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婚約破棄、結構ですわ。ただし私が裏で支えていた王室予算三万枚、今すぐ一括返済してくださるかしら?  作者: 朝比奈ミナ


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第20話:『免罪符の発行、それは「無許可の通貨発行罪」に当たりますわ』

「……何だと? もう一度言ってみなさい、枢機卿」


 皇帝アラリック様の、地を這うような低い声が工房内に響き渡りました。

 彼の背後で、私は扇を口元に当て、目の前の老人が口にした「提案」のあまりの滑稽さに、危うく吹き出しそうになっておりましたわ。


 白銀の法衣を泥で汚した枢機卿ガラッゾは、震える手で懐から数枚の金色の羊皮紙を取り出し、それを祭壇に捧げるように掲げました。


「陛下、そしてエレノラ顧問。……金貨五十万枚という法外な罰金、現金で用意するのは不可能です。ですが、この『大免罪符』があれば話は別……! これ一枚につき、金貨一万枚分の大罪が赦される。帝国が抱える累積赤字も、民の罪も、これですべて清算できるのです。これは神が認めた『天界の紙幣』も同然!」


 ……まあ。

 この土壇場で、その汚い手札を切ってくるとは。


 私はゆっくりと歩み寄り、枢機卿が差し出したその「紙切れ」を、汚物でも見るような目で見下ろしました。


「枢機卿様。……あなた、今、何とおっしゃいました? 『天界の紙幣』……? ふふ、あはははは!」


 私はこらえきれず、高らかに笑い声を上げました。

 バルディア王立工房の冷たい壁に、私の笑い声が反響します。


「何がおかしい! これは聖なる救済の証だぞ!」


「いいえ、おかしいのはあなたの頭の中ですわ、枢機卿様。……シエル、帝国通貨管理法、第十四条を読み上げなさい」


 影から音もなく現れたシエルが、冷徹な声で告げました。


「『帝国領内において、皇帝の認可なく「債務の弁済に使用可能な代替物」を発行、流通させる行為は、通貨偽造罪および無許可通貨発行罪に当たる。首謀者は極刑、関与した組織は全資産の没収対象となる』……以上です」


 枢機卿の顔から、急速に血の気が引いていくのが分かりました。


「枢機卿様。あなたが今なさった行為は、神聖な救済などではありません。……帝国が発行する『金貨』という唯一の決済手段を無視し、勝手に価値を捏造した『偽造紙幣』を流通させようとした……明白な国家反逆罪ですわ」


「な、何を馬鹿な! 免罪符は千年前から続く教会の伝統だ!」


「伝統? いいえ、『未認可の金融商品』ですわね。……シエル、この免罪符の裏付け資産アセットを答えなさい」


「はい。調査の結果、教会の地下金庫には、発行済みの免罪符を裏付けるだけの金銀は一切保管されておりませんでした。つまり、この免罪符は『実体のない信用創造』……平たく言えば、ただのポンジ・スキーム(詐欺)ですわ」


 シエルの言葉に、周囲で控えていた帝国騎士たちが、軽蔑の眼差しを枢機卿へ向けました。

 信仰という名のヴェールを剥ぎ取ってしまえば、残るのはただの「実体のない借用書」を売り捌く詐欺集団の姿だけ。


「……陛下。これ以上の対話は無意味ですわ」


 私はアラリック様に視線を送りました。

 彼は満足げに頷き、右手を高く掲げました。


「ガラッゾ枢機卿、並びに聖教会。貴様らを『大規模通貨偽造』および『組織的脱税』の現行犯で告発する。……今この瞬間をもって、帝国全土の教会資産を凍結し、聖教会の『法人格』を剥奪する!」


「ば、馬鹿な……神が、神が許さぬぞッ! 民が黙ってはいない!」


「民なら、すでに味方に付けましたわ」


 私は、シエルに命じて工房の扉を開けさせました。

 そこには、教会の重税と「免罪符を買わねば地獄に落ちる」という脅しに苦しんできた民衆たちが、松明を手に集まっていました。


「皆様! 教会が皆様から奪った金は、神の元には届いておりませんでしたわ! 全てはこの枢機卿のワインと宝石に変わっていたのです! ……今から、教会の倉庫を解放し、不当に徴収された食糧を全額払い戻し(リファンド)いたしますわよ!」


 うおおおおお、という地鳴りのような歓声が上がりました。

 信仰は一瞬にして「怒り」という名の濁流に変わり、枢機卿へと牙を剥いたのです。


 騎士たちに引きずられていく枢機卿の悲鳴を聞き流しながら、私はアラリック様の隣に立ちました。


「お疲れ様、エレノラ。……これで教会も終わりか?」


「いいえ、陛下。これはまだ『不良債権の整理』に過ぎませんわ。……本物の収益(利益)は、教会の奥深くに眠っているようですもの」


 私はシエルを伴い、混乱する街を抜けて、巨大な大聖堂の地下へと向かいました。

 重厚な魔導の鍵を、シエルが物理的な「資産差し押さえの法力」で強引にこじ開けます。


 埃っぽい地下廊下を通り、突き当たりの隠し部屋。

 そこには、宝石も金塊もなく……ただ、透き通るような白銀の髪を持つ少女が、魔法の鎖に繋がれたまま、静かに祈りを捧げていました。


 彼女が顔を上げた瞬間、部屋の空気が一変しました。

 その瞳に宿る魔力は、リリアナのような浅はかなものではない……。

 万物を癒やし、あるいは滅ぼす、圧倒的な『本物の奇跡』。


「……あなたが、わたくしの新しい『投資先』かしら?」


 私は少女の前に跪き、最高に不敵で、最高に魅力的な契約スマイルを提示しました。


「セレスティーヌ様。……神に祈るのはもうお止めなさい。……これからはわたくしと共に、その奇跡を『世界を買い叩くための力』に変えてみませんこと?」


 聖女と呼ばれた少女の瞳に、初めて微かな光が灯りました。

 それは、聖教会の崩壊を決定づけ、私の帝国が大陸を完全支配するための、最後の一撃となるはずですわ。

お読みいただきありがとうございます。

「免罪符は偽札」。

神聖な宗教的アイテムを、法律の力でただの「犯罪の証拠品」に変えてしまうエレノラ様、いかがでしたでしょうか。


信仰という見えない価値を、数字で蹂躙する快感……。

ようやく「本物の聖女」セレスティーヌが登場しました。

彼女を救い出したエレノラ様が、今度は宗教をどう「ビジネス」として再構築していくのか。

そして、逃げ場を失った旧王国組や転生者たちが、この巨大な変化にどう反応するのか。


続きが気になる!と思ってくださった方は、ぜひ【ブックマーク】と【評価】をお願いいたしますわ。

皆様の応援一つ一つが、エレノラ様の「教会のリフォーム予算」に変わりますのよ。


次回、第21話は『地下牢の「真の聖女」。あなたに神以上の価値プライスをつけて差し上げますわ』。

奇跡を証券化するエレノラ様の、さらなる悪魔的な手腕をお楽しみに!

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