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肥ノ国立志伝~戦国制度革命史  作者: 日野龍哉


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第21章 日見峠大攻防線、後編

この文章は生成AIの力を借りながら、細々と進めています。

挿絵(By みてみん)

「休憩。」

 隆信の一言に、陣幕内は緊迫感が走る。被害は少数なれど、遅々として進まない。

 幸い補給は潤沢。太良-諫早-肥前古賀-芒塚、補給線は整っている。人手こそ足らぬが、補給物資は潤沢だ。

 だが、

「壊れた武具の補修に難儀じゃ。」

 兵卒たちがぼやきながら、破損した武具の手入れを何とか行っている状況。

 芒塚村も村人は姿を消している。払暁後強襲を知っていたのだろう。これも日野家の策の一つ。

 腹立たしい。隆信は冷静さを装いながらも補給を急がせる。

「伝令、小隊が消えました。」

「……攫われたか。」

 物見の報告に隆信が呟く。

 おそらく水を求めて離れたところへ移動した際に、攫われた。

 鉄砲音、騒乱。

「襲撃! 五番隊負傷!」

 さらに物見が駆け込む。

「敵影は?」

 江里口藤七兵衛尉が促すが、物見はただ首を横に振る。

「気が付くと何もなかったと……。」

「奴らの掌か。」

 払暁後強襲の後は見張り番を増やした。酒も控えさせた。

 だが、じりじりと追い落とされているような感覚。

 ただの戦でないな。

 隆信が湯漬けを啜りこみながら思う。

 確かに兵同士の激突は起きている。だが、思っているより遥かに統制が取れている。

 兵力差は国力差、これが常識のはず。三倍の兵力をもってして、なおここまで手古摺る。

「面白い。」

 物見を呼び、指示を出す。

「休憩後、全軍をもって攻め込む。だが、一斉には道幅から無理。一番隊より順番に、半刻(一時間)毎に交代で攻め寄せよ。我らは休養を取りながら、敵に疲労と消耗を強いろ。周辺に隠し道がある。敵の掌に収まるな、長崎街道に絞り込んで攻め暴れろ。」

 軍略としては外れではない……のだが。


「そう思って指示を出してくれるといいねぇ。」

 龍重が意地悪く笑う。

「殿、だいぶ悪辣になりましたな。幼い頃のあの純真な姿はいずこへ……。」

 わざとらしくよよよと泣き崩れる真似をする空海。これも張り詰めすぎないための小芝居。

「さて、ここからさらに死闘です。兵数を……。」

 空海の言葉を継ぎ、

「うむ、減らす。」

 騒めく農兵。ただでさえ悪戦なのにさらに兵を減らすと宣う主君。

「気がふれて……。」

「最初からじゃわ。」

 呟く空海に大笑い。

 士気はまだまだ高い。

「遊ぶわけでも帰るわけでもない。」

 笑顔が一転、真顔になる。

「五郎太、藤作、佐久衛門、与四郎、儀一……縄と石は持ったか。」

 呼ばれ、片膝を着く五人。精鋭投石兵、と言えばいいのだろうか。

『はっ!』

 龍重に流れから救い上げられた者たちの眼差しに迷いはなかった。

「……敵陣、龍造寺の熊野郎にぶつけてこい!」

 言葉こそ荒いが、泣きそうな顔。

 死地へ行け、そう言ったも同然。

「委細承知!」

 迷わず死地へ行くことを選ぶ五人。ただの恩ではない。必ず報いてくれる、その実績は数えきれない。

「だが、大将。」

 隊長格の五郎太が太々しく言う。

「無事に帰ってきちまったら済まねぇ。」

 噴き出す空海。実に爽快。三倍に及ぶ、正規軍に突っ込んで生きて帰ってくるつもりらしい。

「そうだなぁ、おらもまだかかあを抱きたりねぇなぁ。」

「おめえ、六人も孕ませたのにまだ足りねぇか。」

 悲壮感台無しだが、長与郷の一土豪時代から付き合い。

 龍重は涙を慌てて拭いながら、

「無事帰ったら、女房を余裕で増やせる恩賞、そして、土下座して感謝する。」

「土下座は飽きた。」

 調子者の藤作が小気味よく切り返し、もはや泣き笑い。

 そして。

「殿、真希ちゃんによろしく。」

「ああ……頼む。」

 五人はどっこいしょと、寄り合いに行くような軽い感じで出ていく。

「さて、皆には伝令ともう一働き、焼き討ちに行ってもらうよ。」

 龍重が言う。

「まずは肥前古賀。そこから南北に。連合に入っている村落に要請。龍造寺軍の兵糧、勝手取り!」

 騒めきはさらに広がる。自分たちの物にしていいとは……。そんな呟きも広がり、絶叫する農兵も出てくる。

「行け!」

『おうっ!』

 唱和、駆け足。

 出て行った後、空海が龍重に向き直り真剣に言う。

「……どこまで考えておられる。」

「怒り狂っておうちに帰ってもらえるといいねぇ。」

 龍重ののんきそうな言葉に沈黙する空海。

 家に帰る、撤退。しかも怒り狂いながら……日野家に、あの弱小の日野家に怒り狂いながら撤退する状況……。

「もはや勝ち負けではありませんな。」

 空海自身が呟いている途中で気づいてしまう。

 国家崩壊。

 城取り物語なんて英雄譚ではない。国崩しの冷たい論理。

 背筋が凍る。

「さて、もう二戦くらい行こうか。」

 龍重が立ち上がり陣屋から出る。

挿絵(By みてみん)

 総懸かりがはじまる。

 だが、さらに龍重は悪辣な手を打つ。

 水樋の一部を破壊し、長崎街道をぬかるませる。火攻めに加え、足はさらに遅くなる。

 さらに、鉤爪の付いた長槍で上から叩きつけ、引き摺り上げ叩き殺す、ある程度の高さまで引きずり上げたらそのまま落とすなどありとあらゆる手段で嫌がらせを行う。

「押せ押せ!」

「どけ、雑兵ども!」

 龍造寺軍も虚勢を張って梯子を立てかけようとするが、ただでさえ登り階段。さらに上から矢も石も、鉄砲すら襲い掛かってくる。

 気が付くと友軍の姿が無い、悲鳴を上げて転がり落ちる、目の前で惨たらしく引っかけられ殺される。

 長崎街道日見峠口はまさに流血の道と化していた。


「……被害多数。」

 狭い砦、敵に聞こえない程度の声で龍重に報告。

「……左様か。」

 口調はいつも通りだが、僅かな間に苦衷が滲み出る。

 圧倒的な数……ではない。地の利を生かして激突する戦力は優勢。

 だが、相手には交代の余裕がある。こちらもできる限り交代で守っては休みを繰り返しているが、戦力をわざわざ減らしたのだ。疲労度は積み重なっていく。


 さらに二日。日見峠砦はまだ健在。そうこうしている内に、龍造寺軍の動きに変化が見られる。

 軍装が当初よりも揃っていない。

「効いてきましたか。」

 空海の疲れた呟き。

「効いてきたな。」

 龍重も疲れを隠せず、口調に出てきているが希望が出てきた。

 補給の遅れだ。

 食べ物は潤沢にある。だが、それだけ。

 消耗品は意外と多い。槍、刀、矢、鎧、馬。それの補給が細くなれば、軍事国家たる龍造寺家の戦力にかなり影響が出てくる。

 一方の日野家は、農兵の強み、地にある物を何でも武器に変えようと貪欲に動き回る。

「そしてもう二手。」

 龍重の呟き。


 肥前国芒塚村陣幕。

 総懸かりに出ている龍造寺家。当初の見回り体制も変更して、間断なく攻め立てている。馬回りも伝令に出回っている状況。

 戦況は相変わらず一進一退。

 その時。

「て、敵襲!」

 僅かに少なくなった馬回りの叫び。

 顔を上げたその刹那、背後の陣幕が破られる。

 あの五人が戦場の混乱に紛れ、襲撃を掛けてきた。

「雑兵など打ち取れ。」

 激することもなく指示を出すが、

 言い終わったとほぼ同時に、血が視界を塞ぐ。

「なっ!?」

「殿!」

「おのれ!」

 近習たちが駆け寄り、隆信を守りつつ五人を囲もうとする。

 そんな中、五郎太が手にした石を縛りつけた縄を振り回しながら、藤作、佐久衛門、与四郎、儀一に言う。

「とっとと逃げろ。」

「おめぇ、いいところを搔っ攫う気か!」

 共に死ぬ覚悟で来ているのだ。

 ふざけるな、そう言おうとした瞬間。

「馬鹿野郎、しっかり報告しに行きやがれ、この野郎!」

 と藤作の頭を張り倒す。無論、迫る近習の輪を狭めさせないように視線を送りながら縄を回す。

 渋る藤作を羽交い絞めにして作久兵衛が目配せする。

「済まん、任せた。」

「おう。任されてやる。」

 めんどくさそうに顎で促すと近習に突っ込んでいく五郎太。


 ほぼ同時刻。肥前古賀の龍造寺陣。

 多数の農民に囲まれていた。守備兵は百程度。日見峠決戦に駆り出された結果がここでも出た。

 多数の農民からの矢と投石、そして、

「おら達の米を返せ!」

 大合唱。龍造寺は兵糧を入手していたが、それが民の手に戻る瞬間だった。


「おのれ!」

 意識を取り戻した隆信は、起き上がると同時に目の前の近習を殴り倒した。

「農民風情が……農民風情が!」

 日見峠にも響き渡るほどの大音声。

「あの雑兵はどうした! 縊り殺してくれる!」

 正気を失った、そう思えるような獰猛な目をする隆信に、百武志摩守が淡々と言う。

「逃げました。」

「はっ?」

「逃げられました。」

 刀を抜こうとするが柄を押さえる百武志摩守。

「補給陣が焼かれました。」

「な?!」

 隆信、絶句。

「まだ一週間は戦えますが……。」

 しばしの沈黙。痛む頭を押さえながら言う。

「背後は。」

「農民共が村に戻り、今度は戦う気配有り。」

 物見からの報告をそのまま伝える。

 相変わらず怒りがあふれ出ているが、

「……撤退。肥前古賀まで退く。」

「誘き寄せ。」

「いや、無理じゃ。あの小童、結局砦から出てきておらぬ。」

「思ったより冷静な判断で。」

「ああ?! 出てきたらぶち殺す!だが、今は兵を戻すが先よ。少しずつ引かせよ。それと肥前古賀方面からの農兵に備えて陣を備えよ。全員戻ったら、撤退。志摩、藤兵衛、決死路を開け。儂が殿じゃ。」

「殿!」

「負け戦じゃ。ならば、一番危険なところを儂が抑える、責任じゃわなぁ。」

 怒りもあるが、この戦……戦なのか? と自問もするが、損害を抑えて撤退するも策である。

「揺らぐな。我らは整然と撤退する。」


 肥前古賀方面からの煙を、龍重と空海は食い入るように見つめていた。

「来た!」

「来ましたね!」

「おう、何が来たって?」

 そこに血まみれになりながらも太々しく入ってくる五郎太達精鋭投石兵。

「お、お主ら……。」

 空海が唖然とする。

「まさか本当に生きて帰ってくるとは……。」

 龍重は思わず五郎太に抱き着こうとするが……。

「お主、臭いな……。」

「おっ? 気づいたか? 危うく捕まりそうになってな、俺の糞を相手の口に……。」

「言うな、それ以上言うな! とりあえず水浴びしてこい……できる限り下流でな。幸い戦は仕舞いじゃわ。」

 龍造寺軍が意気消沈しながら、手負いの僚友を支えながら憎々し気に罵声を浴びせながら下っていく姿。

「……勝鬨じゃ!」

 日見峠に、長々と響く大音響。

 反するように、沈黙の龍造寺軍。

 散発的な攻撃は受けつつも撤退していく。


 宴の始まり。

 長崎の各地で、戦勝祝いの宴が催された。

 日見峠攻防戦の功労者は家族も含めて長与郷の日野龍重別邸に招待されていた。また、長与郷の農民だった、五郎太、藤作、佐久衛門、与四郎、儀一は乾坤一擲の龍造寺本陣に突貫、総大将にけが負わせるという功績で津田、開、伊東、中沢、吉永の名字を与えられ、足軽大将として武士へ登用されることとなった。

 また、長崎桜馬場、長崎港浦上館など複数の館で日野家一門たる瞳、紗耶香、星奈、龍徳、星奈達も総出で功労の宴を開く。

 そして、龍重は津田五郎太重成、開藤作幸重、伊東佐久衛門守孝、中沢与四郎隆起、吉永儀一宗親の五人の前で深々と手を着き、頭を下げた。約束の第一歩。

「お主らの乾坤一擲の突貫により、龍造寺の熊野郎は怒りと屈辱に塗れながら逃げ帰ることとなった。真有りがたきこと。祝着至極!」

 恩賞として、家の創立、日見五家という二つ名を与える。名誉はかなりのものとなるだろう。


大村は素通りか、という問いを持たれるかもしれないので、作者なりの見解を。

嬉野から侵攻軍の足止めは、山地なので比較的容易。そして、大村南側も山がちな地形なので、龍造寺と日野だと地の利は日野に有利。そして、3月21日の段階でちょっと先のプロットを立てていたのですが、龍造寺軍はちょっと先に出てくるとある敵のと異なり、作戦目的を見誤ることなく、長崎の心臓一点に狙いを絞り込んでいます。そのため強襲としています。と同時になんちゃって焦土戦術っぽいことも仕掛けています。珍しく、後書きが長い。

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