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令和2年全国高校総体剣道女子団体決勝戦【中堅編開始】  作者: 目黒市
次鋒編

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36 秋山リリの令和2年次鋒戦 02

「……パワー、スピード、テクニック」


 工藤の問いに答えてあげる。

 これらを鍛えて、後は気持ちよね。どんなに強くても臆病だったらそれを十全には発揮できないもの。


「「……」」


 私の完璧な回答に驚いたのかしら? 工藤だけではなく春風までも間抜けに口を開いて固まっているわ。


「お前って本当に見た目と中身が違うよな」

「リリちゃん……」


 まるで残念な子を見るような目を向けられる。

 不服なのだけれど。


「とりあえずは不正解な」

「……」

「はいはい、不服そうな顔すんな。答えは『相手』だよ」


 相手? 何を言っているのかしら。バカに馬鹿にされるのは腹が立つわね。


「お前が強いことにこだわる理由なんてオレにはどうでもいい。お前が試合で勝ってくれればそれでいいんだ。オレは六道に勝つために才能のある奴らを集めた。ここにいない松笛だってそうだ。秋山にだって本来は春風と遜色ないくらいの才能がある」


 ふん、馬鹿なりに見る目はあるのよ。

 工藤のその言葉に春風の体が一瞬強張る。おどおどして私なんかと言いながらこいつも大概よね。


「理由は如何にしろ、勝つために何が必要か。そんなのは相手以外ないんだよ、秋山」

「……ふざけないで」

「ふざけてねぇよ。世界で一番、力、速さ、技術があったって、相手がいなけりゃ意味もない。試合は相手がいなけりゃ成り立たない。お前はその大事な相手がいないで剣を振っているだけなんだよ」

「……相手はいる」


 意味がわからないわ。

 相手がいたから負けたんじゃないの。

 前世ではグレイやお父様、マリア。今世ではあんた、そして岩本エミ。


「いいや、お前に相手はいない。いつだって我儘に剣を振るうだけだ。何にイラついてんだよ? まるで癇癪を起した子供がおもちゃをあたり構わず投げつけているようだぜ」

「……」

「なぁ、秋山。お前はお前の中にある何かに向けて剣を突き出してるに過ぎないんだよ」


 何か言い返さなくちゃ。

 そう思っているのに口からは何も言葉が出ない。


「リリちゃん」


 春風が私の顔をハンカチでぬぐう。

 何よ。

 まるで私が泣いているみたいじゃない。

 泣いてないの。

 この馬鹿を睨みつけ過ぎて目が乾いているだけよ。


「何も言い返せないのは、それをお前自身が一番理解しているからだよ」

「……」

「何度も言うがオレはお前が剣道をする理由なんかに興味はない。だけどよ、その理由は本当に戦うべき相手か? その戦うべき相手はお前自身なんじゃねぇの?」


 工藤の三白眼が私の目をまっすぐと見つめる。


「お前は本当に戦うべき相手を見てきたことはあんのか」


 なんて生意気なことを言うのよ。

 私は力強く工藤を睨み返す。

 

 工藤の目の中に映る私。


 その私は目から涙を溢し、頼りない顔つきでこちらを見つめている。

 違うっ!

 だって私は強くないと。

 じゃないと何もうまくいかないの。

 強くないと。


「お前の憧れる強さってのは何なんだ」

「私は……」


 口が勝手に開く。


「認められたい。私は……何も……ない、から」


 そっか。

 私、認められたかったんだ。

 貴族の令嬢でもない。

 バーンズ辺境伯家令嬢でもない。

 女子学生でもない。

 世界にただ一人の私を見て欲しかった。

 だから理由なんて全部後付けで。

 大好きなお父様に、大好きな人たちに、ただ私だけを見て欲しかった。私を知ってほしかった。


 知ってほしかった。


「そうか」


 工藤の手が乱暴に私の頭を撫でまわす。

 やめてよ。髪がくしゃくしゃになるでしょ。


「ならさ。力も何も必要ねぇよ。認めて欲しいなら、知ってほしいならさ」


 嘘よ。

 剣を振るえなかったただの悪役令嬢だった私は誰からも相手にされなかった。

 けど、剣を振るえるようになって、強さを手に入れ始めて、騎士たちは慕ってくれた。エミーという友達ができた。ルイーゼ様と知り合えた。お兄様や弟ばかりかまっていたお父様の目が真っすぐと私に向いた。


「……嘘。そんなこと……ないっ!」


 かぶりを振る私を諭すような優しい口調で工藤が窘める。

 

「違わねぇよ。認められたいなら、知ってほしいなら、することはひとつさ」


 こんな会話したくない。

 何も聞きたくない。

 けれど、どこかでそのひとつを聞きたい私がいて、そしてそのひとつがもうわかっている私がいる。

 でももう遅いのよ。

 リリィ・バーンズはもう死んだのよ。

 やり直すことはもうできないの。


「相手を認めればいい。相手を知ればいい。相手は鏡でしかないんだよ。お前が相手を知ろうとしない限り、そこにあるのはお前の虚像でしかないんだ。一生、お前の剣は相手には届かねぇよ」

「……」

「それができるようになれば、お前は強くなれる。……充分にお前はお前を磨けているんだからさ」


 言い終えてから工藤は乱暴に自分の頭をガリガリと掻く。


「あぁ、クセェこと言った。さっさっと帰んぞ。おらっ、バカ風、生暖かい目向けてんじゃねぇよ」

「痛っ! 照れ隠しに人の頭叩かないでください。ふふっ、リリちゃんがすごいことはニナさんも認めてますもんね」

「生意気言いやがって、お前は特別練習行くぞ」


 騒ぐだけ騒いで二人は制服に着替えると帰っていった。

 私はどうすればいいのかしら。


 読んでいただきありがとうございます。80話目です。4000文字ほどの簡単なプロットから膨らみに膨らみました。その分、自分でも納得のいかない箇所も多々あります。しかし自分のことながら頑張ったと思います。

 いつも呆れながらも読んでくださる方。今日はじめて読んでくださった方。

 ありがとうございます。

 これからも精進して、読んで面白かったと思えるものを目指していきます。

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