08 悪逆令嬢はお父様と面会する
本当にこの世界は物語の中なのではないかしら。
そう疑いたくなるほどに全てはマリアに都合良く進んでいった。
私は牢に入れられてしまった。
もちろん貴族用の。
ぱっと見た限りは普通の部屋。もちろん貴族からすれば質素なものだけれど。必要最低限の家具しかないし、窓も採光用のものが高い場所に小さくひとつだけ。
さてどうやって時間を潰そうかしら、と考えていると部屋の外が騒がしいことに気づいた。
「リリィ!!」
熊のような大男がドアを壊してドタドタと駆け込んできた。
その腰には押し留めようとした衛兵だろう、数名がしがみついていた。
「お父様、ごきげんよう」
「あぁ、無事のようだな。ええい、お前らは邪魔だ」
私の顔をみて安堵したのかひとつ息を吐いて、腰にしがみついていた衛兵を部屋の外に投げ捨てた。
「エドワードの馬鹿に話を聞くつもりで王都に来てみれば、お前が聖女殺害未遂で捕まったと聞いてな。一体どうなっているんだ」
この大男が私の父であるボルド・バーンズ辺境伯。
身の丈は二メートルを超え、筋肉の鎧似包まれた偉丈夫。
「聖女の罠に嵌められてしまったようですわ。エドに関してもあの聖女に誑かされているようです」
「ふぅー。そうかあの聖女か」
私はゾワリと毛が逆立つのを感じた。
お父様の手が腰に下げた剣へ伸びていた。
「お父様?」
「大丈夫だ。パパがそのクソッタレ聖女の首をはねてくるからね」
「なにが大丈夫ですか!? ダメに決まってるでしょ! そんなことしたら反逆罪だわ。あの聖女はパリス殿下の婚約者よ」
「なに心配はいらん。そしたら殿下の首もはねて帝国への手土産にして、王国から独立しよう」
「……」
お父様は駄目だ。
本当にこのまま王宮で大暴れして殿下とマリアを殺しに行きかねない。
「残念ながら帝国のフレイ皇子も聖女の味方です」
「なんと、……あの聖女は悪魔か何かか?」
「それに近いですね」
「しかしこのままではお前が……」
「このままでは私はどうやら追放処分になるようですわね」
「誰がそんなことを!! 貴族の令嬢を追放処分だと! そんな馬鹿なことをするものか!!」
やはり普通はそういう反応だろう。
しかしワコの説明を聞く限り私を待つのは追放処分だろう。
北方の魔石発掘場。よほどの借金を背負ったものか罪人だけが働いているような場所だ。女でそこに送られるのは慰安婦としての役割のためだ。
「認めん! 認めんぞ! わしの可愛いリリィにそんな仕打ち! 今から領地の騎士団に出動要請を出す。我がバーンズ家の総力をもってして王都を火の海に変えるぞ」
「ちょっと、お父様!」
「安心しろ、領地の騎士たちもお前のためならば不眠不休で駆けつける」
確かに姫様、姫様と可愛がってくるあの脳筋たちならやりかねない。
でもだからこそ私を大切に思ってくれるお父様や騎士たちが危ない目にあってほしくはない。
「もうこうなってしまった時点で私の負けです。受け入れるしかありません」
「何を言うかリリィ! パパは絶対に諦めんぞ」
「もちろん私も追放を受け入れるつもりはありませんし、あの聖女に一泡吹かせてやるつもりです」
「むっ?」
「なので、お父様にお願いがあるのです」
私はある計画をお父様に伝えた。
その内容を最初こそ黙って聞いていたお父様だったが、だんだんと顔色を失っていき最後には完全に血の気を失っていた。
「――ということなのですが、お願いできますか?」
「お、お前は」
お父様は何とか言葉を絞りだそうとしているようですが、何度も口を開いては閉じてを繰り返すのみ。
「お父様。もうあの聖女に一矢報いる方法はこれしかありません」
「いや、私が」
「お父様! バーンズ家に忠誠を誓う騎士たちや領民たち、それにジェームズはどうするのです! それにこれは私の夢でもあるのです。女である私では決して叶わぬ夢だと思っていましたがこの方法ならその夢も叶います」
「はぁ、まったく。お前が男であったならばバーンズ家も安泰であったのに。エドワードはなんと情けない」
「ジェームズがいるではありませんか。あの子はしっかりとバーンズの男ですよ」
「そうだな。しかしリリィ」
「お願いしますお父様。私にも女としてではなく、騎士としてバーンズ家のためにこの命を使わせてください」
室内に重い空気が流れた。
まっすぐにお父様を見据えて私は微笑んだ。
お父様はまるで戦場に立っているかのように気合のこもった眼光で私を睨む。
「はぁ。そういう自分の意見を絶対に曲げないところはリディア譲りなのだな」
「お母さまに似ていると言っていただけるのは嬉しいですわ」
かつて社交界の華と呼ばれたリディアお母様。おしとやかで礼儀作法にも厳しい方だがお父様とはご実家も巻き込んでの大恋愛。押しかけるように嫁いできたらしい。戦場の野獣が社交界の美姫に見初められたと話題になったらしい。
しかしそのお母様の娘である私は瞳の色こそお母様譲りであるが、それ以外はお父様譲り。ダンスをしようものなら自分の足を踏んでしまうほどだが、立ち合いになればどんな足さばきだってこなせる。
幼い頃はお母様のようなお淑やかさにあこがれもしたが、人とは本来自分にないものへ強く憧れるのだ、と年を重ねるなかで納得した。
「褒めてはいない。私はお前には普通に幸せになってほしかったのだが」
「嫌です、お父様。私の幸せは私が決めますわ」
お父様は私には甘いのだ。




