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令和2年全国高校総体剣道女子団体決勝戦【中堅編開始】  作者: 目黒市
次鋒編

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11 悪逆令嬢は天の高さを知る

 あぁ、人生最良の日。

 この国最強の騎士が今、私の前で剣を構えている。

 その殺気がひしひしと私の身体を蝕む。

 身体中の毛が逆立つのを感じる。


 私がリリィ・バーンズである限り決して巡り合えなかった好機。

 お父様の巨躯に隠れているマリアへ心の中で少しばかり感謝する。

 ある意味では聖女かもしれない。

 私の救われることはないもやもやに悪逆という意味を与えてくれたのだから。


 手にした剣を握りなおす。


 お父様が訓練としてエドワードや幼いジェームズに稽古をつける姿を私はただ眺めているだけだった。

 何度お願いしてもお父様は首を縦に振る事はなかった。

 私が騎士に交じって修練することを黙認してくれても、私にバーンズの剣を教えてくれることはなかった。

 それは私が女だからだ。


 お父様はよく口にした。


「三人の子供の中でリリィがバーンズの血を色濃く受け継いでいるな」


 しかし私は女だ。

 だから誰も私がどんなに剣の腕が優れようと認めてくれなかった。

 女は騎士にはなれないのだ。

 剣ではなく気品を磨くもの。

 武ではなく美を尊ぶもの。

 それこそがこの世界の摂理であり、道理だ。


「ボルド・バーンズ。王国の盾にして剣。反逆の徒リリィ。貴様を討つものの名である」


 お父様が名乗りを上げた。

 ありがとうございますお父様。

 騎士としての最期を私に手向けてくれるのですね。


「私はリリィ。この世界の摂理に対する悪しき反逆者っ! 貴殿を討ち取り最強の頂を目指すものである」



 お父様相手には小細工は通用しないだろう。

 出し惜しみはできない。


「すぅー」


 周囲の魔素を体内に取り込んで魔術を起動させる。

 私の身体に刻まれたバーンズ家の魔素臓器が活性化するのを感じる。

 バーンズ家の固有魔術、それを利用した身体能力の向上。

 地面を噛む足に力が入る。

 しかしこれでも平素のお父様と同じくらいの力にしかならない。


 お父様の身体にも魔術が発動する。

 

「さぁ、挑むがいい!」

「うぁああああっ!」


 私は地面を蹴りお父様に向けて飛びかかる。

 それと同時に手にした剣を投擲する。


「小癪な」


 先のギルバートと同様肉弾戦の布石と考えたのか、お父様の眉根が寄る。

 しかしすぐにニヤリ、と口元を歪めた。


「っ。見事っ!」


 流石王国最強の騎士。瞬時に私の手を見抜き、剣を振るった。


「防がれましたね」


 魔術で身体能力を向上したとしても女である私は筋力で劣る。どうしても剣の重みに筋力が足りずスピードも落ちる。

 なので剣を投擲し、身軽になったその身で跳躍。投擲した剣を再び掴みその勢いのまま攻撃する。

 威力と速度を出すために私の生み出した業だが、お父様には初見で防がれてしまった。


「並みの騎士であれば討ち取れたであろうな」


 それでも私には攻撃を止めることはできない。

 その瞬間が私の敗北。

 剣の重みを利用する剣術。振るう一瞬手の内を緩める。軌道を変える瞬間と攻撃の瞬間。その時だけに剣を握り、力を加える。


 放して握る。放す。握る。放す。握る。


「剣が……剣が舞っているようだ」


 見守る騎士が漏らす言葉通り。

 剣が私の周囲を舞い踊るように動く。

 これが女である私の生み出した剣術。

 私の人生。


「良き剣術だ。すまぬなリリィ。お前が男であればバーンズの剣を教えてやること叶ったかもしれぬのに」


 お父様の一撃が私の剣を弾き飛ばす。

 すぐさまバックステップで弾き飛ばされた剣に追いつき構え直す。


「これはお前への手向けだ」


 お父様が静かに剣を構える。


「いくぞ」


 地面を蹴り上げる。土埃が舞う中お父様の巨体が飛ぶ。

 全身全霊の一撃。防ぐことはできない。防いだ剣ごと私も真っ二つだろう。

 避けて攻撃後の隙を狙う? そんなのは不可能だ。

 背後に間合いを取ろうにもそれよりも早く剣が届く。

 左右に避ける? それも不可能。

 私が反撃するよりも早く二撃目が襲ってくる。

 ならば一点のみ。

 迎え撃つ。


 私は再び剣を飛びかかってくるお父様めがけて投げつける。

 そして自身も剣を追いかけて飛び込む。


「はぁあああああああああああっ!」

「うぉおおおおおおおおおおおっ!」


 私の手は剣を掴む。

 尚も前に飛ぶ剣の勢い、自身の体重を乗せた一撃。

 最上の一撃。

 この青空を斬るような一撃。


 文字通り空を切る。


 飛んでいく風景。

 その視界の端に剣を振りぬいたお父様の後ろ姿。


 そのお父様の前には赤い鮮血をまき散らす私の下半身。


 地面に落ちた衝撃で手にした剣は飛んでいく。


「ごふっ」


 血が口からあふれ出す。

 霞んでいく視界に騎士の顔をしたお父様が見えた。


「誇れ。今のお前の一撃は我が生涯でどの騎士の一撃よりもこの命に肉薄した」

「あ……がふっ」


 ありがとうございます。

 声はもう出ない。

 

 あぁ、頂は遠い。


 ようやく空の高さを知れたというのに。

 私の剣は空には届かないままだ。


 満足よりも悔しさが私の心を占める。

 最強の騎士との全身全霊をかけた一騎打ち。


 叶わぬ願いが叶い満足かと思えば、今度は敵わぬことに不満を抱く。

 なんとも傲慢。

 けれどしょうがないでしょう。

 私は悪逆令嬢。


 リリィ・バーンズ。


 令嬢としての気品など持ち合わせない。

 剣士としての誇りのみだ。

 

 遥か遠き頂。

 空の果てにたどり着きたいと願う。


 叶うぬならばまた剣を手にこの道を進みたい。


「眠るのだ。我が最愛のリリィ」


 おやすみなさい。お父様。


 泣きそうな顔のお父様に微笑み目を瞑る。


 痛みも、何もない。

 な……に……も。


 ただ悔しさの炎だけが最後暗闇に灯る。

 しかしそれも。


 ふっ、と。


 消えた。

 

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