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令和2年全国高校総体剣道女子団体決勝戦【中堅編開始】  作者: 目黒市
次鋒編

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閑話

 魔導士という存在が創作の海と老人の昔話に消えて久しい。

 

 読者諸兄の多くも学生時代、歴史の講義でその名を聞いたことはあるだろう。今更多くの説明は不要かもしれないが、昨今実用的教育主義が掲げられて、諸兄の大陸歴史観には差が生まれてきた。なので、まずは我が国で定められている最低限の基礎教育的なことから説明させてもらいたい。

 

 

 今、諸兄はこの本をどこで読んでいるだろうか?

 強い日光の中で首を焼きながらだろうか?

 それとも人の叡智によって生み出した科術の光の加護の下であろうか?


 多くの人はそう電球の光の指向性をこの文字に当てていることだろう。

 科術は現代においてこの世界の神となった。

 すべての事象は科術の下で検証され、再現された。

 しかしその科術が大陸に光を灯したのはわずかここ二百年のことだ。人の歴史は記録を辿れば千年も昔に遡る。大陸の歴史はさらに数十万、いやそれ以上遡ることになるだろう。


 幻想種と呼ばれた高位種がまだこの大陸の覇権を握り、彼らを神とたたえる魔素族が栄えた暗黒期。

 その暗黒期は昨今の歴史学者によれば数万年もの期間も続いていた、と判明している。

 なぜ暗黒期と呼ばれるのか、それはこの時代が進化という生物が持ちうる、もしくは意義であるその特性を失っていた時代であるからだ。幻想種はそも有限であると同時に無限である存在。個として完成されているが故に、文明や文化も、そして歴史も持たない。

 そんな幻想種を信奉した魔素族もまた人とはその生命を異としており、永遠に等しい命と、強靭な肉体、さらには高潔な精神性を有していた。


 なるほど、素晴らしい肉体と素晴らしい精神。それらは先の大陸間戦争下では大本営本部に尊ばれ、私たち大陸民に求められたものであろうが、事実そうしたそれらの要素は素晴らしい。しかし種族すべてがそうなるとそれは悪癖となる。

 

 清廉という悪癖である。

 

 諸兄が夜に本を読むとき、電燈を使用するだろう。

 それはそも、暗闇でも日中のように明るくしたい。闇を照らしたいという欲望からだ。

 欲というのは進化への重要な要素であるのは否定しようがない事実だ。


 長い暗黒期の終了は、人の誕生で終わりを迎えた。


 人の誕生にはいくつかの説が議論されているが、ここでは一般的に小児教育で採用されている星光神教の世界進化論で語っていきたい。

 創製の一器である蛙蛙綴器が、停滞による世界の破滅を防ぐために、蛙蛙怨器から進化を促す種子として人の子を譲り受けたのが、この世界での人の誕生である。


 人は脆弱な生き物であり、個体としてはこの大陸の生物の中では最弱の部類であった。


 こういうことを書くと、熱烈な科術主義者から、筆者はあの廃退たる自然派である、との誹りを受けることになるかもしれない。

 けれど偽りない事実として人は弱く愚かな生き物であるのだ。


 数百年に及び、人族は魔素族から奴隷のように扱われていた。

 それを後世に生きた先達は魔素族の横暴と罵ったようだが、その実際は違った。人族は自らその地位を望んだのだ。弱く、非力である人族は魔素族に取り入ることでその種の安寧を得ようとしたのだ。

 この事実は、アリストリア王国時代生き残りの魔素族によって記された回顧録に記載されている。

 その回顧録の信憑性と、事実の検証は今作品の主旨からは外れるので語ることはしないが、魔素族の性質と、今も尚生きている人族の有り様を見れば言葉を並べずともその真偽はわかることだろう。

 魔素族の庇護のもと連綿と、その歴史を繋いだ人族は次第に力と知恵をつけていく。

 この過程もまた人族とそれ以外の種族とを分けた要素であった。

 個として完成されているが故に、個として完結してしまう幻想種と魔素族。

 短命で脆弱であるが故に、人族はその知恵を、夢を後世に託していく。

 現在、我々が享受している全ての事柄は、ある日突然この地に誕生したのではなく、紡がれ続けた知恵と夢によって積み上げられて、形作られた物であるのは諸兄も納得することだろう。

 

 悠々樹の寓話はそれこそ大陸民であれば知らぬ者はいないはずだ。


 あの寓話のように人は、知識や夢を後世に託す。そして受け取った次の世代はそれらを積み重ねて、また次の世代に託す。


 そうして人族は進化していくのだ。


 その進化は魔素族からの庇護を必要としなくなるところまで進むと、人族は魔素族に対して反旗を翻し、独立戦争を挑んだ。

 

 その戦争の詳細は各国で保管されている歴史資料に目を通せばよく知れることだろうが、ここでは深くは語らない。

 簡潔に、言えば知識と技術を得た人族はより自由な世界を求めたのだ。


 幻想種や魔素族に支配された世界ではなく、より知識を、技術を、自由を手に入れるため広い世界へ出るための戦いであった。

 

 何も筆者は世界進化跳躍論に被れているわけではないし、当然のことながら自然融和論者なる退廃主義者でもないことは他の著作に目を通してもらえればわかることだろう。

 ただありのままに当時の人族の有り様を伝えんとしているだけである。


 前置きが長くなってしまったようだ。

 昨今の若者たちに流行っている費用効果重視の考えからは逸脱してしまっているが、時には遠回りをすることも得難い経験をもたらすものである。


 自由を求めた人と魔素族の戦争は圧倒的な人族の劣勢であった。

 魔法を操り身体能力にも優れる魔素族。数が多いだけで、脆弱な人族では太刀打ちできるはずもなかった。


 しかしこの独立戦争で人族は勝利を掴み、魔素族は絶滅への道を進んでいく。

 戦争の分け目となったのは、人族による魔術の開発であった。


 魔術。

 現代ではすっかり廃れてしまった技術ではあるが、まだ科術の進展も進んでいない当時の人族にとってそれは非常に強力な武器となった。

 魔素族の扱う魔法と、人族の手にした魔術は似ているようでまったくその根本は違う。

 

 まずは魔法について軽く説明しよう。

 魔法とは魔素族が使用する非科術的な現実干渉的発現能力のことである。

 魔素族は見た目こそ人間に似ているが、その内部、臓器は人間と大きく異なっている。当時の人族はそれを魔素臓器と呼んでいた。

 

 人族の基本的な人体構造として、鼻は上咽頭で口と繋がっており、鼻から吸い込んだ空気は体内に取り込まれている。

 しかし魔素族にはそこからもうひとつとても細い管が、人で言えば脳下垂体のあるあたりに伸びている。

 その脳下垂体こそが魔素臓器と呼ばれる特異な器官なのである。

 それこそ、この魔素臓器と魔法の関係、さらには人族との差異について語ればこの本は、諸兄に腱鞘炎という結果をもたらすほどに膨大な文章量となるのでここでは控えよう。

 

 この魔素臓器を使って魔素族は魔法と呼ばれる到底、人には再現不可能な異能の力を行使することができた。

 完璧な肉体に、超常の異能。

 一見勝ち目の見えない相手であったが、人族は勝利をおさめる。

 その決め手となったのが、魔術だ。


 魔術回路と呼ばれる特殊な回路を内蔵した魔道具を使用して、魔法に似た現実干渉を行う非科術である。

 魔術という武器を手に入れた人族は数の利を活かして、魔素族を圧倒したのだ。

 魔導士という存在を語るうえではずすことのできない魔術師の誕生である。

 ではここから魔術師が後の魔導士と呼ばれる存在に変っていったか。

 それを語らせていただこう。

 


(『魔導士はどこに消えたか――魔術社会を通して知る科術の未来』大陸社会書房出版より冒頭部分抜粋)


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