アラスゼンの夢 後編
白い霧が時が立つにつれ、どんどんと深くなっていく。
――今度はいったい何が起こるのだ?
既に先ほどまで見えていた、もう一人のアラスゼンと魔王サタンの姿は見えない。
しばらくすると、白い霧の中からコツ……コツ……と足音が聞こえてきた。
――この足音……誰なのだ?
足音の主が白い霧から黒い人影のように、アラスゼンの近くへ向かって来る。
――その姿……まさか!?
足音の主の姿を視たアラスゼンは、驚愕した。
「久しぶりだね、アラスゼン」
足音の主の正体は、黒い短髪で中肉中背の黒い作務衣を着た青年。
狂気によってアラスゼンを生み出した存在。想造主だった。
――なぜ、我が主がここにいるのだ!?
それとも、我が主がこうしているのか?
「驚いているようだね。まぁ、私が生み出した空間に、君を招いたということだけど」
――招いただと? それはどういう意味だ?
「君に謝りたいことがあって、ね」
――我に謝りたいこと?
「そう、君に謝りたいことだ……悪役を押し付けて……二度ほど殺したりして……すまなかったと思う」
――……。
「……君には悪いことをしたと思う。だが、そうしなければ……私の精神が危うかったのも事実だし、否定もしない……」
――……仮想悪という存在は誰もが必要だ。
それは、我が主にとっても例外はない。
「……確かに、そうかも知れない。だが、仮想悪とか以前に……形はどうあれ、君は私の子供に……変わりは無いんだよ……」
――我が、我が主の子供……?
「私がやっていたことは……現実で言えば[幼児虐待]に等しいだろうね……だが、私は気付いたんだ。己の罪に……」
――……我は、存在していて良いのか……? 生きていて……良いのか……?
「……ああ、君は生きていて良いんだ……」
――……だが、我はもう、物語への介入はしないと決めた。
「……なら、新たな物語に……君の役割を与えよう。だが、それも……君が死ななければならないんだ……」
――それでも良い。魔王とは、物語に置いて滅ぶべきものなのだから。
「……そうかい。なら、新たな物語が紡がれる時まで、眠るといい。この黒水晶の中で……」
――……ああ……そうしよう……ちょうど……眠気が……来たことだしな……――。
こうして、神の狂気という罪を巡る物語は、幕を閉じた。
アラスゼンは眠りながら待ち続けるだろう。
新たな物語の舞台に立つ時を――。
end