閑話02
物語には何の関係もないお話その2です。
アリストリア王国にはふたつの種族が存在していた。
人族と貴族である。
現在に於いては貴族とは上流階級層を示す言葉に変容しているが、過去人族が魔素族の支配から脱却してからの数百年間は別の意味を持っていた。それは魔素臓器を保有する魔術を自発的に行使できる人間のことを指していた。
その発生は謎に包まれているが、魔素族の支配を脱してから人族の中にも魔素族と同じように魔素臓器を持ち、魔道具を用いずに魔術の行使を可能とする人々が偶発的に生まれたのだ。
その力を有して生まれた彼らは自分たちを人族とも違い、ましてや忌むべき魔素族とも違う。奇跡のような力を有する貴い存在の種族。貴族と呼称するようになった。
貴族たちは体内にある魔素臓器による自由な魔術の行使を可能にし、その力によって土地を、人々を支配した。
格差のなかった人族の中に身分、支配層と被支配層が生れた瞬間であった。
昨今我々が知る貴族という語はここから数百年後。
魔素臓器を持たない人族の中からもその能力によって上流階級になるものや、魔素臓器を持たない貴族家嫡男、王族後継者が多数現れ始めたりと、自発的な魔術を扱えるものを貴族ではなく、支配者身分の中でも上流階級にあるものを指す言葉へと変容したものだ。
では魔術とはどんなことが行えたのか、と説明すればそれは大変に難しい。
すでに魔術というものが歴史の海に消えてかなりの年月が経ち、魔術師たちの肉体は土へ、魂は夜空の彼方へと旅立った。悠久の寿命を持っていた魔素族もアリストリア王国時代の初期に絶滅して神話の存在と化した。
資料によれば魔道具を用いた魔術は基本的に刻印された魔術回路に依存していた。
例えばロングボウの弓幹に火の魔術回路を組み込むことで、矢をつがえなくても火矢を放つことが可能となった。
しかし魔素臓器をその身に宿した貴族は個人の向き不向きは別として、複数の魔術を行使することができた。
魔道具を用いずともその手から火矢を放つことも、魔素を用いた瞬間的な肉体強化も可能としたらしい。
けれど結局その万能と思われた魔術も、そこから生じた貴族も衰退を辿ることになる。
アリストリア王国時代の後期。
バーンズ辺境伯領を中心に興った科術が魔術の時代を終わらせ、新たな人族の歴史を切り開くこととなった。
次章は魔術による貴族社会がいかに衰退をしたか語ることにしよう。
(『アリストリア王国史~魔術の支配~』大陸社会書房出版より第3章から一部抜粋)




