外伝 その婚約破棄を、私は止めなかった
この作品は、生成AIを使用して作成しています。
この作品は、「婚約破棄を宣言した王子、国家レベルで止められる」の外伝、宰相視点の物語です。
本編を必ず先にお読みください。
あの夜のことを、私は一生忘れないだろう。
――いや、忘れてはならない。
王宮大広間。春の舞踏会。
王太子が婚約破棄を宣言する、その瞬間までのすべてを、私は“知っていた”。
そして。
止めなかった。
「殿下、本当に、よろしいのですね」
開幕の数刻前。
控室で、私は最後の確認を行った。
王太子は不機嫌そうに眉を寄せる。
「何度も言わせるな。私は彼女を――エリシアを断罪する」
「断罪、でございますか」
「そうだ。あの女は、罪を犯した」
断言。
だが、その言葉の中身が空虚であることを、私は知っている。
証拠は薄い。
証言は偏っている。
そして何より――
(ご自身で検証なさっていない)
それでも私は、あえて問いを重ねる。
「公の場での宣言となります。撤回は極めて困難になりますが」
「構わん。むしろそのためだ」
彼は、強く言い切った。
――ああ。
ここで、止めることはできた。
できたのだ。
たとえば。
証拠の不備を指摘することも。
王族としての手続きを説くことも。
あるいは、国王陛下の名を出してでも。
だが私は。
「承知いたしました」
深く一礼した。
なぜ、止めなかったのか。
理由は三つある。
一つ。
(もはや“言葉”では届かぬ段階にある)
これまで何度も諫言はした。
遠回しに。直接的に。時には厳しく。
だが、彼は聞かなかった。
いや、正確には。
(“聞くつもりのある言葉”しか聞かない)
これは、王として致命的である。
二つ。
(ここで露見しなければ、もっと大きな破滅を招く)
婚約とは国家の契約だ。
それを軽視する者が、王位に就いたなら。
外交は崩れ、貴族は離反し、法は軽んじられる。
ならば。
(小さな破綻で止めるべきだ)
この舞踏会は、そのための“最小の舞台”であった。
三つ。
(すでに、準備は整っている)
私は視線を上げる。
鏡越しに映る、もう一人の人物。
王妃殿下。
静かに佇み、すべてを見通すその瞳。
「……よろしいのですね」
私の問いに。
「ええ」
王妃は、微笑んだ。
「“その時”が来たのですもの」
その声音に、迷いは一切なかった。
そして、舞踏会。
すべては予定通りに進んだ。
王太子は宣言し、
会場は静まり返り、
視線は一点に集まる。
――そして。
我々は、動いた。
「殿下。こちらへ」
礼法長が声をかける。
騎士団長が距離を詰める。
私は、出口を確保する。
完璧な連携。
王太子は抵抗したが、それも想定内だ。
数秒後には、扉の向こうへと消えていた。
別室。
重い扉が閉まる。
そこは、華やかな広間とは対照的な、静かな部屋。
「なぜ止める! 私は正しいことを――」
「殿下」
私は、その言葉を遮った。
静かに。
だが、逃げ場なく。
「“正しい”とは、何をもって判断なさいますか」
「それは……証言が――」
「誰の、でございますか」
言葉が詰まる。
私は続ける。
「裏取りはなさいましたか」
「……」
「反証の可能性は?」
「……」
「婚約の法的手続きは理解されていますか」
沈黙。
部屋の空気が、重く沈む。
そのときだった。
扉が開く。
入ってきたのは――王妃殿下。
そして、その後ろに。
エリシア嬢。
王太子の顔色が変わる。
「なぜ……」
「立場を、確認しに来たのです」
王妃は静かに言う。
そして。
卓上に、二つの杯が置かれる。
毒杯。
それが何を意味するか。
この場にいる者で、知らぬ者はいない。
私は、目を閉じた。
(ここから先は)
理屈ではない。
覚悟の領域だ。
「あなたは、婚約を破棄すると言った」
王妃の声。
「それは、契約の否定。ひいては王家の責任の否定」
一歩、踏み出す。
「ならば、その責任をどう取るのか」
沈黙。
王太子は、何も言えない。
エリシア嬢が、杯を取る。
迷いはない。
王妃もまた、同じように手にする。
その光景を見て。
初めて、王太子の顔が崩れた。
「やめろ……」
かすれた声。
「やめてくれ……!」
私は、動かなかった。
騎士団長も。礼法長も。
誰一人として、止めない。
それが、答えだった。
王とは。
責任とは。
言葉の重みとは。
それを理解するための、最後の機会。
王太子は、叫んだ。
懇願した。
そして――
ようやく。
理解した。
あの瞬間。
彼は初めて、“王族になった”。
皮肉なことに。
その後のことは、多くを語るまい。
ただ一つ言えるのは。
あの婚約破棄は。
失敗ではない。
必要だったのだ。
私は、宰相として。
あの場で、止めることもできた。
だが、止めなかった。
それが最善であると、判断したからだ。
今でも、ときおり問う。
あれでよかったのか、と。
だが。
もし同じ状況に戻ったとしても。
私はきっと――
同じ選択をするだろう。
それが。
国を預かる者の、責任なのだから。




