30 元悪逆令嬢は開き直った
悩んでいたって時間は立ってしまうのよね。
気づけば中学も最終学年。
私はあれから何も見つけることなく竹刀をただ振る毎日を過ごしている。
「高校はどうするの?」
「……考えてない、です」
「あんたねぇ」
吉川元部長が呆れたように私を睨む。
そんなこと言ったて決まらないものはしょうがないじゃない。
私が入部して以来剣道部に新規部員は現れず現在部員ひとり。私の引退をもって廃部も決定してしまった。
武道場も新しく設立したダンス部の練習場所として奪われて、放課後は吉川元部長の口添えで小学生向けの剣道教室に参加させてもらっている。
その剣道教室での練習後、様子を見に来ていた吉川元部長から即席の進路指導が始まった。
ありがたいけれど暇なのかしら。
「推薦は、来てないわよね。大会にも出ていないし」
「……はい」
「というか剣道は続けるつもりあるのよね?」
「はいっ!」
「学力は」
と言いかけて何かを思い返したのか吉川元部長は目を瞑って首を振った。
「とにかく夏の大会は個人で出場して県大会ぐらいいかないとまずいわね」
「夏の大会」
「結局、あの岩本との試合以来あなた試合には出場しなくなったから無名もいいところだからね」
二年前の岩本エミとの試合以来、私は試合に出るのを止めた。
もうきっぱりとね。
だって私には答えがないんだもの。
あの試合以来私は何も変わっていないわ。
そうでしょ。小学生のちびっ子、まぁ大して身長は変わらないけれど、相手に練習して何になるのよ。
完全な行き詰まりよ。
泣かいのかって? 泣いて強くなれるのなら学校プール一杯分だって泣けるわ。
「そんなあなたに紹介したい人がいるのよ。その、ちょっと独特、いえ特徴的、ああっと個性的かしら」
「?」
言いづらそうに吉川元部長は言葉を濁す。
「私の知り合いの知り合いの子でね。私がたまたまあなたのことを話たのを間接的に聞いたらしくて、その、あなたに会わせてほしいって煩いのよ。もちろん秋山に確認してからで、と止めたのよ。本当だからね」
そう早口に捲し立てる。
「もう紹介は終わったっすかぁー」
「げっ、もう来た」
吉川元部長は観念したように首をふった。
「まだよ。今から」
「あっ、なら自分でするんで。センパイさんは帰ってもらって結構。よぉ、お前が秋山だな」
「あなた、誰」
馴れ馴れしい来訪者は見慣れぬ制服を着た小柄な少女だった。
身だしなみには頓着しないのか不揃いに短く切った髪は痛んで跳ね散らかしている。綺麗な黒髪なのにもったいないわね。
自信に満ちた勝気な三白眼がこちらをまじまじと見ている。なんというか私よりも悪役らしい見た目ね。気品に欠けるところが令嬢とは言えないけれど。
「オレは工藤。工藤ニナ。お前と同じ中学三年だ。タメ口でいいぜ」
「……よ、よろしく」
「ふーん。確かに外人みたいだな。純日本人なんだよな?」
「……失礼」
なんというか不愉快な人ね。
私は不快感を示すように睨みつけるけれど、意に介すことはなく笑って続ける。
「さぁ、そしたら早速だけどやろうぜ!」
「は?」
「は? じゃねぇよ。センパイから話は聞いているけれどオレは自分の目で見ないと信じられない」
「……何が?」
なんというか距離感も話し方もイライラさせられる人ね。
「強いんだろ? 確かめる方法なんてひとつだろ」
「……なに?」
「試合だよ」
そう言って工藤は持っていた竹刀袋から竹刀を取り出し構える。
「……」
粗野な言動とは違って構えはとても綺麗ね。
構えが自然。練度の高さがその構えからわかる。
私もつられるように竹刀を構える。
工藤のことは気に食わないけれど、こうして竹刀を構え合う限りは全く不快ではない。むしろ好感が持てる。
不思議な人ね。
「ちょ、ちょっと防具ぐらいつけなさい!」
制服姿で対峙する私たちを見て吉川元部長が声を荒らげるが、私たちの耳には届かない。
静かな緊張感。
張り詰める空気。
そしてなぜだか私の胸中に新しい火が灯りだしたのを感じた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
そんなあなたに最大の感謝を。




