42 令和2年次鋒戦 03
夢幻泡影の構えを前に秋山は不適に笑う。
爆発寸前のエネルギーを前に策などない。
けれど、だからこそ嬉しいと思える。
前世の父であるバーンズ辺境伯と戦った時を超える高揚感。
「……終わりじゃない」
そう、終わりではないからこそ秋山は嬉しいと思える。
今まで秋山にとって戦いとは勝つか、負けるかだった。
特にリリィ・バーンズにとっては負けとは死であった。
けれど違う。
負けは始まりに変った。
もしも神様がいるのなら、きっとそのためにリリィ・バーンズは、秋山リリは生まれ変わったのかもしれない、と思えた。
やり直すための転生ではない。
次の一歩に進むための転生。
ならば、ここでも前に進むしかない。
もうそれ以外の策もない。
『風よ』
「夢幻泡影。さよなら」
秋山は踏み出す。
それは過去の無謀とも、傲慢とも違う。
新しい世界に踏み込むための勇気ある踏み込み。
異国の風が彼女の背中を押し出す。
岩本は切り離す。
内へと抑え込もうとする右腕の力を、飛び出すのをこらえようとする内なる誰かを。
それらを切り離す。
「人生とは口惜しいからこそ、輝くのだ。最後にいい夢が見られた。後はお前の番だ」
セイゲンが切り離したのか、エミが切り離したのか。
それは『岩本エミ』にもわからない。
切り離された岩本の体は空気を切り裂き回転する。
「あ」
それはコンマ一秒以下の世界。
秋山を不思議な感覚が襲った。
ここではない別の世界。今ではない過去。そこから放たれた光。その強烈な光。背後から流星のようにその光が自分の背中を押し出す。
もうひとつ、後を追うように飛び出した光。
それは目の前で回転を始めた岩本へ向かっていく。
その懐かしい光。
『エミ―』
懐かしい名とともに、秋山は手を伸ばす。
自分を追い越す光に手を伸ばす。
届かない。
左手を伸ばす。
片腕がぐんっと伸びる。
秋山の片手面が岩本の面布団を今度こそ叩いた。
「……と、届いた。ぐっ」
「えぇ、リリィ」
岩本の夢幻泡影は夢のような会合の一瞬を切り裂く。
放たれた旋回からの一閃が秋山の胴台を切り裂いて、その下の腹斜筋にめり込む。
沈黙。
審判ふたりの旗が秋山の有効打を認めた。
しかし、秋山の体はその場に倒れ込む。
上げられた旗は下がり、取り消しを示す。
岩本は竹刀を上段に振りかぶる。
この光景は中学時代に似ている、と少女たちは既視感を覚える。
けれど違う、少女たちは理解している。
届かなかった剣は岩本に届き、秋山へ失望を抱いていた心は喜びに満ちている。
「また」
『えぇ、また』
「『戦いましょう』」
岩本の竹刀が倒れた秋山の面を叩く。
「メンありっ‼ 勝負あり」
次鋒戦は六道学園岩本エミの勝利で終わりを迎えた。
読んでいただきありがとうございます。
これにて次鋒戦は決着です。お昼にエピローグを投稿します。
よかった、次回も楽しみ、と思っていただけたら評価等々いただけると嬉しいです。




