序:転生と現状
なお、この文章を書くにあたり、生成AIを利用していることを前もって明記します。
俺は安西健、三十八歳。教員だった。
帰宅中、自宅近くの赤信号を渡った瞬間、視界が白く弾けた。
骨が折れる音。肺に空気が入らない。
――そこで終わったはずだ。
目を開けると、竹林だった。
「儂の頭の中にいる誰かさんや、落ち着かんかね」
声は俺の喉から出た。
だが意思は俺のものではない。
……誰だ。
「それは儂が聞きたい」
身体が勝手に立ち上がる。
見えるのは藁葺き屋根。肥前国、長与郷。地図が脳裏に浮かぶ。
戦国期、西彼杵半島。海上交通の要衝。
「儂は日野龍重。農民……いや、今は土豪とでも言うべきかの」
土豪?
「ああ、貧乏土豪でな。蔵の備蓄は僅か、領民は勝手に交易する。五島水軍の連中が塩を止めておる」
――金なし、統治が甘い、商品荷止め。
なるほど、都合のいい転生ではない。破綻寸前の家中に放り込まれただけだ。
「少し休もう。家人どもも来ぬ。儂の一人の時間じゃ」
「ああ、龍重殿?」
「呼び捨てでよい、健」
「確認する。戦国期、土豪。資金不足。治安崩壊。外部同盟なし。兵は?」
「三十。まともに動くのは半分じゃ」
少なすぎる。
「塩を止められておる。蔵は三月もたぬ」
三月。
「……他人事みたいに言うな」
「手の届く範囲でしか守れぬ」
その声は静かだった。
諦めではない。
諦めるしかなかった声だ。
その手、伸ばす手助けをしてやる、と言ったらどうする?
俺の声に、キョトンとする龍重。
「伸ばせるのか?」
伸ばせる。まずは治水だ。
流れを制し、山を守る。
余剰を作り、上納に回さぬ備蓄を持つ。
飢えと洪水を同時に減らす。
「伸ばせるものなら是非に。洪水で茂助は流された。土砂につぶされた拓坊。水軍連中に攫われた奈子。手が届かぬのはもう嫌じゃ!」
失敗するかもしれない。だが、どうやら龍重の中で当面は世話になるしかないのだろ? 手助けさせろ。
「……決めるのは儂じゃ。」
当然だ。俺は悪質な寄生虫じゃない。当面は協力させてもらうさ。龍重が望む限り。
沈黙が落ちる。
俺は口を開いた。
「で?」
治水が必要なところ、連れて行ってくれ。
「現場を見たいと?」
当たり前だ。想像で政治ができるか。経験はないが、理屈は知っている。
「あれだけ言っておきながら」
だが、知はある。大体予想着くぞ? 堤の限界とか。
「本当か?」
嘘言ってどうする。たぶん見るべきは堆積と流速だ。いや、違うか?
龍重は黙る。
川に流された者、土砂につぶされた者の顔が脳裏をよぎったのだろう。
それから、
「……信じるしかあるまい。」
馬に乗り、流れる景色を見まわす。半ば土砂に埋まった田畑。大小、石や流木が無残に畑を埋め尽くし、切り裂いている。田畑も一つ一つが狭い。耕作者は涙も出ないだろう。土砂の残骸はたった今流れてきたかのように濡れそぼっている。
水路は乾いている。埋まった、水量が足りぬのか。いや、これは両方だ。しかも……川底が畑より高い。根本を変えなければ復興も付け焼刃か。金がかかる。
そして、一応復旧作業をしている領民たち。だが、言葉は少なく、表情も乏しい。
通り過ぎた後、龍重が呟く。
「手が届く範囲がこれさね。」
視線は、空を向いていた。
互いの沈黙とため息。馬の嘶く声。そして。
「若!」
家中の郎党、西東空海。
「こんなところで何をされている。」
切迫した声。またもや緊急事態か。
「ん~土砂災害の現場を見た」
「見るだけならただですからな。」
惚けた口調で鋭い皮肉。いつものやり取りだ。
走ってきた方向は先ほどの村。忌々し気に、
「金がありませぬ。」
「それは一大事。」
切迫した空海の声に、のんきそうに返す。激高しそうになるが、
「今度はいくつ沈む。」
間髪入れず呟く言葉に空海が止まる。
「……さらに金が。」
「無い金は回せない。」
「御意」
「借りに行く。本河内じゃ。」
目を見開く空海。
「本河内ですと!? いくら隠居様の友人とは言え、あの守銭奴だけはやめなされ。本家様ですら苦虫を嚙みつぶしながら利息を払ったと……。」
絶句するが、龍重は微笑む。
「利息は重いが、沈む村はもっと重い。」
風が鳴る。
「どういう風の吹き回しですかな? いつもと違いますな。」
甘くは見れない、こいつは。




