目覚めたら、賞金首
「海斗、海斗。いい加減起きて」
海斗はゆるやかに体が揺すられる感覚を覚えて、目を覚ました。海斗は仰向けに寝ていて、顔の真上には結衣の顔があった。結衣の顔を見た瞬間、海斗の胸には安堵と混乱が入り混じった感情が湧き上がった。
「ゆ、結衣! 大丈夫か? もう体は何ともないのか!」
海斗がそう叫ぶと、結衣は少し困った顔をして
「一体、何の話?」
と聞いてきた。
「いや、お前、溺れた子どもを救いに泳いで、心肺停止になっていただろう?」
すると、結衣は
「えーと、それはねぇ……」
と言い淀みながら、しばらく間をおいて
「その前に、海斗に言っておかなきゃいけないことがあるのよ」
と、しれっと話題を変えてきた。
どうしてさっきまで倒れていた結衣が俺を起こしているんだ。それとも、結衣が心肺停止になっていたのは夢だったのか?
海斗は、彼女の無事を確認できたことに安心しつつも、心の奥底に疑問が芽生えた。が、そのことを深く考えている余裕はなかった。今自分が置かれている状況を把握するのに手一杯になったからだ。
海斗は上半身を起こすと、周りを見渡した。先程のビーチの景色とはうって変わって、周りは針葉樹ばかりだ。見た目はうっそうとした森の中、といった感じである。そして結衣の姿にも少し違和感を覚えた。……そうだ、海の家にいた時とは違った服装をしている。Tシャツに太ももが露わになった短いジーンズではなく、どちらかというと秋物の服装だ。それだけか? 結衣って、少し大人っぽくなった?
「結衣……もしかして少し老けた?」
「ようやく起きたと思ったら、いきなり何をほざいているのよ」
海斗は、顔に結衣のパンチをモロにくらった。
「……悪い。いや、少し大人っぽくなったのかな、と思ってさ」
「そ、そう?」
結衣は喜びながらも、少し焦っているようにも見えた。そして、
「そんなことより、海斗、私たち異世界に飛ばされちゃったみたいなのよ」
と慌てたように言った。
「異世界? ライトノベルや漫画の読み過ぎじゃないの?」
「だから、人の話を真面目に聞きなさいよ」
と言うと、結衣は海斗にデコピンをした。
「いてっ、暴力反対。大体、何でここが異世界ってわかるんだよ?」
海斗はおでこを押さえながら、少し不服そうな顔をした。
「そうねぇ、例えば、森を抜けたらわかるけど、空に月が二つあるのよ」
「そんな、まさか。ハクション!」
短パンにTシャツ姿の海斗は大きなくしゃみをした。そして両手で自分の体を抱きながら少し震えた。
「とにかく、ここは寒いな。この格好じゃ風邪をひく。確かにここは千葉じゃなさそうだ」
「そうよ。それに町に行けば、看板とかポスターに見慣れない文字が使われていたわ」
結衣はそう言いながら、自分が着てきたフリースを脱いで海斗に渡した。海斗はそれを羽織って言った。
「ありがとう。それにしても、異世界って本当かよ。と言うか、もう既に町に行ってきたのか?」
「そうよ。私、海斗よりも少し早く異世界の別の地点に着いちゃったんだと思う。すでに町を経由してからココに来たんだから」
「それにしても、よく俺がこの場所にいるってわかったな」
「それは、この世界に転移される前に神様にお目通りをして、海斗は森のこの辺にいるって言われたのよ」
「もしかして、その神様に死にそうになったところを助けられたのか!?」
結衣は少し視線を逸らしながら
「ま、まあ、そんなところね。きっと日頃の行いが良かったんでしょうね……」
と呟いた。海斗はその態度に少し違和感を覚えた。が、結衣の命が助かった理由を確認できたところで、今度は一刻も早く今の状況に至った経緯を知りたいと思い、
「でも、俺は異世界に転移してきたけど、神様になんか会っていないぞ?」
と聞いた。
「知らないわよ。それこそ日頃の行いが悪いからじゃないの? そんなことより……」
「俺は神様に会っていないことを気にしているのに、あっさりスルーして……」
と海斗が言い終わる前に
「それどころじゃないの! 私たち、異世界に転移して間もないのに、なぜか賞金首として指名手配されているみたいなの」
と結衣が畳みかけた。驚いた海斗は
「本当かよ? でも、どうしてそれがわかる?」
と聞いた。
「さっき、ココに来る前に町を経由したって、言ったわよね」
「うん」
「その町に、私たちの似顔絵の手配書が町中に貼ってあって、そこには捕らえた場合の賞金まで書いてあるの」
「結衣は、この世界の言葉や文字がわかるのか?」
「神様が、私も海斗もこの世界の言語を理解できるようにしてくれたって、言ってた」
「また、神様か……。何て言うか……正直、にわかには信じられないな」
その時だった。茂みからガサガサ音がすると、白銀の鎧を身に着けた女剣士が飛び出してきて、剣を振りかざすと海斗めがけて突っ込んできた。
何だ、何だ? 海斗は当初状況がつかめなかった。
「恨みはないが、お命頂戴!」
海斗は、ようやく自分の命が狙われていることに気が付いた。
ヤバい。
武器も防具も持っていない海斗は、急いで見知らぬ刺客に背を向けて逃げだそうとした。が、海斗が背を向けるよりも前に、女剣士が振りかぶった剣は海斗の胸を確実に捉えていた。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
海斗と結衣は異世界に来た直後から、なぜか賞金首として命を狙われることになります。
二人がこの理不尽な状況をどう切り抜けていくのか──次回も読んでいただければ嬉しいです。




