41 岩本エミの令和2年次鋒戦 03
秋山の目は死んではいない。
南加の夢。
一度は相手に自身の勝ちを夢見させ、へし折る技。
エミは決して、秋山が風の魔術を利用した緩急による、飛び込みを予知していたわけではない。
あの技はエミにとっても意外なものであった。
けれど、エミは信じていたのだ。
秋山は変わった。
ならば彼女は無策に飛び込んでくることはない、と。
「さぁ、次は何を語り合、う」
エミは薄っすらと感じる。
自分の中の岩本エミとしての少女が、再び強くなっていることに。それと同時に岩本セイゲンとしての自分が弱くなっていくことに。
だから心の火に最後の燃料を注ぐ。
「私たちはまだ先が見たいのだ、もの」
まるで消えゆく炎が最後の煌めきを放つように、エミの放つ気配がさらに鋭さを増す。
「夢幻一刀流……夢幻泡影」
先ほどの南柯之夢と鏡映しのような構え。
左脇後ろに切っ先を寝かせ、体は秋山へと正対する。まるで飛びかかる獣のソレのごとく、腰を落とし前傾姿勢となる。南柯之夢と異なるのは左手。逆手ではなく順手で柄をグッと握る。
本来、爆発的な力を生み出す前準備は脱力から始まる。
しかし、夢幻泡影は違う。
緊張からの脱力をその技の要とする。
膨張した泡がパンっと破裂するように、夢から覚めるように、すべてを終わらせる技だ。
「もっと、だ。もっと、よ」
全身に力を籠める。
左腕は秋山に手を伸ばそうと前へ。
右腕は何かにしがみつく如く、後ろへ。
さらに、腰、両足、とそれぞれが出口を求めるように方々へ向かおうと力を籠める。
無数の力がエミの体の中から飛び出そうと、その殻を突き破ろうと暴れる。
夢幻泡影はその力を利用した一撃必殺の技。
それは秋山の使用する魔術に似ているかもしれない。
彼女は風を集め、圧縮、解放することで自身の推進力に変えている。
エミもまた、内々の力をまさしく圧縮して、解放することで技の威力と変える。
しかしこの両者の技は全く違うのだ。
秋山の風はたったひとつの魔術の切れ目から、飛び出し、ひとつの方向にむかって進む力となる。
エミの技は相反する方向へ向かおうとする力の片方、その片方を脱力することで、回転する力とする。
相反する力と相乗する力。
エミと秋山は異なる力をぶつけあう。
もちろんそのことをエミが知ることはない。
相反する力はその均衡を保ちながら、膨張力を高めていく。
肉体だけではない、その相反するモノは精神にまで及ぶ。
岩本セイゲン。岩本エミ。
ふたつの精神は別離の時を迎える。
「いきます」
内に向かう力をエミは手放す。
弾かれたように体が動く。
読んでいただきありがとうございます。次話が次鋒編最終話になります。エピローグを挟んで中堅編へと続きます。
よく言えば荒々しいお話になってしまったので、いずれ手直しをしたいと思っています。
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