疑念
結衣はついでとばかりに、アリシアに聞いた。
「それで、どういう理由で私たちが賞金首になったのか、知っている?」
「それを私に聞く? あんたの薄い胸に手を当てて、よーく考えてみた方が早いんじゃないの?」と、アリシアは少し呆れた様子で結衣の胸をジロジロ見ながら言った。
「あんたじゃなくて、結衣よ、結衣。それに私は成長期でこれから大きくなるんだからね!」
結衣はぷりぷりと怒った様子で言った。
「いや、本当に俺たちに心当たりがないんだ、アリシア。もし理由を知っているのなら教えてくれないか?」
アリシアは海斗の方を振り返ると、優しいまなざしで
「そうなのダーリン? 悪いけど、ダーリンたちがローレンシア教の宗教異端者として賞金首になっていること以外、何も知らないんだ。教会から依頼を受けた冒険者ギルドも詳しい事情は知らないようだった。ごめんね、ダーリン」と、すまなそうに言った。
アリシアの露骨な態度の違いに、結衣はますますおもしろくなさそうな顔をした。
「宗教異端者? 悪魔や他の宗教を信仰しているとか、ローレンシア教の教えに反している言動を私たちがしているということ?」と、結衣は信じられないといった表情をした。
「アリシア、事情があって詳しく言えないのだけれども、俺たちついさっき、この国に入ったばかりなんだ。異端者と誤解されるような言動をしていたとしても、情報が回るのが早すぎる。まるで入国前から賞金首にされていたようだ」
アリシアは海斗の腕をさらに強く抱きしめながら、結衣に不憫そうな目を向けて
「かわいそうなダーリン。私がダーリンのことを守ってあげる。あの薄い胸の、お邪魔虫女はともかく」と言った。
「だから、結衣よ、結衣。それに今度胸が薄いって言ったら承知しないんだから!」と、結衣は遠慮なく声を張り上げた。
『胸が薄いのは駄目』で、『お邪魔虫』はいいんだ? 海斗はそう思いながらも、このやりとりを意図的にスルーして、二人に意見を尋ねた。
「さて、これからどうしたものか。これから刺客にびくびく怯えながら、ずっと逃げ回らなければいけないのか?」
「本当は賞金首になった理由を調べて、ローレンシア教の偉い人の誤解を解くのが一番いいのだけれどもね……」
結衣の言葉を聞いてアリシアは、
「もし、お邪魔虫が言った通りにするのなら、最終的にはローレンシア教皇国に行くことになるかもしれないな」と付け加えた。
「とりあえずは結衣の方針でいくとして……それにしても賞金首になった理由がわからないと弁明のしようもないからな。とにかく面が割れているのをどうにかしないと。町で聞き込みをしたくても現状ではできないだろう? かなり目立つが仮面でもつけて行動するか」
「それなら、いい仮面がある。私の行きつけの道具屋に、着けても人の注意を惹かない魔法が施された仮面を売っている。そこで仮面を買えばいい」
海斗はなるほど、という顔をして、
「それはいい。だけども、訳あって今俺たち手持ちの金がないんだ。もし可能なら、後から必ず返すから仮面の代金を貸しといてくれないか?」と少しばつが悪そうに言った。
「いいよ、二人の出会いを祝して、私がダーリンにプレゼントしようじゃないか」
と言って、アリシアは任せておいてくれといった顔で海斗に対して親指を立てた。
「それは助かるわ」
結衣はアリシアと会って、初めてうれしそうな顔をした。しかし、次の瞬間アリシアは
「お邪魔虫女には貸しだからね、貸し。利息をつけて返してもらうからな」
と、にべもなくつきはなした。
もはやアリシアには結衣と呼ぶ気もなければ、仲良くしようとする気もさらさらないことを悟ったのだろう。結衣はそれ以上何も言わなかった。
「じゃあ、ダーリン、戻ってくるまで、冒険者たちに殺されずにいろよ~」
ガレアに通じる森の細道をアリシアは歩きながら、海斗たちの方を振り返って、冗談とも本気とも取れる調子で言った。
「ハハハ、せいぜい殺されないように努力するよ」
森の中で海斗は、他の冒険者が結衣を尾行して来ないか不安に思いながら、アリシアの帰りを待った。時間が経つほど、その不安はじわじわと強まっていった。
「ところでさ、結衣、チャームのスキルってさ……いつまで効くんだ?」
「神様によると、海斗の顔を一週間以上見ないと、海斗の存在や思い出を忘れちゃうらしいの」
「……また神様かよ。それで、元の世界に戻る方法は?」
「それは、何も言ってなかった」
海斗はため息をついた。元の世界に帰れる見込みもなく、賞金首として生きる時間は、いつ刺客に狙われるかわからない不安に満ちている。胸の奥で、不安と焦燥感が次第に冷静な理性を侵食していく。
「それとね、チャームのスキル、乱用しない方がいいわよ。恋人が増えすぎると、それに怒って海斗のことを刺そうとする女性だって出てこないとも限らないわ」
「……そいつは怖すぎる。というか、ご勘弁願いたいな」
森の奥から鳥の羽音が響いた。海斗は思わず肩をすくめる。
「本当にアリシア、戻ってくるんだよな……」
結衣は黙っていた。先程の鳥だろうか、森の奥から人の悲鳴にも似た鳴き声が響き渡る。見知らぬ森の中で、いつ帰ってくるかわからないアリシアを待つ海斗の不安は、さらに深まっていった。
お読みいただきありがとうございます。
結衣とアリシアの掛け合いを少しはお楽しみいただけたでしょうか。
賞金首の理由の方はまだ不明のままですが、少しずつ真相に近づいていきます。
また、チャームのスキルも完全なチートスキルとはいかないようです。近い将来、海斗は本当に女性に刺されてしまうのでしょうか(笑)。
次回は、アリシアが持ち帰る仮面とともに、 物語が少し動き始めます。
どうぞお楽しみに。




