34 春風の令和2年先鋒戦
本日はお昼頃にもう1話投稿予定です。よければそちらも楽しんでいただけたら嬉しいです。
「合宿? というか私たち部活じゃなかったんですか!」
「「「「え?」」」」
ヨウコが工藤の発言に驚くと同時に、その発言に他4名が驚いてヨウコを振り返った。
「ヨウコちゃん、今まで私たちが同好会って知らなかったの?」
「驚愕」
「馬鹿だろ、本当」
「ハルさん、それは流石に頭お花畑ですよ」
「まぁ、馬鹿風は放っておいてだ。オレ達はついに同好会から部へ昇格した。そのおかげで合宿所の使用申請が通ったわけだ。そこで来週から3泊4日で合宿を行う!」
「合宿所なんてこの学校にあったんですね」
市川が驚いたように目を丸くした。
それはヨウコも一緒だったが、他の3人の様子を見るに知っていたようなので口には出さない。これ以上頭を叩かれては本当に馬鹿になってしまう。
「すぐそこだ。ほれ、ここからも見える」
工藤が武道場の窓から校庭を指さした。そこからは校庭で守備練習をしている野球部。左手には体育館。その体育館と渡り廊下でつながった建物。
「あれが合宿所だ。一応下見もしたが施設もちゃんとしているぞ」
「へぇ、流石に私立高校ともなるとそういう施設もあるんですね」
「まぁうちは部活動にはそこまで力を入れていないから必要最低限だけどね。それこそ六道学園レベルのスポーツ高校になると校外に合宿所をいくつか用意しているみたいだよ」
工藤の説明に松笛が補足した。市川と共にヨウコもなるほどなぁ、と頷いた。
「そしてこの合宿で春風には特錬を行う」
ヨウコを指さして工藤が告げた。その顔に浮かぶ笑顔はとても晴れやかなもので、流石に1年以上の付き合いとなったヨウコには不吉の前触れだと理解できた。
百葉創英高校合宿所清風館。
体育館と渡り廊下で繋がっており、その渡り廊下からはグラウンドに直接降りることもできる。広い玄関の隣には20名ほど収容可能な食堂。その向かいには大浴場。その他には教職員用の個室が4室、それから生徒用の大部屋が2つ。さらに階段を上がって2階には大部屋がさらに4つ。かなりの大型宿泊所となっている。
合宿初日の夕方。
練習を終えたヨウコたちは食堂で夕食を食べていた。
食べているのはカレー。工藤と松笛の母親が用意してくれていたものだ。
「しっかり食えよ。特に春風! お前は貧相だからな。もうちょい肉だ、肉つけろ」
「て、適正体重ですよ」
「そんなんじゃ、体力もたねぇぞ。市川ほどつけろとは言わねぇけどな」
工藤はそう言って横で山盛りカレーを食べる市川の太ももをペシペシと叩いた。
「クドーさんはデリカシーって言葉を胎内に忘れて生まれてきたんです。気にしたら負けです。むしろクドーさんが女に生まれてこられたことを喜んであげるべきです。男だったら最悪の屑から最低最悪の屑へとランクアップしてましたから」
澄ました声で応える市川だが、その目と纏う気配には過分な怒りが含まれているのをヨウコは見た。
「……もっと辛くていい」
「リリちゃんって辛党なんだね。ごめんね、母さんが作るカレーって甘口なんだよね」
秋山と松笛は和やかにカレーを食べ進めていた。
ヨウコとしてはあまりに辛いのは無理だがカレーの辛さにこだわりはなかったので不満もなく食べられた。
「ふぅ、美味しかったです。ごちそうさまでした」
綺麗に食べ終えて食器を片付けようとしていると、工藤に腕を掴まれた。
「まだだ」
「?」
「言ったろ? お前は貧相すぎるって。ほれ皿貸せおかわりをよそってきてやる」
工藤は強引にヨウコを席に座らせるとお皿を奪って厨房に消えていった。
「ほれ、スペシャルマウンテン盛りだ」
「に、ニナさん」
「まだまだたくさんあるからな。食べ終えたらまたオレがよそってきてやるよ」
「私、食は細い方かなぁ~って」
「ん? よく聞こえねぇな。なになにお肉をもっと入れて欲しいっだって? 春風は食いしん坊だなぁ。ふはははっ」
心底意地の悪い笑みを浮かべて工藤がヨウコの手にスプーンを握らせた。
「いいか。四の五の言わずに食え。死んでも食え」
「は、はい」
涙声でヨウコは頷くとカレーを口に運び始めた。
「頑張ってねヨウコちゃん」
「……ファイト」
「おい! 松笛、秋山お前らもだよ」
逃げようとした2人は工藤に肩をおさえられて着席させられた。
「とりあえず毎食どんぶり飯3杯ノルマだかんな。時間かけていいから必ず食い切れよ!」
「「「はーい」」」
その後は黙々と止まりそうになる腕を動かし続けてカレーを胃に流し続けた。
「もう動けない。無理ぃ」
何とか食べ終えて遅れて大部屋にたどり着いたヨウコはその場に倒れ込んだ。
「よし、全員そろったな。そしたら次だ!」
「あっ、お風呂ですか。待ってください、今はまだ動けない」
ヨウコは横になったまま苦しそうに待ったをかけた。
しかしそんなヨウコの頭を工藤は足蹴にした。
「馬鹿。風呂じゃねぇよ。夜練に決まってんだろ」
「えええええ、決まってません! もうお風呂入って眠るつもりだったのに」
「なんのためにたくさん食ったと思ってやがる」
「……いやがらせ」
「あぁ? この後も練習するからだろうが、ボケ。ほれ、さっさと道着に着替えて道場行くぞ。夜練だ!」
活き活きとしている工藤に目を向ければすでに道着に着替え始めていた。そんな工藤を見ているとヨウコはこの後の練習に恐怖を覚えた。
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