『帰郷』 四
四
ぱちん、と言う細い竹がはぜる音で月は我に返った。
慌ててあたりを見渡すと、既に陽が暮れ始めている。どうやら思いのほか長く物思いに耽っていたらしい。
水を満たしたバケツを慎重に運び、焚き火へとかけた。ぶすぶすと言う音を立てて、もうもうと灰神楽が舞う。
灰に囲まれた中心は、いつかの記憶と重なるような、焼け焦げた黒色――――――
眼を細め月はしばらくその黒い燃え跡を見つめていたが、くるりと踵を返すと、洗濯物へと向かって足を進めた。少ない洗濯物を取り入れて畳み、部屋の箪笥の中にしまい入れる。そしてその足で、戸締りを始めた。
騒々しい音を立てながら最後の雨戸を引いてしまうと、部屋の中は朝と変わらない暗闇に満ちた空間へと変わる。
漏れでる光を頼りに、鞄を拾い上げ、月は仏壇へ手を合わせた。
「また来るから」
静かに立ち上がり玄関へと向かう。きちんと靴下を履き、靴に足を入れた。
かちり、と音を立てて鍵をしめ、門へと向かう。
その時、一際大きな北風が吹き込んだ。目に手を当てて、風をやり過ごす。家の硝子が突っ張ったように鳴り響いた。
「もう、冬の風ね」
月は小声で独り呟く。
誰もいない、古びた日本家屋の中を隙間風が音を立てて通り過ぎる。少女が立ち去った部屋に、夕陽が優しく差し込んできた。
綺麗に拭かれ、黒光りする仏壇の前にちょこんと置かれたそれは――――――黄土色の小さな丸い石と、卯の花色の小さな巻貝だった。
閑章 『帰郷』 終