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異世界転移してみたら、いきなり賞金首になっていた件  作者: 阿部 祐士
第2章 ハンター・レイナ

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まさかの『結婚前提』恋人宣言!? 

 温厚そうな風貌のレイナの父親は静かに笑みをたたえながら

「レイナ、その方は誰なんだい?」

と尋ねた。


「この人は賞金首なの」


と言われる方がまだマシだった。海斗にとって、レイナの次の一言は予想を遥かに超える衝撃だった。


「この人はカイル・アルティス。冒険者をやっているの。彼は、結婚を前提にしたお付き合いをする、私の恋人なの」


「結婚を前提にした私の恋人なの」「結婚を前提にした私の恋人なの」「結婚を前提にした私の恋人なの」……  


 海斗の脳内で、頭をハンマーでど突かれたような言葉が何度もこだまする。海斗は目を見開き、思わず顔を引きつらせた。

 数秒経っても海斗の意図に関係なく、まだピクピク痙攣している頬の筋肉。

 その表情が気にくわなかったのか、レイナは海斗の耳元でこうささやいた。

「乙女の胸を揉んだ責任、取ってもらいますからね」

 海斗は凍った。レイナの父はそれを気付かなかったのか、気付かないふりをしたのか、相変わらず笑みをこぼしながら、

「それはそれは。カイル君だっけ、私の名前はマルクス・フォルティス。この教会で司祭をやっているんだよ。お恥ずかしながら、私の妻は他の男と失踪してしまってね。レイナは私が男手一つで育ててきたんだ。そのせいかレイナはお金の心配ばかりしてね。この年になるまで、異性や結婚にまるで関心を示さなかったのだよ。父親として、この娘は将来どうなるのだろうと、ずっと心配していた。でも君のような人が現われて、少しほっとしたよ。娘のこと、よろしくお願いしましたよ」

と言った。

 無責任な返事をするのもどうかと思って、沈黙を守っていた海斗の態度が気にくわなかったのか、レイナは海斗のみぞおち付近を肘打ちした。

「げほ、げほ。は、はい」

 海斗は泣きそうであった。レイナみたいな純粋な娘を本気にさせると本当に怖い。今になって結衣がこのチャームのスキルをめったやたらに使うな、と言った意味がやっとわかった気がする――でももう遅い。チャームのスキルを使った俺が悪いのか? 確かに俺の判断がまずかった点もあるかもしれないけど――いや、やっぱり俺を異世界転移させた奴が悪い。異世界転移なんかをしていなかったら、田舎娘を勘違いさせるような真似はしないよ、俺は! 何で俺ばかり、冤罪の身になるんだろう。くぅー早く千葉に帰りてぇー。


 父との挨拶を終えて、教会を出たレイナは、教会の敷地内の丘の上で夕日を見ながら海斗の腕を抱き、頭を海斗の肩に預けて笑みを浮かべている。とりあえず、この状況からいかにして逃げようか。

「カイル、あなたの収入はあまり期待できないから、私が食べさせてあげる。そして、お父さんとカイルだけの地味婚でいいから、この教会で結婚式を挙げましょう」

 うーん、彼女の頭の中ではどんどん話が進行しているみたいだ……本当にどうしよう。


 結局レイナから解放されたのは、日が暮れて宿屋に帰らないと仲間が心配するから、という言い訳が通用する時間帯になってからであった。

 宿屋に帰ってみると、今度は結衣が腕組みをしながら怖い顔をして立っていた。アリシアは、椅子の背もたれに顔と腕を乗せ、両足を広げて逆向きに座っていた。そして、「遅かったね」と能天気に笑みを浮かべた。

「ちゃんと、納得のいく説明をしてくれるのでしょうね?」

 腕組みをした結衣はレイナとは違う意味で怖かった。結衣は床を指さして、海斗はここに正座しろと言わんばかりであった。その圧に屈した海斗は床に正座をすると、森の中から教会までのレイナとのやりとりを説明し始めた。


「それで偶々(たまたま)レイナって娘の胸をつかんで揉んだと」

 海斗は床に正座しながら答えた。

「そういうことでございます」

「本当に偶々なんでしょうね」

と言って、結衣は海斗を睨みつけた。

 海斗は涙目になりながら

「本当です。信じて下さい」

と訴えた。

「結衣、ダーリンがそう言ってんだ、信じてやれよ。でも私はそのレイナって娘、気に食わないね。一度胸を揉まれたぐらいで結婚って、どういう了見してんだよ。私ならダーリンが望むなら何度だって揉ませてやるけどね」

 結衣は顔を赤らめながら、咳払いをすると

「とにかく、男に免疫がない田舎娘にチャームのスキルを使ったら結婚を迫られていると。で、海斗、あなたはどうするつもりなの」

と冷たい目で海斗の顔を見ながら尋ねた。

 海斗は床を見ながら小声でぽつりと言った。

「逃げ出して、チャームのスキルの効力が切れるまでレイナから隠れるというのが、一番良いのでは……」

 結衣は声を荒げて

「何、また、そのパターン? ただでさえ刺客に追われて大変なのに、さらに今度は田舎娘の目からも、あなたに付きあって私たちも逃げ出さなきゃいけない、というわけ?」

と怒鳴った。

 その時、アリシアは他人事であるかのように

「まあまあそんなにいきり立つなよ。そのレイナって娘、ハンターをしていて弓が得意なんだろ? いっそのこと、私たちのパーティに入れてやったら」

と相変わらず能天気だ。

 結衣はこの提案を聞くと、さらにヒートアップして、テーブルを両手でこれでもかと言わんばかりに叩きながら叫んだ。

「でも、私たちを賞金首にした教会の司祭の娘なのよ。いつ裏切られるか、わかったもんじゃないわ!」

「私はね、さっきレイナのこと気にくわないって言ったけど、同時にダーリンのことが好きだという共通点もあって、彼女にはある意味親近感を覚えているんだ。本当にダーリンのことが好きなら、リサがそうであったように、そうそう裏切ることはないと思うけどね」

 その後も、レイナを仲間に加えるかどうかで結衣とアリシアの議論は続いたが、結衣はしびれを切らして、

「この際だからはっきり言っておくけど、私は田舎娘をパーティに入れるのは反対だからね! 刺客と戦って捕らえられるならまだしも、この間みたいに寝込みを襲われるのは絶対嫌! 海斗の言う、逃げ出す方がまだマシだわ。大体この一件で、エルダー村でも私と海斗の仮面が半透明になって、刺客に気付かれたかもしれないしね」

と言い放った。

 アリシアは目を丸くして驚いた顔を見せた。

「わかったよ。あんたとダーリンの好きなようにすればいい。どういう選択をしても私はダーリンについていくよ」

 アリシアは、結衣が滔々と説明したレイナの危険性と、刺客に素顔を気付かれたかもしれないという可能性からか、それ以上何も言わなかった。

「じゃ、早朝にレイナに気付かれないように宿屋を出発する、でいいわね。また、夜逃げみたいで嫌だけど」

「それでどこにむかって逃げたもんでしょう? やっぱりエルシオン王国?」

 海斗の声は弱々しい。

 結衣は地図をテーブルに広げると

「まあ冤罪であることを弁明しに、一刻も早くローレンシア教皇国に着きたいのなら、次の経由地・エルシオン王国に行くのが普通よね」

と言った。

「俺はそれで異存はない」

「さっきも言ったとおり私はダーリンについて行く」

「じゃあ決まりね。私たちはエルシオン王国に向かう」

「そうだな、レイナに変な期待を持たせるより、エルシオン王国に逃げ込んで俺の存在を忘れさせた方が本人にとってもいいだろうしな」

と海斗が言うと、結衣とアリシアから

「お前が言うな!」

とツッコまれてしまった。

 ここまで読んでくださり、ありがとうございました。


 爆走娘・レイナの『爆弾発言』により、まさかの婚約者扱いとなってしまった海斗。

 その後の結衣による尋問、結衣とアリシアの言い争い……海斗の胃はさぞ痛かったことでしょう。

 我が主人公ながら、不憫だぞ、海斗! 頑張れ、頑張れ、海斗!


 果たして海斗はレイナから逃げ切れるのか、

 そして無事にエルシオン王国へ向かえるのか。


 次回もぜひお楽しみください。

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