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異世界転移してみたら、いきなり賞金首になっていた件  作者: 阿部 祐士
第1章 異世界転移してみたら、賞金首になっていた

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仮面の正体

 海斗が近づこうとすると、一定の距離を保ちながら、リサリアは後ずさりした。

「……ごめんなさい、私、何も見ていないから。誰にも言わないから。だから許して……」

 リサリアは口を両手で覆ったまま、涙目になって訴えかけた。

 海斗は迷った。この言葉を信じていいものか、と。しかし、リサリアが半身になってセリフィアの方へに逃げ出そうとしたとき、海斗は心を決めた。

 海斗は逃げようとするリサリアの両肩を押さえ、強引に振り向かせた。リサリアは声を震わせながら

「本当に誰にも言わないから……お願い、殺さないで」と涙ながらに言った。

「……ごめん」

 海斗はリサリアの目を三秒間凝視した。リサリアの恐怖の表情は、次第に頬が赤くなり切ない表情に変わった。リサリアは海斗の胸に飛び込むと、海斗の顔を見上げながら

「私、絶対このことを他言しないから……だから、ずっとあなたの側にいさせて……」と懇願してきた。

 海斗は胸が痛かった。こんな形でリサリアと恋仲にはなりたくなかった。しかし、チャームのスキルを使わなかったら、教会や冒険者ギルドに密告され、海斗だけでなく結衣やアリシアも刺客に襲われる可能性があった。

「仕方がない。そう……仕方がなかったんだ」

 海斗は自らに言い聞かせるようにつぶやいた。


 戦闘が終わって、アリシアや結衣、それに巫女らしき少女とその護衛二人が海斗を中心に集まってきた。それを見たリサリアは海斗の胸から飛び出して離れると、赤く染まった顔を隠すように、そっぽを向いた。自分のしたことに対して恥ずかしくなったようだ。

 アリシアは海斗に近づいてくると

「どうやら盗賊一人()ったみたいだね。初戦としては十分な戦績だ」と評価した。

「大丈夫、海斗? でも盗賊達も頭目らしき人を除いて、皆倒したみたいね」と結衣は、ほっとした様子だった。

 巫女らしき少女も近づいてきて、リサリアに向かって

「大丈夫でしたか?」

と優しい口調で聞いてきた。それに対してリサリアは

「はい、おかげ様で私は無事です……名乗るのがまだでした。私はリサリアと言います。巫女様および護衛の方々にはご迷惑をおかけしました。本当にありがとうございます」

と神妙な面持ちで頭を下げた。

 次に、巫女らしき少女は海斗の方を向いて言った。

「ご助力ありがとうございました。おかげさまで、生きてセリフィアまで行けそうです」

「あなた達もセリフィアに?」

「無礼だぞ。こちらはエルシオン王国の王族でローレンシア教の巫女、エリザベス・ヴァレリア様だ」

と護衛の一人が怒鳴ってきた。

 海斗は目を見開いた。まさか、王族だったとは思いもよらなかったのだ。

「いいのです、トーマス。今は、隠密で動いている身。王族であることを誇っている場合ではありません」

「……わかりました、エリザベス様」

と言うと、トーマスは、今度は海斗達の方を向いて

「せめて、名前に様を付けろ、様を」

と注文してきた。

 海斗は

「エリザベス様、あなたの目的やなぜここにいるか、俺達は知らない方がいいみたいですね」

とエリザベスに向かって小声で尋ねた。

「その通りです。それに私がここにいたことも他言しないでいただけると助かります」

 エリザベスは夕日が沈む方向を見ながら、落ち着いた口調で提案した。

「もう日が暮れます。行き先は同じセリフィアですから、歩きながら話しましょう」

 すると、アリシアは

「ちょっとだけ待ってくれ」

と言うと盗賊達の死体から耳をナイフで切り取っていった。冒険者ギルドに盗賊退治の証拠として持って行くようだ。

 それが終わるのを見計らって、リサリアは

「せめて、セリフィアまで私に案内をさせて下さい」

と言って、六名の先頭を歩き始めた。

 海斗は歩きながら、挨拶がてら名を伝えた。

「ところで、こちらが名乗るのがまだでした。僕はカイル。鎧の彼女がアリシア、盗賊姿がユリッサです。よろしくお願いします」

 エリザベスは少し笑みを漏らすと

「ユリッサ……うちの猟犬と同じ名前ですね。あっ、ごめんなさい、失礼でした」

と途中で失言に気づいたようで、海斗達に謝ってきた。結衣は相も変わらずアリシアを睨みつけたが、そっぽを向いて口笛を吹いているアリシアには蛙の面に小便のようだった。


 セリフィアに着くと、リサリアは

「セリフィアにようこそ! 今でこそ宿場町ですが、昔は醸造の村だったんです。今でも葡萄ジュースとワインはおいしいと評判なんです。ゆっくりとご滞在下さい」

と町を紹介した。

 そして、リサリアはエリザベス達に向かって

「エリザベス様およびその護衛の皆様、もしまだ宿屋が決まっていなかったら、ウチの宿屋に泊まって下さい。もちろん、お代はいただきません」と勧誘した。が、エリザベスは

「お気持ちは嬉しいのですが、既に他の宿屋を予約しています。またの機会に泊まらせて下さい」と丁重に断った。

「……そうですか。わかりました」

 リサリアは恩を返しておきたかったのか、少し残念そうに言った。

 すると、アリシアが

「お取り込み中、悪いんだけどさ、まだ報奨金をもらっていないんだよね」と催促した。

「すみません、今手持ちの140ゴールドを渡すと、今日の宿屋代も払えなくなります。申し訳ないですが、明日ガレアの銀行に立ち寄りますので、それまで待っていただけないでしょうか?」

とエリザベスは答えた。

「それは、ローレンシア教の神に誓ってかい?」

「……ローレンシア教の神に誓ってお支払い致します」

 アリシアはその言葉を聞くと、言質を取って安心したのか笑みを浮かべながら

「まあ、こちらとしては、払ってもらえればそれで構わないんだけどさ」

と言った。


 海斗達はエリザベス一行と別れると、石畳の通りを歩いてリサリアの宿屋の前まで来た。


 海斗達が宿屋に入っていく様子を近くの木々に隠れて見ている者がいた。先程逃げおおせた盗賊の頭目だ。頭目は海斗の素顔を思い出しながら、

「あいつらが泊まる場所は……この宿なのか。だったら、こちらも急いで手配をしなくては」

と、にやりと笑った。


 今回も読んでいただき、ありがとうございました。


 無罪であることを釈明する旅は始まったばかりですが、海斗は早くも二度、魅了のスキルを使うことにななってしまいました。

 リサリアとの関係、そして盗賊の頭目の動き──

 海斗はこの先、どうなっていくのでしょうか……。


 次回もよろしくお願いいたします。

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