第20話 暴走する呪鎧、失われた理性
「なんだと」
「この能力解放は、10分しか持ちません。それ以上使い続ければ、代償として記憶を奪われる……。正直、俺はこの呪剣を使いたくありません。ですが……あなたに勝つためには、使うしかないんです」
「ハハハ。俺に勝つだと。生意気な後輩だ」
紅蓮寺は笑った。だが、久遠は勝つ気満々だった。
「紅蓮寺先輩行きます」
久遠は紅蓮寺に向かって剣を振った。
「カーン」
久遠はスピードを上げ、紅蓮寺が攻撃を防いだ直後に、再び剣を振った。
「な、なんだ、このスピードは」
紅蓮寺は防ぐだけで精一杯だった。
「クソッ!この俺がおされてるだと。あんまり調子に乗るなよ」
「爆炎連撃」
紅蓮寺は炎をまとった剣を振るい、久遠の連続攻撃を止めた。
「やっぱり、凄いですね、紅蓮寺先輩」
「フッ!」
紅蓮寺は鼻で笑った。
「お前には負けたくはないな。俺も本気で行くぞ」
紅蓮寺は本気を出した。身体全体を炎のオーラが包み込んだ。
「……なんだ、この気。近づくと燃えそうだ」
「久遠、かかってこい」
「うおぉー」
久遠はラストメモリアを振り下ろした。
しかし、剣が紅蓮寺の身体に届く寸前、炎のオーラに阻まれた。
「えっ……!」
久遠は驚き、すぐさま距離を取った。
「どうだ? 俺の炎のオーラは。これが俺の能力だ」
紅蓮寺は不敵な笑みを浮かべた。
「その呪剣でも、俺の炎のオーラは簡単には突破できないぞ」
「なっ……! ラストメモリアの攻撃が通らないだと……?」
久遠は驚きながらも、剣を握り直した。
紅蓮寺の身体を包む炎が、さらに激しく燃え上がった。
「今度は俺から攻めさせてもらう」
次は紅蓮寺が久遠に攻撃を仕掛ける。
「どうした。逃げるだけなのか?」
「……クソッ!どうすればいい……考えろ」
紅蓮寺が近づくたびに熱い炎が久遠を襲う。
「熱い。このままでは負ける」
紅蓮寺は剣を振り下ろした。久遠はそれを受け止めたが、勢いに押されて地面に転がった。
「ハァハァ……く……クソッ」
「これで終わりか?」
「……力が欲しいか?」
久遠の頭にラストメモリアの声が聞こえた。
「……力だと」
「そうだ。その代わり代償として記憶を奪う。それにこの技は危険な技だ」
「なんだと」
「じゃないとお前はアイツに負ける」
久遠は迷っていた。
「迷ってる暇はないぞ。さぁ、どうする?」
「迷ってる時間もない。ラストメモリアお前の力を貸せ」
「ほう。よかろう。だが、お前の記憶を奪わせてもらう」
久遠は叫んだ。
「呪鎧・黒蝕」
久遠は全身に鎧をまとった。その身体からは、禍々しいオーラが立ち上っていた。
「なんだそれ」
「ラストメモリアの能力の一つだ」
観戦してる人たちは驚いていた。
「朔、あんな能力見たことないぞ。」
「なんか、危険な匂いがする」
「この力……溢れてくる」
(まさか……俺が震えている)
紅蓮寺は震えていた。
「な、なんだよ……その力は……」
先ほどまで余裕の笑みを浮かべていた紅蓮寺の顔から、笑みが消えた。
(まさか……俺が、こいつに恐怖を感じているのか……?)
久遠はラストメモリアを構えた。
「この試合、もう終わらせましょう」
「ふざけるな! この俺が、お前なんかに負けるわけがないだろ!」
紅蓮寺は剣を強く握りしめた。
「爆炎連撃!」
紅蓮寺は炎をまとった剣を振るい、久遠に連続攻撃を仕掛けた。
しかし、久遠は一歩も引かなかった。
「遅い」
久遠は紅蓮寺の攻撃を次々とかわしていく。
「なっ……!」
紅蓮寺が驚いた瞬間、久遠は一気に距離を詰めた。
「これで終わりです」
久遠はラストメモリアを振り下ろした。
「ガキィィン!」
紅蓮寺は剣で受け止めたが、その衝撃で手から剣が弾き飛ばされた。
「まだ、終わらねえ!」
紅蓮寺は飛ばされた剣を拾い上げ、技を放った。
「紅蓮衝」
強烈な一撃を繰り出した。
久遠はそれをまともにくらった。
紅蓮寺の一撃をまともに受け、久遠の身体が大きく吹き飛ばされた。
「ぐっ……!」
「まともに食らったな。これで終わりか?」
久遠は立ち上がろうとした。しかし、身体に力が入らない。
(……このままじゃ、勝てない)
久遠はラストメモリアを握りしめた。
(もっと……力が欲しい)
『ククク……よかろう』
その瞬間、久遠を包む黒いオーラが一気に膨れ上がった。
「なっ……! まだ、こんなに力が残っているのか……!」
紅蓮寺は久遠に向かって剣を振る。
しかし、すぐに避けられ久遠は紅蓮寺に剣を振って傷を負わせた。
「ぐわぁぁぁ」
「紅蓮寺先輩これで終わりです」
久遠の動きが止まった。
紅蓮寺はその場から距離をとった。
その瞬間、久遠の様子がおかしくなった。
「グォォォ……!」
久遠の身体から、先ほどよりも禍々しい黒いオーラが噴き出した。
「おい……久遠?」
久遠は紅蓮寺の呼びかけにも反応しなかった。
次の瞬間、久遠は紅蓮寺に向かって襲いかかった。
「ぐっ……!」
紅蓮寺は攻撃を受け、後方へと吹き飛ばされた。
「試合はここまでだ! 全員、速やかに避難しろ!」
審判の声が試合会場に響き渡った。
綾人と小夜と雪乃は見ていることしかできなかった。
「朔はどうしちゃったんだ」
「わからない」
「それになにあれ?」
「俺も見たことないから知らないんだ」
三人の元に黒刃先生がきた。
「お前らなにしてる早く避難しろ」
「でも朔が」
「いいから避難しろ」
三人は避難を始めた。だが、小夜は途中で立ち止まった。
「おい。なにしてんだ早く避難するぞ」
「そうよ」
「ごめん。綾人君、ゆきちゃん。朔君が心配だから戻るね」
「なに言ってんだやめろ」
「そうよ。小夜が行っても、なにも出来ないでしょ!」
「それでも行くの」
小夜は試合会場に戻っていった。
久遠は暗闇の中にいた。
周囲には何もなく、どこまでも黒い空間が広がっている。
「ここは……どこだ?」
「ここはワシの精神世界だ」
突然、背後から声が聞こえた。
久遠が振り返ると、そこにはラストメモリアの姿があった。
「ラストメモリア……!」
「ククク。お前はワシの力を少しだけ借りたつもりだったのだろう?」
「そうだ。俺はお前の力を少し借りただけだ!」
「だが、力を借りた代償は小さくなかったようだな」
「どういう意味だ?」
「お前は今、ワシの呪いに意識を侵食されている。このままでは、お前自身の意識が闇に呑まれるぞ」
「なっ……!」
久遠は拳を握りしめた。
「そんなはずはない……! 俺は自分の意志で戦っていた!」
「ならば、なぜ暴走した?」
久遠は言葉を失った。
「……くそっ」
「ククク。どうする、久遠朔。このままワシに意識を侵食されるか? それとも、自分の意志で抗うか?」
その瞬間、久遠の足元から黒い手が伸びてきた。
「なっ……!」
黒い手は久遠の足をつかみ、闇の中へと引きずり込もうとする。
「くそっ! 離せ!」
久遠は必死にもがいたが、黒い手は次々と増えていった。
「このままでは……!」
「ククク。もう逃げられんぞ、久遠朔」
黒い手が久遠の身体を覆い始めた。
(俺は……このまま取り込まれるのか?)
久遠は必死に手を伸ばした。
「誰か……助けてくれ!」
その声は、果てしない暗闇の中へと消えていった。
先生たちは、暴走する久遠を紐で取り押さえようとしていた。
だが、久遠は力任せに紐を引きちぎった。
「抑えられない。このままでは我々も危ない!」
「諦めるな! ここで抑えないと、この学園が壊されるぞ!」
黒刃先生は、ほかの先生たちに向かって叫んだ。
「朔君、元に戻って……」
そこにいたのは小夜だった。
「避難しろって言っただろ。早く避難しろ」
黒刃先生が叫んだが、小夜は久遠から目を離さなかった。
小夜は久遠に近づいて行く。
暴走した久遠は、今にも小夜に襲いかかろうとしていた。
「朔君、元に戻って!」
小夜は暴走する久遠に向かって叫んだ。
「馬鹿!久遠に近づくな!」
黒刃先生の制止も、小夜には届かなかった。
「お願い……いつもの朔君に戻って!」
「グォォォ!」
久遠は小夜に向かって剣を振り下ろした。
「やめろおおお!」
黒刃先生の叫びが響いた。
「ザシュッ!」
久遠の剣が小夜を傷つけた。
「きゃあああ!」
小夜はその場に倒れ込んだ。
その瞬間だった。
久遠の意識を覆っていた暗闇に、一筋の光が差し込んだ。
「……なんだ?」
久遠は光に向かって手を伸ばした。
すると、光の向こうから誰かの手が伸びてきた。
その手をつかんだ瞬間、久遠の意識を覆っていた闇が崩れ始めた。
「ワシの呪いに抗うというのか……!」
ラストメモリアの声が響く。
「俺は……俺は……!」
久遠の意識が現実へと引き戻された。
黒い鎧が砕け散り、禍々しいオーラが消えていく。
「……俺は、いったい……」
久遠は目の前に倒れている小夜を見つめた。
「……小夜?」
久遠は震える手で、自分の持っていた剣を見た。
「……俺がやったのか?」
自分の手が、小夜を傷つけた。
その事実を理解した瞬間、久遠は言葉を失った。




