白煙の終末――大司教の影と魔法の咆哮
海斗たちは八角形広場が見えるところまで来た。白いローブを着たローレンシア教の巫女らしき者が中央に、その後ろにエルシオン王国兵らしき者が三人並んでいた。海斗は目を凝らした。白いローブの巫女――その顔に見覚えがあった。……エリザベスだ。
海斗は驚きながらも
「あなたはエリザベスさんですよね。……俺たちに付きまとわないという約束は、最初から守る気がなかったのですか?」
と静かに尋ねた。が、その語尾には言い知れない怒気を含んでいた。
「言い訳をする気はありません……。教皇からあなた達を討伐する命を受けました。そして何より、アンナベルお姉様が、Kaito、あなたのチャームのスキルで魅了されました。お姉様の魅了の状態を治すには、あなたを殺すしかない……」
それを聞いた海斗は、
「……あなたが討伐の命を受けたことはわかった。しかし、チャームのスキルに関しては、あなたの考えは間違っている。俺のチャームのスキルは、一週間俺の顔を見なければ、俺の存在や俺との思い出を忘れるようになっている――俺が死ぬ必要はない」
それを聞いてエリザベスは、
「本当ですか……? 本当に、一週間会わなければ、お姉様の魅了の状態は解けるのですか?」
と身を乗り出すように尋ねた。海斗は
「ああ、俺はあなたと違って嘘は言わない。嘘だったら、今ここで自決してもいい!」
と言い放った。
エリザベスは目を閉じ、何かを感じている様子だったが、
「……あなたのオーラを感じるに、嘘は言っていないように思われます――ところで、Kaito、あなたは何をやって宗教異端者として弾劾されたのですか?」
と何かを含むような言い方をした。
海斗は
「それは、こちらが聞きたいぐらいだ。宗教異端者として弾劾されるようなことをした覚えはない。だから、教皇様に無実であることを弁明するために、ローレンシア教皇国に向かう旅をしているんだ!」
と叫んだ。
エリザベスは再び目をしばし閉じていたが、キッと何かを決意したような表情を見せた。
「……わかりました。では、Kaito、あなたの言うことが本当だと言うのなら、私が仲介しますので、教皇様に会ってみませんか?」
それを聞いたトーマスは慌てて
「いけません、エリザベス様。そんなことをすれば、カリスト様次第で我々も宗教異端者として弾劾されます!」
と諫めた。
その時、海斗達の背後からあたりに通るような声が聞こえた。
「トーマス殿の言う通りです。警告したはずです! Kaitoらと戦わないのなら、宗教異端者として弾劾しますと! さあ戦うのです、エリザベス。Kaitoらの討伐――それこそが、教皇様の絶対的な命令なのです!」
声のする方を見ると、広場を見渡せる石造りの廃屋の二階にローレンシア教の大司教らしき装束を着た高齢の男がコチラを見ていた。
「……ダーリン、ラスボス降臨、と言った感じだな」
「アイツを捕縛したら、事態を収拾することができるだろうか?」
二人の会話を聞いていたレイナは
「少なくとも、エリザベスさんたちの罪はしばらくの間猶予されるのでは?」
と言った。
しかし、結衣は
「向こうの副官は戦う気満々のようよ」
とエリザベスたちの方を指さした。
「エリザベス様、命に背くことをお許し下さい! ギルバート、魔法兵とエリザベス様をお守りするぞ。魔法兵、Kaitoらに向かって爆破系の魔法だ!」
魔法兵が「火と風の精霊よ……」と唱え始めると、魔法兵の足元に、紅と蒼の紋様が絡み合う魔法陣が浮かび上がった。空気が震え、熱と風が渦を巻き始める。
アリシアは
「ヤバいぞ、ダーリン。火と風の精霊の組み合わせは爆破系の魔法だ。皆、この場から散れ!」
と叫んだ。結衣は
「何よ、何よ」と動揺して右往左往した。
レイナは
「いいから、早くその場から離れて下さい!」
と叫ぶ。
海斗は結衣の手を引っぱって廃屋の壁に身を隠そうとする。レイナ、アリシアもその場から散る。
「……我にその怒れる灼熱と、衝撃を呼ぶ烈風を与え給え、デトネーション!」
と魔法兵が詠唱を終えると、咆哮のような音とともに炎の柱が空へと伸びていった。
熱風が壁の陰にいた海斗の肌を焼き、崩れかけていた廃屋が爆風で吹き飛ぶ。
隠れていた壁に瓦礫が飛び散り、直後に鼓膜を突き破るような爆音が広場を駆け抜けた。
……そして、炎が消えた後、一瞬だけ音も風も止まった。まるでこの世の全てが息をするのを止めたかのように。
海斗が魔法兵の方を見ると、エリザベスが護衛の兵の一人に抱かれて、強制的に後ろに下げさせられていた。そして、その兵は、ほんの一瞬だけ、戸惑った様子を見せたような気がした。すると、その兵が手刀を構えるとエリザベスの首筋に軽く一撃を加えた。エリザベスは力なく崩れ落ちた。もはや、エリザベスは軍の指揮官でないどころか、作戦遂行に邪魔な存在なのか?
耳鳴りが残る中、海斗はこめかみを押さえながら言った。
「アリシア、どうする? 護衛の兵を突破して、魔法兵を斬るか?」
すると、上の方から呪文を詠唱する声が聞こえてくる。廃墟となった塔状建築の三階――かつて貴族が住んでいたと思われる石造りの邸宅の最上階に、大司教らしき男は陣取っていた。
「全知全能なる神よ、敬虔なる者達に御力を分け与え給え、フィジカルエンハンス!」
詠唱が終わると、敵の護衛二人の体が青白い光に包まれた。
「ダーリン、あれは身体強化魔法だ。他にも兵士の動きを速くしたり、防御力を増したりする魔法もある。そんなの一通りかけられた日には、私だって太刀打ちできなくなる」
「だったら、あの大司教っぽいじいさんを捕縛もしくは斬るしかないのか?」
アリシアは頷きながら
「それを優先すべきだ。『パーティで最初に倒すべきは、魔法使いとヒーラー』ってね。ダーリン、私はあのじいさんを捕縛する。ダーリンたちは、時間稼ぎを頼む」
と言った。
海斗は首をかしげながら
「そんな強化された兵士二人を相手に、俺が持ちこたえられるのか……?」
と懸念を伝えたが、アリシアは
「大丈夫。魔法兵の魔素が残っていて魔法を使えるうちは、魔法兵を守るために守備に専念してくるはず。特に爆破系の魔法の場合、敵と戦っていたら自分も巻き添えになる可能性が高いしね」
と答えた。
「……ということは、何か、先程の爆破系の魔法を何度かかわして、時間稼ぎをしろと?」
「要はそういうこと!」
とアリシアは平然と言った。
今回もお読みいただきありがとうございました。
白煙を合図に始まった対面は、大司教の命令と爆破魔法の咆哮によって、一瞬で停戦の可能性を霧散させました。
エリザベスの身にも思わぬ事態が起こり、海斗たちも爆破魔法を何度もかわさざるを得ない状況に。
戦況はさらに混迷を極めていきます。
次回も引き続きお付き合いいただければ幸いです。




