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令和2年全国高校総体剣道女子団体決勝戦【転生悪逆令嬢VS侍少女編を連載中】  作者: 目黒市
次鋒編

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07 悪逆令嬢は聖女の罠におちる

 マリアは手にしたナイフを自身の腕に突き刺した。白い法衣に赤い沁みが広がっていく。


「え、なに、して」


 突然のことに私は戸惑っていると、ドアが勢いよく開かれて在中している衛兵たちが駆け込んできた。


「聖女様っ! これは一体」


 腕から血を流す聖女の姿に衛兵たちは困惑した後、すぐにこちらへ探るような視線を送ってきた。


「いや、これは……」

「バーンズ様が突然、このナイフで私に襲いかかったのです」


 私がマリアの奇行を説明しようと口を開くと、マリアがそれにかぶせるように私を指さした。


「と、とにかく聖女様の治療を。医者を呼べ」


 衛兵は同僚に指示を出すと私へ振り返り。


「バーンズ嬢。失礼ですが、詳しいお話をお聞きしたいので別室によろしいでしょうか」

「……えぇ」


 ここで反論しても具合が良くないのはわかったので黙ってその指示に従った。

 


 別室に通されると直ぐにエドワードがすごい剣幕で怒鳴り込んできた。

 

「一体お前はっ!」

「あれは」

「何も聞きたくはない! あらぬ戯言でマリアの評判を下げるだけに飽き足らず彼女に襲いかかるとは! 私に家のことを言いながら自身が一番家格を下げるようなことをするとはな」


 エドワードは軽蔑を色濃くその顔に浮かべて私を睨みつけた。


「エド」

「何も言うな! 私はお前を妹とは思わん! 聖女を、マリアを害しようとするお前は……」


 エドワードは睨みつけ何かを言いかけ口を閉ざすと足早に部屋を出ていった。なんなのよ一体。


「はぁ、我が兄ながらあれは短絡すぎるわ」

「お嬢様」

「ワコ?」


 室内には私とワコのみが残された。

 すると、ワコは何かを言いたげに身を寄せた。


「私の忠告が遅れたせいで申し訳ありません」


 ワコの顔色は真っ青で今にも倒れてしまいそう。


「謝ることはないわ。あんなの誰にも予測できないわ。まさかあの女があんなに狂っているなんて」

「いえ、違うのです」

「?」


 ワコは違うんです、と言って何度も首を振った。

 その様子に何か違和感を感じ私はワコに問いかけた。


「先のマリアが言っていたことに関係があるの?」

「……はい」

「たしか、えんすたっと何度も言っていたけれど」

「エターナル・ファイン・スター。略してエンスタです」

「エターナル?」

「どこから説明すればいいのか。おそらく信じてもらえるかはわかりませんが……」


 そこからのワコの話は正直、素直に信じられるとは言い難い内容だったわ。正直言っていることの大半理解できていたか。


「つまりあなたは別世界から転移してきた転移者。その別世界にはえんすたという物語があってその内容がこの世界と酷似していて、その物語の主役がマリアだと?」

「はい。私は元の世界ではケイサツカンというこちらでいう警邏騎士のような仕事をしていました」

「それでその物語には私も登場しているのね」

「はい。お嬢様は悪役令嬢ポジションの配役です」

「悪役、令嬢?」

「主人公をいじめる敵役です。最後には主人公に負けてざまぁされる役柄です」

「なんて嫌な配役なのかしら。でも私はワコが話してくれたえんすたの私とはだいぶ違うようだけれど?」


 ワコが簡単に説明してくれたえんすたという物語において私は主人公マリアの攻略対象の一人エドワードの妹で、さらには他の攻略対象の婚約者。さらにはパリス殿下に近寄ってエリーザ様を偽りの罪で婚約者の座から引きずり降ろすなんてこともするそうだ。

 さらにさらにパリス殿下と親しくなったマリアを嫉妬から事あるごとに邪魔をしてくる、と。


「何ひとつとして私にあてはまらないわ」

「それは……」


 言葉を探すように目を泳がせるワコを見てある可能性に思い当ってしまった。

 

「あぁ、なるほどそういうことなのね」

 

 ワコの話すえんすたの世界と違うのは私の性格以外にもうひとつあるわ。

 このえんすたとやらのことを話してくれるワコの存在だ。

 

 私とワコが出会ったのは五年前。学院に入学する三年前だ。

 その頃の自分のことを思い返すと少し思い当たる節はあった。

 両親は私にはかなり甘く、色々なわがままも許されていた。さらに幼い頃から騎士団の訓練に混ざっていた私は剣の腕も同世代の男子にも負けなかった。

 辺境伯領は王都から遠いこともあり、私にとって領地が全てでありそこではみんな姫様と言って大事にしてくれていた。


「私はお嬢様に助けて頂きました。この世界に突然転移して、ようやく現地の生活に慣れたと思ったら、戦争まで起こって毎日怯えて暮らしていました。それを救い上げてくださったのがお嬢様です」


 たまたまよ。領地に受け入れた難民たちの中で計算も出来、所作もしっかりしていて武術の心得もあったワコを、私は物珍しさから侍女として引き取った。


「直ぐにお嬢様がエンスタのリリィ・バーンズだと気付きました。けれどここはゲームの世界ではなく現実の世界。ならばお嬢様にも幸せになれる未来がある筈と思い。物語のような結末を変えることこそが私のできる恩返しと」

「そうなのね。それで私をその悪役令嬢にならないように導いてくれていたのね」

「導いたなど、そんなことはありません。お嬢様ご自身の努力と、そして全てはお嬢様ご自身の決断からです」

「ふふっ、悪役にはならなかったけれど蛮族にはなってしまったわ」

「そうですね。まさか貴族のご令嬢がフジワラ・アームバーを決めるとは思いませんでした」

「ふじわら?」

「元いた世界ではあの技をそう言うのです」

「笑わないでほしいわ。あなたが教えてくれたものでしょう」

「そうでしたね」


 二人で静かに笑った。


「ということはあのマリアも?」

「彼女はおそらくは転生者でしょう。私と同じ世界で生きた時の記憶を持って、こちらの人間として生まれてきたのでしょう」

「ワコと同郷ということね」

「はい。そしてこれが本題なのですが、彼女は無理矢理にこの世界をエンスタと同じ流れにしようとしているようです」

「そんなことが可能なの?」

「それは私にもわかりません。ですが、ここまでは道中こそ違えど結果としてはその通りになっています」

「私が、悪役令嬢として行うはずだった行動をマリアが行い。そしてその行動で私の評判をその悪役令嬢のように仕立て上げる、と」

「はい」

「まぁ、蛮族令嬢も悪役令嬢と同じでしょうね」

「そしてこれはトゥルーエンドの最終イベントです」

「なるほど、悪役令嬢である私が聖女となったマリアに逆上して襲いかかる、と」

「はい。細かいお話は省略しますが結果としてはそうなっています」

「それでその物語では私は追放されるわけね」

「……はい」


 うーむ。

 問題はひとつ、いやふたつかしら。


「私が追放された後はどうなるのかしら?」


 ワコは首を傾げた。


「お嬢様が追放された後どのようになったのかは分かりません。物語でも追及はされていなかったと思いますので」

「そうじゃないわ。この国、そしてバーンズ家はどうなったの?」

「それでしたら、パリス殿下と主人公のマリアが結婚して終了です。その傍らには彼女を信愛する騎士エドワード様、そしていつでもこちらに嫁いでくるといい、と口説き続けるフレイ皇子という終わりですね。バーンズ家に関しても特に追及はされていません」

「……はっ?」

「あくまで恋愛シュミレーションゲーム。ええっと恋愛物語なので、国のいざこざとかはあまり語られません」


 申し訳なさそうに眉を下げるワコに私はため息を吐きながら。


「あなたは悪くないわ。けれど困ったわね」

「お嬢様……」

「あなたの知るえんすたの知識でなんとかなりそうなものはあるかしら?」

「申し訳ありません。私は推しの配信者が実況プレイしているのを観ただけで、あのマリアのように詳しく知っているわけではないのです」


 よくわからない単語が出てきたが、要は詳しくないからわからないということで良いのだろう。


 あぁ、困ったわ。


 それでは私が思いつく解決方法を実行するしかない。


 問題はお父様が同意してくれるか、ということよね。

 お父様、私のこととても可愛がってくださっているから。


 私を殺してください、とお願いして頷いてくれるかしら。

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