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令和2年全国高校総体剣道女子団体決勝戦【中堅編開始】  作者: 目黒市
次鋒編

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31 元悪逆令嬢は後のチームメイトと立ち会う

 竹刀の切っ先は私の喉元へ真っすぐと向けられている。

 工藤の構えは基本的な正眼の構え、というやつね。

 不用意に切っ先を揺らすことも、足さばきで間合いをはかることもしない。

 不思議な人だわ。

 あの言動は偽っているのかもしれないわね。そう思えるほど静かで綺麗な立ち合い。

 けれどただ眺めていても勝てるわけではないわ。

 むしろ先手を取ってこちらのペースにするのよ。

 

『風よ!』


 魔術を起動させる。

 体内に取り込まれた魔素が実体を持つ。

 周囲の風を一か所に集めて圧縮させる。


「っ?」


 普通ならば気づけないようなその空気の流れ。しかし工藤はその変化に気づいたみたい。

 一瞬、工藤の剣先が揺れる。

 ここっ!

 起動させていた魔術を発動させる。

 魔術で圧縮された空気を解放。そのエネルギーが私の身体を前方に押し出される。

 無挙動で間合いを一気に詰める。

 どう? 驚いたかしら。

 驚愕に見開かれた工藤の顔を見てやろうと、視線を向ければ、工藤は舌なめずりするようにニヤリと笑っていた。


「単純明快だな」

「えっ?」


 ぽつり、とつぶやいた工藤の姿がゆらりと霞む。

 何か仕掛けてくる。

 だったらその前に仕掛けるだけよ。先手をとっているのは私。

 低い位置にある工藤の頭部めがけて竹刀を振るう。


「わかりやすいんだよ」

 

 しかし私の打撃は空を切る。


「っう!」


 それと同時に脇腹に衝撃が走る。

 工藤の竹刀が強かに私の脇腹を打ったのだ。


 くそっ。

 どうしてどいつもこいつも。


 痛みをこらえて再び魔術を練る。

 すぐに同じ痛みを返してやる。いいえ、倍にして返してやるんだから。

 工藤を睨みつければ、彼女は嬉しそうに笑う。


「へぇ、いい根性してんじゃん。見た目とは違うってか」


 もっと早く。疾く!

 より多くの空気を、より小さくさらに小さく圧縮する。


「……どういうつもり」

「ははっ」


 仕掛ける直前。突然工藤は竹刀から手を離したのだ。

 何を考えているの?

 睨みつけても工藤は不敵な笑みを浮かべるのみ。

 

「え?」

 

 いつの間に間合いを詰めたのか、するり、と伸びた手が私の腕を掴む。そして空いた手が私の顔を塞ぐ。

 腕を引っ張ると同時に足が払われてその場に尻もちをついてしまう。

 すとん。

 押し倒されたわけでもないので、痛みはない。ただその場に尻もちをついただけ。追撃することもなく、工藤はただ見下ろして口を開く。


「さぁ、どうする?」


 頭に血がのぼる。

 恥ずかしさと悔しさ。

 私も竹刀を放り捨てて工藤につかみかかる。


「本当にお人形みたいな見た目とは正反対で単純。直情型なんだな」


 肩を掴もうと腕を伸ばすが、私の両手は空をきる。

 工藤の身体が沈んだ。

 そこからは一瞬で、私の身体が宙を舞う。


「きゃっ」

 

 背中から床に落ち、ぶつかる直前に工藤がつかんでいた腕をひいたので音は派手だが痛みはさしてない。

 

 さらに工藤が倒れた私に背後から抱きつく。

 その腕は首を締め上げる。


「オレの勝ちだな」

「げほ、げほっ」


 失神する直前で解放され、涙や鼻水でぐしゃぐしゃになりながらも工藤をみあげる。

 足に力が入らない。


「ちょっとやり過ぎよ!」


 吉川元部長が駆け寄って来て介抱してくれる。


「秋山大丈夫? 怪我はなさそうね」

 

 本当に世話焼きな人だわ。

 将来侍従として雇いたいくらい。


「やり過ぎも何もない。真剣勝負なんだからさ」


 悪びれずに工藤は続ける。


「ちょっといやかなり単純なところは気になるけど、お前は合格だ」


 はぁ?


「秋山リリ。お前が記念すべき一人目だ」


 だからなんのよ。

 ツッコミたくても声が出ない。

 それを肯定と勝手に解釈して工藤は満足気に頷いている。


 こうして私の進路が決定したってわけ。


 翌年の春。私は百葉創英高校へと進学した。

 なんでも工藤が高校の関係者と知り合いらしく、推薦もとりつけてくれたのよね。学力に不安あり、推薦をとるにも実績のない私にはありがたい限りだった。

 だったのだけれど。

 だけれど。


 この無礼な女はいつか必ずぶっ飛ばしてやるんだから!

 

 読んでいただきありがとうございます。楽しんでいただけるように精進してまいります。

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