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令和2年全国高校総体剣道女子団体決勝戦【中堅編開始】  作者: 目黒市
先鋒編

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32/90

31 春風の令和2年先鋒戦

露出や盗撮は犯罪、絶対に許されない行為です。

「に、ニナさん」

「あんだよ馬鹿風」

「ここでいったい私は何をするんでしょう」


 特訓だ、と工藤に連れられてヨウコは高校近くの公園にきていた。

 遊具は少ないが敷地はとても広い普通の公園だ。

 早朝はランニングやウォーキングをする近所の老人たちで賑わい。

 日中はボール遊びをする小学生で賑わっていた。

 しかし夕方以降は様子が変わる。


「すごい睨まれてる気が」

「気じゃねぇよ。睨まれてるんだよ」


 夕方以降は近隣の不良たちの溜まり場に変わるのだ。

 現在、日も暮れた広い公園には数十名の不良と場違いなヨウコと工藤が立っているだけだった。


「これがお前の特訓だ。春風は他人からの明確な悪意や害意に弱すぎる。雑魚メンタルだ。本当なら凶悪犯相手に鍛えたかったがここは日本。そんな輩はそこらにいないからな。まずはコイツら」


 工藤はこちらをあからさまに睨みつけている不良たちを指さした。


「コイツらみたいな雑魚で準備運動だ」


 雑魚という言葉を殊更に大きく言った。


「あんだ!」「調子のってんじゃあねぇぞ」「ブチ〇すぞ」

「わ、私、あんな人たち〇リベでしか見たことないですよ」

「東〇べ?」

「とにかく、そんな挑発するようなこと言ってどうするんですか! ほらこっち来てますよ」

「いやあんな弱そうなの朝飯前だ。相手の気は見えているんだろう?」

「み、見えてますよ。ものすごく怒ってるぅうう」

「んなのオレでもわかるよ。殴ろうとか色々わかんだろう? いつも通りカウンター決めて沈めてやれ」

「しませんよ! 喧嘩なんてしたことないですよ」

「チッ。それなら仕方ない」

「えぇ」

「逃げるぞ」


 公園を全力疾走で駆け抜け、ファミレスに逃げんこんだ。


「やっぱりクソ雑魚春風だな」

「いえいえ、喧嘩なんてできるわけないじゃないですか! 剣道強くたって実際に強いわけじゃないでしょ」

「仕方ない。そしたらもうひとつの作戦だな」

「もう私帰りたい」

「いいから行くぞ」


 次に連れてこられたのは先の公園とは反対方向にある公園。

 こちらは狭いのだが遊具も多く、日中は子供で賑わっている場所だ。


「ええっとまた公園なんですか」

「そうだ。春風、何がみえる?」

「誰もいま……」


 いません、と言おうとしてヨウコは他人の気配を感じてそちらを凝視した。


「ええっと、紫の蛇が無数にこちらへ伸びてます」

「紫の蛇? なんだそりゃ」

「わかりませんが、よくクラスの男子が出しているのは見ますね」

「ふーん。ほー、なるほどな」


 ヨウコの答えに含みのある声で工藤は返した。

 感情を可視化することは出来てもその感情が何の感情かまではわからない。

 紫の蛇も良くわからないのだが、大体不快な気分になるので悪意や害意の類だろう、とヨウコは思っていた。


「まぁ、害意は害意か。悪意と言うよりは好意かもしれねぇけどな」

「?」


 何かを知っているような口調で工藤は皮肉気に笑った。


「とにかく行くぞ。特訓の内容はこの公園を突っ切るだけだ」

「そんなことでいいんですか?」

「あぁ、向こうまで行ければ特訓完了だ」


 今度は簡単そうだな、とヨウコは拍子抜けした。もちろん簡単なことに悪いことはない。しかし特訓と言うからにはなんだか釈然としない。


「ほれ、さっさっと行け」

「お、押さないでよ」


 すっかり暗くなった公園内には入口と出口に街頭があるだけ、周囲は梨園と疎らにマンションが建っているだけでかなり暗い。けれど人がいることはヨウコの目が感情の形を捉えているのでわかった。

 しかしその人の姿もわからない。遊具の他に茂みや街路樹も多く死角が多いのだ。


「え、私1人で行くの? 暗くて怖いんですけど」

「離れてついていくから心配すんな。心霊スポットじゃねぇから、ほら歩け歩け」


 げしげしと足で蹴られて追い立てられるように公園内を歩き始めた。

 これのどこが特訓なのだろう、と思っていたら先ほどから見えていた紫色の蛇の輪郭がくっきり見え始めた。木々の間から人影が現れたのだ。

 どうやらそこに設置されたベンチで休んでいた人なのだろう。

 ヨウコは横目でその人を気にしていると、その人はこちらへと近づいてきた。

 1、2メートルほどの距離になれば、その人が男性であることもわかった。しかしヨウコは不審に感じた。

 その男性はもう初夏と言って差支えのない季節だというのにロングコートを着て、マスクまでしていたのだ。


「ちょっといいかな?」

「え、あ、はい?」


 男性はヨウコの前で立ち止まると突然に声をかけてきた。声の感じから中年ぐらいのおじさんだった。


「これを見て欲しいのだけれど」


 ヨウコの目に映っていた紫色の蛇が無数に男性から発せられてヨウコへと向かってきた。

 その様は生理的な嫌悪感を抱かせるには充分だった。眉根を顰めているヨウコに気づかず男性は着ていたコートの前を開けた。


「ふへへへっ、これなんだけれど、どうかな?」

「い」


 そのコートの下は生まれたままのおじさんだった。

 全裸のおじさんは、おじさんのおじさんを誇示するように腰を突き出して月明りの下ヨウコの前で『たっ』ていた。


「いやあああああああああああああ!」


 ヨウコは悲鳴を上げると来た道を全力で走った。

 途中、恐怖と逃げ出したい気持ちが空回りして足をもつれさせて転んでしまった。慌てて背後を振り返るがすでにおじさんの姿はない。遠くで車の発進音がしているのでおじさんも逃げ出していたのだろう。

 しかし再び近くの茂みから紫色の蛇がヨウコへと伸びてきた。


 パシャッ。

 パシャッ、シャッシャッ。


 フラッシュ、と撮影音が連続して鳴った。

 それと同時に転んだ拍子にスカートが捲れ上がっていたことに気づいて慌てて隠した。


「なんなのよぉおおおおおお」


 涙で月は霞んで見えた。

 

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