中堅 プロローグ
令和二年。
全国高校総体剣道女子団体決勝戦。
次鋒戦は無名の剣士岩本エミが、昨年王者六道学園の層の厚さを証明するような勝利をおさめた。
会場に集う人々は先鋒戦の番狂わせは忘れ、この先の試合でいかに六道学園が勝利を掴むのか、という予想であふれかえった。
それは仕方のないことだろう。
六道学園中堅。戸川クルミ。三年生。二段。二年時より六道学園団体戦メンバーとして、昨年団体戦全国大会優勝。
圧倒的力量でもって優勝を果たした昨年の団体戦メンバーであり、その実力はこの会場にいる誰もが疑うところもない。
不可視の舜剣。
それが戸川クルミを形容する渾名。
六道学園の剣道部は全国から選りすぐりの剣士が集う。もちろん、そのすべてが全国からスカウトされた少女たちだ。しかし中には六道学園に憧れを抱き、自らその門をくぐる少女もいる。
一般入部組、と呼ばれる生徒たちだ。
その八割は入部して一カ月で自ら退部する。残りの二割は二年の夏までにそのほとんどが退部。
理由は明白。
希望を持って入部しても、そのレベルの高さに絶望し、己の才のなさを痛感して絶望するのだ。
戸川クルミはその一般入部組であった。
しかし彼女は最初の一カ月を乗り越え、一般入部組としては六道学園剣道部創設以来初のレギュラーメンバー入りを果たす。
異例の剣士。
彼女はこの舞台でどのような剣を魅せるのか。
対するのは百葉創英高校。松笛リンナ。三年生。三段。中学時全国総合体育大会剣道女子個人戦出場。高校時戦績なし。
彼女がどのような剣士なのか? それは『良い剣士』という言葉に収束される。
誉め言葉として『良い剣士』と言うものもいる。
その反対としてその『良い剣士』という単語の後に『止まり』と言うものもいる。
良い剣士止まり。
優れた剣士ではあるが、あと一歩足りない。それが松笛リンナという剣士への総評である。
会場にいる誰もが、王者六道の誇る不可視の舜剣が勝利の輝きを掴むことを信じて疑わない。
しかし、しかしである。
向かい合うふたりの少女はそんな会場の空気からは遠い場所にいた。
■■を失くした少女たちは、その答えを得るために対峙する。
その■■がなんなのか、それを手にして自分たちの何が変わるのか。
それをまだ知らない。
答えはきっとこの試合の果てにある。
読んでいただきありがとうございます。
次鋒編の手直しをしようか、と思っていましたが中堅編を先に掲載していきます。簡易的なプロットはできていますが、予定は未定で進めますので、一週間に一話掲載できれば、と思っています。
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