アラスゼンの夢 前編
アラスゼンは夢を見ていた。
それは、アラスゼンには覚えのない光景だった。
ドームのような広がりに、禍々しい装飾が施された空間にて、己自身が魔王サタンと戦っている光景。
魔王サタンは覚えがある。
他ならぬ己に、新たな滅びをもたらしたのだから。
しかし、この広い空間には覚えが無い。
――どういうことだ?
このような場所など、我が記憶には一切無いぞ。
それに、あそこにいるのは、我とサタンではないか?
しかし、なぜサタンが、我と戦っているのだ?
我もそうだ。あそこに、もう一人の我がいるし、我も自身の意識が確かにいる。
いったいどういうことなのだ――?
アラスゼンは眼前の不可思議な光景に、疑問を抱いていた。
むしろ、疑問を抱かざるを得ないだろう。
魔王サタンがもう一人の己自身と戦っているのを、自分の意識で見ているのだから。
――まずは、我が身体はどうなっているのか把握しなければ……。
アラスゼンは自身の身体に意識を向けた。
現状を把握しなければ、取るべき行動が解らないからだ。
――ふむ、首は動くか。
だが、なぜ身体が黒い霧状になっているのだ?
さらには、この場から動けぬらしい。
他にも、奴らには我は見えていないのか?
我が声も聞こえていないのか――?
自身は彼らが視えるのに、彼らには自身が視えないという虚実感。
それにアラスゼンは囚われていた。
――なんだ? 視界が白く覆われてゆく……。
これはいったい、どういうことだ?
アラスゼンの視界は、不意に白い霧に覆われ始めた。
それは何かの予兆なのか、彼にも分からない――。