28 悪逆令嬢は老騎士と模擬戦をする(後編)
強くなりたい。
だって私は女だもの。
誰よりも強くなければ、きっと私は世界に流されてしまう。
睨みつける私にクレイは溜息をつく。
「姫さんは勘違いをなさってる。剣が強いから強いわけではありませんよ。剣の腕が弱くとも強い人はたくさんおります」
「心の強さ、ということ? そんな説教じみたことを求めているわけじゃないのよ」
「ははっ、その説教の意味がわからなければ姫さんのはただの」
クレイの眼に強い光が灯る。
口調はいつも通り柔らかいが、その雰囲気は見習い騎士たちと対峙するときの厳しいもの。
「ご令嬢のチャンバラ遊びですな」
「なっ、侮辱するつもり」
思わず目を剝いてしまう。
「私は真剣に強くなりたいの。ただの暇つぶしや手習いじゃないのよ!」
「ワコ殿に教わりませんでしたかな。心技体。彼女の国に伝わる教えらしいが実に的を射ている。精神、技量、身体。それらみっつが大事で、ひとつでも欠けてはいけない。姫さんには心が足りておらん。だから技や体も十二分に活かせていない」
「……」
シンギタイ。
侍女のワコも私が強くなりたい、と訴えた時に諭すようにクレイと同じようなことを言っていたわね。
私だってふたりの言うような心の強さ、というのも重要だとは思っているわ。けれどそんなものがなんの役に立つというわけ。私を女だと蔑む輩や、私を淑女たらしめんとする世間の在り方、それらすべてを払いのけることはできない。
だって人はわかりやすいものでないといけないのよ。
「今はわからないかもしれませんな。それが若さなのでしょう。剣を自在に扱えようと、誰よりも速く駆けようとも、どんなに力強くともそれだけでは強くなれないのです」
「だーから、その強くなるための何かを私にも教えなさい、と言っているのよ。お父様のように強い剣士になれば誰も私に淑女らしくとか、女らしくなんて言わなくなるにきまっているの」
詰め寄る私にクレイは処置なし、という風に首を振った。
「では、それは宿題としましょう。姫さんは強くなられた。すでに魔術を使わずともあれらのひよっこ共より剣を自在に操っておる。それでも先ほどのようにあしらうことができる。ではなぜ姫さんの剣は通用しないのか、それを理解できた時に私も剣を教えましょう」
「むぅ」
その通用しない理由を知りたいのに、素直に教えないクレイに苛立ち下唇を噛みしめるが、駄々をこねてもクレイが折れることはない、と知っているので我慢。
「わかったわ。クレイ、約束よ。破ったらお父様に言いつけるからね」
「はいはい、約束です。楽しみにしておりますよ姫さん」
クレイは目を細めて笑う。
結局私がその宿題の答えを見つけることはなく、三年後、最強の騎士であるお父様の手で胴から真っぷたつにされた。
◇◇◇
今もその答えはわかっていない。
だってそんなのわかっていたらそもそも剣術を教えて欲しい、と願いでることはないのよ。
岩本エミと勝負をして痛感した。
お父様と対峙した時はただただその圧倒的な差の前に震えるしかなかった。
けれど岩本エミは違う。
魔術を扱える私は技量という面では上回っているはずだし、身体だって同い年で大差はない、はず。
だから悔しいのよ。
私と岩本エミの差はクレイの言うところの心だわ。
あーっ、もう。
いやだわ。
なんなのよ。
私はアリストリア王国でも有数の大貴族バーンズ辺境伯家のリリィ・バーンズなのよっ! 魔術も使えない人族とは違うの。こんなおかしな世界の連中に劣りはしない。
強くなりたい。
どんなに嫌なことも、煩く言ってくる人も、強さがあれば黙らせられる。
強くあれば思う通りに生きられる。
「生き、られる?」
私は強くなりたいのよ。
だって私は決められた人生に流されたくないから。
そうよ私は我儘なの。
「流され、る?」
ここはアリストリア王国じゃない。
そもそも世界が違う。
時代が違う。
リリィ・バーンズは。
「違う」
私は。
「秋山リリ」
秋山リリである私に剣は必要なの?
強さは必要なの?
どうして強くなりたいの?
強くなってどうするの?
「わからない」
わからないわ。
どうすればいいのよ!
なぜだか涙がポロポロとあふれ出る。
こんな世界嫌っ!
私が、悪役令嬢が逆らうべき世間もない。
自分の中にある命が光を失って鈍色になっていくのを感じる。
誰か教えてよ。
強いって何?
私はどうすればいい?
今年初更新です。昨年も読んでいた方、今年初めて読んでくださった方、引き続き読んでいただけると嬉しいです。
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