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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

国家観

外伝  その婚約破棄を、私は止めなかった

作者: たまみつね
掲載日:2026/04/11

この作品は、生成AIを使用して作成しています。


この作品は、「婚約破棄を宣言した王子、国家レベルで止められる」の外伝、宰相視点の物語です。

本編を必ず先にお読みください。

あの夜のことを、私は一生忘れないだろう。


 ――いや、忘れてはならない。


 王宮大広間。春の舞踏会。

 王太子が婚約破棄を宣言する、その瞬間までのすべてを、私は“知っていた”。


 そして。

 止めなかった。


 「殿下、本当に、よろしいのですね」

 開幕の数刻前。

 控室で、私は最後の確認を行った。


 王太子は不機嫌そうに眉を寄せる。

「何度も言わせるな。私は彼女を――エリシアを断罪する」

「断罪、でございますか」

「そうだ。あの女は、罪を犯した」

 断言。


 だが、その言葉の中身が空虚であることを、私は知っている。

 証拠は薄い。

 証言は偏っている。

 そして何より――

(ご自身で検証なさっていない)


 それでも私は、あえて問いを重ねる。

「公の場での宣言となります。撤回は極めて困難になりますが」

「構わん。むしろそのためだ」

 彼は、強く言い切った。


 ――ああ。

 ここで、止めることはできた。

 できたのだ。


 たとえば。

 証拠の不備を指摘することも。

 王族としての手続きを説くことも。

 あるいは、国王陛下の名を出してでも。


 だが私は。

「承知いたしました」

 深く一礼した。


 なぜ、止めなかったのか。

 理由は三つある。


 一つ。

(もはや“言葉”では届かぬ段階にある)

 これまで何度も諫言はした。

 遠回しに。直接的に。時には厳しく。

 だが、彼は聞かなかった。

 いや、正確には。

(“聞くつもりのある言葉”しか聞かない)

 これは、王として致命的である。


 二つ。

(ここで露見しなければ、もっと大きな破滅を招く)

 婚約とは国家の契約だ。

 それを軽視する者が、王位に就いたなら。

 外交は崩れ、貴族は離反し、法は軽んじられる。

 ならば。

(小さな破綻で止めるべきだ)

 この舞踏会は、そのための“最小の舞台”であった。


 三つ。

(すでに、準備は整っている)

 私は視線を上げる。

 鏡越しに映る、もう一人の人物。

 王妃殿下。

 静かに佇み、すべてを見通すその瞳。


「……よろしいのですね」

 私の問いに。


「ええ」

 王妃は、微笑んだ。

「“その時”が来たのですもの」


 その声音に、迷いは一切なかった。



 そして、舞踏会。

 すべては予定通りに進んだ。

 王太子は宣言し、

 会場は静まり返り、

 視線は一点に集まる。


 ――そして。

 我々は、動いた。

「殿下。こちらへ」

 礼法長が声をかける。

 騎士団長が距離を詰める。

 私は、出口を確保する。

 完璧な連携。

 王太子は抵抗したが、それも想定内だ。

 数秒後には、扉の向こうへと消えていた。



 別室。

 重い扉が閉まる。

 そこは、華やかな広間とは対照的な、静かな部屋。

「なぜ止める! 私は正しいことを――」

「殿下」

 私は、その言葉を遮った。

 静かに。

 だが、逃げ場なく。


「“正しい”とは、何をもって判断なさいますか」

「それは……証言が――」

「誰の、でございますか」

 言葉が詰まる。


 私は続ける。

「裏取りはなさいましたか」

「……」

「反証の可能性は?」

「……」

「婚約の法的手続きは理解されていますか」

 沈黙。


 部屋の空気が、重く沈む。


 そのときだった。

 扉が開く。

 入ってきたのは――王妃殿下。

 そして、その後ろに。

 エリシア嬢。


 王太子の顔色が変わる。

「なぜ……」

「立場を、確認しに来たのです」

 王妃は静かに言う。


 そして。

 卓上に、二つの杯が置かれる。

 毒杯。

 それが何を意味するか。

 この場にいる者で、知らぬ者はいない。


 私は、目を閉じた。

(ここから先は)

 理屈ではない。

 覚悟の領域だ。


「あなたは、婚約を破棄すると言った」

 王妃の声。

「それは、契約の否定。ひいては王家の責任の否定」

 一歩、踏み出す。

「ならば、その責任をどう取るのか」

 沈黙。


 王太子は、何も言えない。

 エリシア嬢が、杯を取る。

 迷いはない。

 王妃もまた、同じように手にする。

 その光景を見て。


 初めて、王太子の顔が崩れた。

「やめろ……」

 かすれた声。

「やめてくれ……!」


 私は、動かなかった。

 騎士団長も。礼法長も。

 誰一人として、止めない。

 それが、答えだった。


 王とは。

 責任とは。

 言葉の重みとは。

 それを理解するための、最後の機会。

 王太子は、叫んだ。

 懇願した。

 そして――


 ようやく。


 理解した。


 あの瞬間。

 彼は初めて、“王族になった”。

 皮肉なことに。




 その後のことは、多くを語るまい。


 ただ一つ言えるのは。

 あの婚約破棄は。

 失敗ではない。


 必要だったのだ。


 私は、宰相として。

 あの場で、止めることもできた。

 だが、止めなかった。

 それが最善であると、判断したからだ。


 今でも、ときおり問う。

 あれでよかったのか、と。


 だが。

 もし同じ状況に戻ったとしても。


 私はきっと――

 同じ選択をするだろう。


 それが。



 国を預かる者の、責任なのだから。

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