33 令和2年次鋒戦
令和2年。
異世界、そして遥かな過去から始まった物語は県営の体育館に移る。
感染症は世界的流行を見せず徹底した水際阻止は成功に終わった。
東京オリンピックも予定通りに開催。そのためインターハイの開催場所は関東以外の各県に振り分けられた。
高校総体剣道女子団体。
前年度優勝、さらに個人優勝者まで擁した私立六道学園が順調に決勝戦まで危なげない戦いをみせた。
そして対するは私立百葉創英高校。
創部3年目。さらに公式戦の出場自体が初というダークホースが連覇を阻むべく相対した。
しかし百葉創英高校が完全にダークホースだったかというとそうでもない。
主将としてチームを引っ張るのは全中で個人2位だった工藤ニナ。
さらにそれ以外の選手も全国レベルではなかったもの、地区レベルでは有力と言われていた選手たち。
そして消えた天才と言われた春風ヨウコまでもが加わっているのだ。
一部の選手や情報通の間では毎年注目校としてあげられてはいたのだ。だが、主将である工藤の方針で公式戦の出場は3年目の今年が初めてであり、やはり指導者もいない学校では部として成立しなかったのではないか、と囁かれていた。
けれど、満を持して出場した3年目。
圧倒的、とまでは言えないものの順調に地区大会、県大会と勝ち抜いて全国出場を勝ち取った。
そして先鋒戦は帰ってきた天才春風ヨウコが勝利を掴んだ。
先鋒戦の余韻も収まらない中、次鋒戦が始まろうとしている。
会場の誰もが未だ王者六道学園の勝利を信じて疑わない。けれど、戦いはどうなるかわからない。
秋山リリ。
中学時代は特筆すべき戦績のない平凡な選手。
しかしその平凡な選手は高校剣道界に旋風を巻き起こした。
ムラっ気のある選手で、実力者に圧倒的な試合運びで勝ちを納めたかと思えば、あっさりと負けることもあった。しかし彼女の試合を観戦したものはその優雅なる剣裁きに魅了される。目を奪われてしまう。
蘇った天才春風の作った流れ、それをさらに盛り上げ場の空気を支配した。
その画面映えする風貌も相まって試合映像を視た視聴者たちの間で、『サムライ令嬢』と呼ばれはじめた。
そんな百葉創英高校ならびに秋山リリを迎え撃つのは王者六道学園。
さらに六道学園には秋山の中学時代因縁を持つ岩本エミが所属している。
まるで運命に導かれるように秋山と岩本は日本一を決める舞台で再び巡り合う。
それは運命なのか。
数百年前の剣客の記憶を持つ少女岩本エミ。
異世界の貴族令嬢の記憶を持つ少女秋山リリ。
世界も時間も異なるふたり。決して巡り合うことなどないはずのふたり。
そのふたりが対峙する。
10メートル四方の小さな試合場。
人智を越えた奇跡が邂逅する。
全国高校総体剣道女子団体決勝戦、次鋒戦が始まろうとしている。
赤、六道学園3年生岩本エミ。
白、百葉創英高校3年生秋山リリ。
一礼。
試合場に足を踏み入れる。
その瞬間、どんな言葉も意味をなくす。
ただ剣を携えた2人の少女が向かい合うだけとなる。
竹刀を抜き去り。
剣先は触れるか触れないかの距離。
試合場は静寂に包まれる。
静寂が高い県営の体育館の天井まで張り詰める。
緊張と、期待。
その両方が極限まで振り切れる数秒の沈黙。
「はじめっ‼」
審判の試合開始の宣告が響き渡った。
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