22 元悪逆令嬢は試合に臨む
秋山リリとして二度目の公式戦の舞台が訪れた。
中学総体の市大会予選会。
女子団体戦。
先月の市民大会とは全然違うわ。
集う人たちの気魄や思いが違う。
横に並ぶ吉川部長やコシちゃんセンパイの表情も違う。
「三年生の先輩たちは負けたら引退だからね」
ユナセンパイが少し寂しそうに教えてくれた。
「……辞める、ですか?」
試合に負けたからって辞める必要はない。そんなルールは聞いたことがないもの。
すると吉川部長が苦笑する。
「高校受験があるからね。学生の本分は勉強。秋山も部活に精出すのはいいけれど、この間の期末テスト悪かったんでしょ。顧問頭抱えてたよ」
「……」
「こら、都合悪いと無視するな」
「リリちゃんったらこんなお人形さんみたいな見た目して脳筋なのかわいい」
「あんたらもうなんでもいいんじゃない」
私はむすっと顔をしかめる。
吉川部長は剣道が好きだ。
短い付き合いの私でもわかる。
朝も誰よりも早く来て道場の掃除をして素振りをしている。今もまるで自分に言い聞かせるように理由を語っている。
女の子なのだから。
貴族令嬢としてふさわしくない。
これだから蛮族令嬢は。
前世で言われた言葉たちが頭に浮かび上がる。
色々な声が私を、私の在り方を否定していた。
ただ私は強い、ということに憧れていたの。
その強さの在り方は人によって違ったかもしれない。けれど私の憧れたのは武だった。
自分という個を鍛えて、鍛え上げてどこまでも高みを目指す。
その在り方がとても澄んでいて、美しくて、命のやり取りの上で成り立つその芸術が儚くて。
どんな宝石よりもそれらの輝きは私を魅了する。
輝きをもっと見たいと歩けば歩くほど、鍛錬すればするほど雑音は高まっていく。
今世は前世とあらゆる点が違う。
それでも人は変わらないのね。
普通、という言葉。
こうあるべき、べき、べき、べき、べき。そんな魔法のような言葉が人を縛りつけて同じように、同じ向きへ流れさせる。そんな強制力のある魔法。
私はそんな流れに逆らいたい、と強く願っていた。
もしその流れが正義なら、私は悪でいい。
「しっかし一回戦が三中だなんてついてないよね」
コシちゃんセンパイがトーナメント表を見ながらぼやいた。
「そうそれ、リリちゃんも才能爆発して先輩たちも調子絶好調。県大会狙うぞっ! って盛り上がってたのに」
「こら、試合前からそんな弱気なこと言うな」
「……岩本エミ」
「ん? 岩本娘が気になるの。そっか先鋒は岩本娘なんだね」
今世で出会った人間の中でも一際澄んでいて、輝いているのは彼女。
岩本エミ。
不思議な少女。
アリストリア王国でのリリィ・バーンズという異なる人生を持つ私だからこそ、彼女の異様さがよくわかる。
私にとってのこの世界における他者に対する優位な点はまさしく前世の経験。戦が身近にあるという生活。経験や意思、覚悟が今世の者とは違うの。
実際に私が戦ったのはその生の際の一度のみ。
けれどそうした世界に生きた、そういう在り方であったというのは大きく違う。
それが命のやり取りとは遠いスポーツの世界でも、よ。
なのに彼女からは私と同じ、いいえそれ以上のソレを感じる。
あの日、ナイフを手に迫ってきた彼女からは人間を殺すということへの忌避感がなかった。
無知からの恐れしらずということでもない。
まるで領地にいた騎士たちのような、熟練の冴えがあった。
「……関係ない」
面をつける。
「頑張ってね。リリちゃん」
「先鋒なんだから秋山の好きなようにやりなさい。後には私たちがいるから」
先輩たちが送り出してくれる。
その声に頷いて試合場の前に立つ。
向かいには防具を付けた岩本の姿。
面がねの奥の表情は見えないが、きっと前回出会った時と変わらぬ穏やかな笑みを浮かべているのでしょうね。
彼女がどうしてあのように躊躇がないのか、どうしてあのような冴えを放つのか、そんなのは私には関係ないことだわ。
ただ彼女は強い。
澄むように冴える技術。雑味のないその精神。
私はそんな彼女と戦って、勝利して、より私自身の強さを頂きへと近づけたい。
竹刀を抜く。
試合場を進み。
蹲踞。
息を大きく吸い込む。
この世界の微量な魔素が身に沁みる。
一瞬時が止まる。
「はじめっ!」
審判の声が響き渡る。
時が動き出す。
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