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令和2年全国高校総体剣道女子団体決勝戦【中堅編開始】  作者: 目黒市
次鋒編

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35 秋山リリの令和2年次鋒戦

「はははっ、いいぞ。いいぞ。化けたな!」

『風よ。集え。集え。風よ!』


 魔術を発動させる。

 まだ勝負は始まったばかりだけれど、そうね、やっぱり強いわ。悔しいけれど。


 強さ。


 誰よりも力強く。

 誰よりも速く。

 誰にも対処できない技。

 相手を地に伏せて、最後に立っている者。


 そんな単純なことだって思っていた。

 だってそうじゃない? 私は男じゃないんだから。

 男じゃないからこそ、剣という男の世界で私を認めさせるにはそれらが大事と思う。

 お父様は誰よりも強いからこそ辺境伯として、国を守る重鎮となれたのでしょう?

 グレイ爺は強いから戦を生き残り、騎士団長になれたのでしょう?

 前世で私はその強さを求めていたわ。

 当たり前よね。すごくわかりやすいことだもの。

 けど、私の『強い』はグレイ爺やお父様には届かなかった。さらにはあのアバズレ聖女の罠で死んでしまった。あの力も持たない、頼るしかできないような女に負けた。


 生まれ変わった今世でも、私は女相手にも勝てない。

 

 面がね越に挑発的に笑っている少女を睨みつける。


 岩本エミ。こいつよ。

 私の方が力、速さともに上。

 さらには魔術だってあるのよ!

 なのに、なのに、なのに私は勝てなかった。

 

 私はずっと苛立っていた。

 それはきっと前世で生まれてからずっとそう。

 リリィ・バーンズとして生まれたかったわけじゃない。貴族になりたかったわけじゃない。この時代に、この世界に、この生き物に、この命に生れたかったわけじゃない。

 それでも生まれてきてあげた私には好きに生きる権利があるのよ。

 だから幼いリリィは我儘ですぐに癇癪を起していた。

 変わったのはそうね、難民として大陸にやってきたワコを侍女として雇ってからだわ。

 ワコは戦う方法を教えてくれたの。

 転生した今ならわかる。プロレスや護身術、柔術だったのね。

 その知識は私に新しい生き方。そして強さ、という存在を教えてくれたわ。

 けどその強さの世界は私に新しい苛立ちを教える。

 女だとか、男だとか。

 常識。

 こうあるべき、そうあるべき。

 

 強くなりたい。

 もっと強く。

 私が、私の自由に生きるため。その術として私には強くなるしかなかったの。


◇◇◇


「お前は馬鹿なんだな」


 あの無礼な工藤に誘われて高校に入学してから半年。

 練習終わりに柔軟体操をしていた私を見下ろしながら工藤が眉をしかめながら言った。


「……」


 私は無言で睨みつけた。

 地稽古で春風相手に打ち込まれ続けて苛立っていたのもあって、その工藤の言葉には本気で腹が立ったの。


 百葉創英高校剣道部は私を入れて四人。

 おどおどとして弱そうな春風。

 軽薄でいけ好かない松笛。

 それからこの無礼な女。


 工藤には悔しいけれど今のところはまだ勝てないけれど、春風と松笛なら楽勝ね、と考えていた。

 なのに入学して稽古が始まると、春風は工藤以上に手ごわい。松笛にしても勝てなくはないけれど、負ける回数の方が多いわ。

 春風は元中学最強の天才剣士?

 けど、二年以上は引きこもっていたのでしょ。そんな相手にも勝てない。

 日数が重なれば重なるほど、春風との実力さは開いていくだけ。

 このおどおど女も本当は魔術使えるんじゃないかしら、と疑いたくなるほど。


「睨むな。睨むな」

「……あめて」


 睨んでいると工藤に両頬を抓まれる。


「はははっ、ほっぺ柔らけぇな。春風、お前も触ってみろよ」

「ちょ、ちょっとニナさん。リリちゃんすごく怒ってますよ」


 いつまでもほっぺを抓む工藤の手を払いのける。


「事実を言ったまでだぜ、秋山。お前は確かにすごく、すごーく速いし、打ち込みも力強い」

「……とうぜん」


 当たり前でしょ。私は、強い、のよ。


「けど、お前の剣は天才剣士、おっと『元』天才剣士春風には届かない。そうだよな春風。リリちゃんの剣程度では私にはかすりもしません、だったか」

「そ、そんなこと言ってません‼ リリちゃん、ニナさんが適当に言っているだけだからね」

「まぁ、冗談は置いといて、お前は足りないんだよ」


 工藤は珍しく真面目な顔をして続ける。


「強い人間が勝つ。当然だな。お前の考えはわかるぜ、強いから勝つ、って思ってんだろ?」

「……」


 無言を肯定と捉えて工藤は頷く。


「けどな、オレから言わせれば半分正解で、半分不正解だ。それがお前の足りてないものだ。わかるか? 我儘なお嬢さん」


 答えがあるなら、さっさと言いなさいよ。

 本当に腹立つ女。


「さっさと答えを言えって思ってんだろ」


 心を読んだ?


「わかりやすいんだよ馬鹿。バカ風なみだ」

「ニナさんまた私のことバカって」

「ややこしいから黙ってろバカ風」

「うぅ」


 隙あらばイチャついてうざいわね。


「答えを言ったところでお前には理解できないからだよ。勉強からっきしなお嬢さんにわかりやすくいえば、数学の問題で答えを教えてもらっても、理解はできないだろ。問題を解くには答えじゃなくて、その過程を知って理解しなくちゃいけねぇ」


 あぁ、思い出した。腹立つことだけれど工藤は勉強もそこそこできるのよね。

 私の成績は下から数えた方が早い。けれどそれは何度も言うけれどしょうがないのよ。ただでさえ日本語難しいの、頑張っている私って偉い。誰か褒めてよ。


「お前は勝つためには何が必要だと思ってる?」

 読んでいただきありがとうございます。

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