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令和2年全国高校総体剣道女子団体決勝戦【中堅編開始】  作者: 目黒市
次鋒編

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62/90

18 元悪逆令嬢は頂きを目指しはじめる

 やっぱり魔術よ。


 前世、リリィ・バーンズだって筋肉隆々だったわけじゃない。剣術にしてもおそらくはこちらの世界の方が発展しているに決まっている。

 

 私、秋山リリがこの世界で他人よりも秀でているものを上げるとすれば、ひとつは経験。今世の世界は前世と比べて世界情勢は安定しているし、特にこの日本という国はその中でも平穏な国だと思うわ。

 だからこそ命のやり取りを、しかも殺された経験すら持つ私はその経験値が違う。


 それが何の役に立つの?

 そう疑問に思う人もいるかもしれないけれど、経験している、というのは大きな強みになる。

 攻めるということは、常に相手に反撃の機会を与えることになる。相手の間合いに飛び込むための勇気。一歩の差が経験によって埋められることもある。


 けれどこの差、というのは実力が均衡した時にそれを打開する要因であって、実力差を埋めるモノにはならない。


 だから実力差を埋めるための、私だけの武器。


 それは魔術よ。

 

◇◇

 

「そしたら先日の試合で見つけた課題を意識しながらいくよ!」


 吉川部長の声が武道場に響く。

 

「今日こそはあたしと地稽古しようね、リリちゃん」

「……はい、です」


 副部長の宮越センパイことコシちゃんセンパイが我先にとこちらへ駆け寄ってくる。

 部内では吉川部長に次ぐ実力者。

 吉川部長の剣は目立った特徴がないけれど、欠点もない。相手の剣風に合わせて攻め方を変える。欠点はないけれど、抜きんでた武器がない、とも言える。

 それに対してコシちゃんセンパイの剣風は徹底的に相手の出鼻や返し技を狙う。とても嫌らしい剣風。自分から攻めるのは苦手としているけれど、得意な技だけを執拗に狙う特化型。


 コシちゃんセンパイの剣先が触れる。

 剣先をふわふわと動かす。

 鳥類を思わせるぎょろりとした目がこちらを見つめている。

 一見すると隙が多く見える構え。

 しかし無策に飛び込めばこちらの出鼻を狙い打ってくる。


 調子がいい時は格上相手にもストレート勝ちをするが、大抵はフェイントに引っかかったり、出遅れて出鼻を奪えずに負けてしまう。


「さぁさぁ、攻めないと勝てないよぉ」


 コシちゃんセンパイの剣先の軌道が大きく揺れる。

 こちらを誘うように動く。


 今日は調子がよさそうね。


 こちらがフェイントをかけてもコシちゃんセンパイが掛かる様子はない。

 見極められている。


 けれどごめんなさい。

 コシちゃんセンパイには実験台になってもらうわ。


「……っ」


 空気を長く、長く、長く吸い込む。

 肺に空気を送るわけではない。

 この今世においても微量ながら存在している魔素をこの秋山リリの身体にも何故だか存在している魔素臓器に流し込む。


 前世のように様々な魔術を行使することは、この魔素量ではできない。

 精々、自身の周囲の風を操る程度が限界。

 それだってひと試合の間に何度も、なんてことは不可能だと思うわ。

  

 それで何ができるの?

 私にだってわからないわ。

 けれど私はそう。


 勝ちたい。


 強くなりたい。


 あの日。

 前世のリリィがお父様の剣に垣間見た頂き。

 そこへ辿り着き、そしてその先の景色を見るためにも。


 魔術回路起動。


『風よ集え。収束、圧縮!』

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