――



 ドン、ドンドンドンッ!!!キンコーンキンコー



「うっせぇ―――んだよっ!!」


 バァ――ンッ!

 勢いよく扉を開けた。

 ヒィッ! と奇妙な声を上げた相手を射殺さんばかりに睨む。


「拒否ってんだよ、無視してんだよ! 気付いて空気読めよ!!」


「うへぇ!? え・・・っ!! く、空気? なに、え・・・え!」


 突然出てきたジェノに怒鳴られて目を白黒させる美少年を眺め、荒立った心を落ち着ける様にジェノは深呼吸をした。

 現実逃避が失敗してイラ立ってしまったが、可哀想なくらいおろおろして戸惑っている少年を見てこれ以上はやめておく。

 なんかイジメみたいになりそうだし。


 ジェノは言葉使いが悪く少し乱暴に見られがちだが、争いごとを極力避ける性質だ。

 これも母親の影響だが、「こわい」というよりは「嫌悪」である。


「朝から迷惑行為はやめてくれないか、まだ寝てる人もいるし。もう少し常識を学んでくれ、それと空気の読み方もな。そんなんじゃこの先苦労するぞ・・・周りが」


 固まったまま動かない少年を見遣り、すこし口の端を上げながら再度話しかけてみる。


「怒鳴ったのは悪かったよ。すこし眠くてイラついただけだ、あまり気にしないでくれ」


「あっいや、あの私もその、早朝から申し訳なかった。早く報告に来たくて、その・・・非常識だった。すまない」


 ああ、ちゃんと自分の非を認めて謝罪出来るならまだ大分ましだな。

 これで逆切れする奴とかもう終わってるし、絶対関わりたくない。


「で、うちに何か用?」


「あ、ああ私の」


「君の?」


「私の・・・友達にしてやってもいいぞ!」


 腰に手をやりふんぞり返りながら言い放たれたセリフにやはり扉を閉めたくなる。

 だから何で一々上から目線なんだよ。そして何故昨日の遣り取りで「従者」から「友達に」レベルUPしたんだ?


「君は僕と友達になりたいの?」


「え? ・・・いや、わ、私は全然! お前がどうしてもと言うなら特別に――」


「全く、なりたくない」


 ピシッという音が聞こえるかのように固まった少年に、ジェノは満面の笑顔でゆっくりと言い聞かせるように告げる。


「僕は君と友達になりたいとは思わない。君も全然思ってないみたいだし、この話は無かったということで。・・・用がそれだけなら帰って?」


 「じゃ!」と扉に手をかけようとして、思いがけない力に腕を引かれ体制を崩す。自分より華奢だと思っていた少年にこれ程の力があったのかと驚き、ジェノは目を瞠った。


「どうして断る・・・私がここまで言ってるのに。皆卒倒するほど光栄なことなんだぞ。私の傍にいるだけで周りから羨望の眼差しを向けられるし、我が家のパーティーに出席すれば二度と没落だなんて呼ばれなくなる」


 いままでの高慢な態度とは違い淡々と話す少年の瞳は静かに揺らめき、凛としている様に見えて少し触っただけで崩れてしまいそうに儚い。間近でみる天使の様に美しい顔立ちは白を通り越して青白く、形の良い唇も血色がよくないのがわかった。

 ジェノの両腕を必死に掴んだ手から、細かな震えが僅かに伝わってくる。


 ああ、もしかしてこの子は――

 少年の肩越しに彼に付き添って来た執事の姿を捉え、ジェノは確信した。


「貴族や華族、近隣の王国やその他の有権者にだって、今迄とは違う扱いを――っ!」


 掴まれていた腕をゆっくり外し、触り心地の良いねこっ毛のブロンドを優しく撫でる。

 驚きに見開かれた瞳に微笑みながら、それは・・・と言葉を紡いだ。


「まるで肩書きと友達になったみたいで・・・悲しいな。君自身がどこにもみえない。僕は立派な肩書きや、周りからの評価じゃなく・・・血の通った「人間」と親しくなりたいし、心の通った「人間」と友達になりたい」


 くしゃっと髪を搔き混ぜ、ああ少し垂れ目なんだなとどうでもいいことを思う。僕の言葉はちゃんとこの子に伝わるだろうか。


「人を気遣える優しい人や、見てるだけでこっちまで元気になれる明るい子。リーダーシップがあって引っ張ってくれる頼りになる存在・・・人の価値ってのは家柄だけじゃない」


「・・・・・・」


「周りの評価ではなく自分の目で見て接して、相手の事を知ってはじめて―― 『友情』ってものが芽生えると思う。友達になるのはそれからだ」


 撫でていた手を離し、少年の返答を待つ。

 これで家柄や肩書きが全てだと言ったらもうおしまいだ。丁重に帰っていただこう。


 だが、少年が口を開く前に離れていた執事が近づき、彼に何か耳打ちをする。少年が「まだいいだろう」と言うと、執事は申し訳なさそうに首を横に振った。どうやらこの後用事があるようだ。

 少年は少し渋った様子を見せたが、諦めたように溜息をつき此方を振り返る。


「・・・また、ここへ来てもいいだろうか?」


 また来るぞ!という傲慢な言い方ではなく、ジェノに許可をとるようなセリフに変わった。その少しの変化に彼に何かが届いたんだと感じ、自然と笑みがこぼれる。


「まぁいいけど、もう早朝はやめてね。・・・じゃ、また」


 扉を閉める間際、熱い眼差しを向けてくる少年と深々とお辞儀する執事の姿が見えた。

 閉まった戸に少女はもたれ、肩の力を抜くようにフゥと一息つく。


 おそらく彼は、無意識に助けを求めていたのだろう。まるで縋るような目と緊張で強張った身体に触れ、ジェノはそう感じた。

 あの小さな少年は傍にいてくれる人間を求めている。心から信頼できる人間を。


 自分にはメロスがいた。

 メロスがいなかったら、どうなっていただろう・・・? 考えただけでゾッとしてしまう、恐ろしいことだ。



 さてと、これからどうなるのかな? 僕はどうしたいのだろう。まぁ、なるようになるよね。ぅうーん、まだ眠い。もう一眠りするか!

 ジェノは大きく欠伸をしながら、二階へと引き返して行った。


 あ・・・名前聞くの忘れた。





「友達が増えるのはいいことでは?」


 スープを飲みながらジェノは「でもぉ・・・」と口ごもる。


「どうせその少年と関わったら厄介な事になる、とかお思いなのでしょう」


 図星を刺され言葉に詰まるジェノに、お見通しですよとマリーテアが微笑んだ。


「貴族を毛嫌いなさらず、そちらの世界にも踏み込んでみては如何ですか。意外に苦手意識が払拭されるかもしれませんわよ?」


「うーん、でも」


「そんなにその美少年とは親しくなれそうになかったのですか?天使みたいな美少年・・・私も見てみたかったですわ!」


「また来るって言ってたから見れるんじゃない?」


「まあ! では美味しいお菓子と紅茶を用意しなくてはいけませんね! 美少年は何がお好きかしらね。はぁ、何て良い響きなのかしら・・・美少年!」


 急にテンションが上がるマリーテア。

 そんなに『美少年』が好きだったのか、知らなかった。普段の淡々とした姿が嘘のようだな。人って色々な面を持ってるよね、意外な一面を知るのは面白い。


 ジェノは頬杖を付きながらデザートを口に運び、出会ったばかりの少年の姿をぼんやりと思い浮かべる。


 親しくって言ったって、あからさまに高貴な家柄の子なんだよなーあの子。それもおそらくこの国でトップクラスの・・・本当にそうなら近付きすぎるのは気が引ける。

 マリーテアの言うように、苦手意識みたいのがあるのだろう。ジェノの顔には疲れた色が浮かんでくる。


 ジェノに貴族の友達はいない。たまに遊ぶのは近くの町の学校に行っていない農家の子だ。

 この国は他の国と比べ、遥かに安い学費で学校に通うことが出来る。

 貴族となると高額な金額を出し整った施設の学園に入学するが、普通の学校なら農家の家の子もギリギリ通える金額だ。


 だがジェノは学校へ行っていない。学校へ通う事はこの国では義務ではないからだ。

 農家の子はそのまま家を継ぐので、学校へ行くよりも家の手伝いをする者が多い。


 行きたくなければ行かなくていい・・・6歳になったジェノに、ある日メロスが聞いた。


 『学校行く? ジェノが選んでいいよ』

 当時、人間不信になっていたジェノを大勢の他人の中に放り出すのは危険だと判断したメロスは、ジェノの気持ちを尊重した。


 6歳の自分は、知らない大人が近付く度に頭を抱え震え出したのだという。

 母親からの暴力が原因だろうと精神科医は診断した。不思議とメロスにだけは最初から懐いたそうだが、加減を知らない乱暴な子に殴られでもしたら、精神的に危ないかもしれない。


 メロスの傍から離れたがらなかったジェノは「行かない」と選択した。


 勉強はメロスとメイド長がみてくれるので問題はないし、むしろ学校に行ってる他の子より進んでるらしい。

 人見知りは10歳に成長した今ほとんど無くなり、途中からでも学校へ行こうかなぁと考え始めているくらいだ。

 13歳になる歳で中等部に切り替わる為、区切りのいい時期まで待った方がいいのだろうか?


 思案しながら肉料理を口に運んでいると後ろの扉が音を立てて開かれ、メロスが勢いよく飛び込んできた。


「大変だよっ、超やばいんだよー!」


 こっちは食事中なんだ、もう少し静かに入ってこいよ。

 後ろを振り返らずともジェノには誰が来たのかわかっていた。

 屋敷の当主であるメロス・モーズリストだ。

 毎度毎度くだらない事で彼がドタバタ走って来るのは、モーズリスト家ではよく見る光景だった。


 あーはいはい、今度はなんなんだ?


 おばけが出たのか?


 下着が盗まれたのか?


 忍者と主従契約したのか?


 僕が連れ去られる夢でもみたのか?


 いままで様々なくだらないことで大騒ぎした父親の姿を思い出し、ジェノは乾いた笑顔を張りつけ慌ただしい男へ視線を向けた。

 さぁ今回は何事ですかな、お父上?


「温泉が湧き出た――!」


 んん、なんて言った?


「・・・温泉が湧き出た?」


 満面の笑みで報告に走ってきたメロスにマリーテアが怪訝そうに尋ね、牛ステーキを頬張っていたジェノも手を止めて振り返る。

 いま、温泉って言った? 


「そう!チョロチョロだけど、掘ったらドバ―っと出るよ!凄いでしょー」


「はあ、何処に出たんですか?」


「庭!」


「庭ってうちの庭? 何でまた」


「嘘ですわよね?」


「嘘じゃないってば! 掘ったら出たから取り敢えず見に来てよ二人とも!」


 マリーテアと顔を見合わせ、ジェノは思いっきり眉を顰める。

 突拍子もない話だが、嫌な予感がした。

 庭に移動する途中バタバタと慌ただしい使用人達と擦れ違い、いつものんびりしている彼らが慌てている様子に、これはもしかしたらもしかするのでは?と歩を速める。



 ――ああ、もしかしてしまった。

 湯気らしきものが出ている泥水が大きな水溜りを形成し、ポコポコと泡が浮かんでは消えていく。


 屋敷の裏側、300m程行った地点にそれはあった。土地だけは広大に持っているモーズリスト家。約半径一キロの所に屋敷を囲む石塀があるのだが、実はもっと様々な場所にも土地を所有しているのだと数年前メロスから聞かされた。


 そんなにあるならちょっと売払って屋敷を改善しろよと思うのだが、このボロさが落ち着くんだよねーと笑いながら言われ、取り合ってもられない。

 落ち着かねぇよ、雨漏りで寝れないんだよこっちは!


 実際所有している土地の価値だけなら、モーズリスト家は没落貴族では決してない。むしろ上流貴族の仲間入りだ。

 しかし貴族としての責務であるとても重要なパーティーの類に一切参加していない為、廃れたなどという噂が自然と流れたのである。


 当主の仕事が不明というのも影響しているのだが、噂を毛ほども気にしないメロスにとっては痛くも痒くもない。


「一心不乱に掘ってたら湿ってきてね、変だなーとは思ったけど気にせず掘り続けたらこうなったんだよー」


 満足気に話すメロスにマリーテアがキレのいいチョップをおみまいし、「もっとやれー」とジェノは拳を握る。

 そもそもなんで庭なんか掘ってんだよ。

 よくよく周りを見渡すと大量に穴が空き、掘り出した土を一面に撒き散らかしていた。


「あ、ジェノそこら辺に落とし穴仕掛けといたから気を付けてね。使用人達をビックリさせるんだー」


 僕が昼寝している間にメロスの奴は一体何をやっていたんだ!?誰かあのバカの行動を説明してくれ!

 心底楽しげな父親に娘は頭を抱え、綺麗に隠された落とし穴を見つめて項垂れた。

次回からもっとコメディーっぽくしたいです。



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