29 春風の令和2年先鋒戦
本日2話目。
「それを待っていました」
ヨウコが工藤ニナに連れ出されて入学した百葉創英高校はキリスト系の私立高だった。
と言っても通っている生徒、勤めている教師に熱心な信者は殆どいない。敷地内に大きな礼拝堂がある以外は他の学校と違いはなかった。
「武道場があるんだ? 剣道部はないのに」
体育館の横には第2体育館と呼ばれる施設があり、その第2体育館の1階が武道場となっていた。
「昨年までは柔道部が使ってたんだ。けれど、柔道部は部員が全員卒業して廃部。晴れてオレたち剣道部のモノというわけだ」
私学らしい綺麗な施設内で自慢げに工藤が語った。ヨウコは武道場を見渡し、つい先ほど出会ったばかりの部員たちに視線を移した。
入学式直後、工藤に無理やり連れてこられて部員と武道場の紹介を行われていた。
ヨウコや工藤を含めて部員は4名。
「春風さん、だよね。よろしくね」
尚も剣道部創設にあたってどれだけ自分が活躍したかを自慢げに語る工藤を無視して、背の高い少女が春風に握手を求めてきた。
女子の中では自分も背は高いと思っていたヨウコだが、相手はそんなヨウコよりも背が高い170はあるだろうか。ショートの髪。真っすぐにこちらを見つめる瞳。落ち着いた低めの声も相まって中性的な印象を与える少女だった。
「松笛リンナ。よろしくね」
「よ、よろしくお願いします。松笛さん」
「リンナでいいよ。仲間でしょ」
そう言って微笑む松笛はまさしく王子様みたいだ、とヨウコは少し惚けてしまったが気を取り直して頷いた。
「私のことは春風でも、ヨウコでも何でも呼びやすい方で」
「うん。ヨウコちゃん」
「えっ」
突然、松笛の手がヨウコの頬に伸び、顔を近づけてきた。思わぬ接近にヨウコが目を丸くしていると、松笛はじっとヨウコの目を見つめていた。
王子様まつ毛長い。やっぱり女の子だ。
などとよくわからないことがヨウコの頭の中を駆け巡った。
「この瞳は、私のことをどんな風に見えているのかな? ぐえっ」
「お前、距離感が近いんだよ。見ろ春風が間抜け面さらしてんだろ」
自慢話を終えた工藤が松笛の首根っこを引っ張ってヨウコから離した。
「あれは無自覚。私もやられた」
呆れたようにもう1人の少女が松笛を見て嘆息を漏らした。まず目についたのは綺麗な栗色の髪。切りそろえた前髪の下から覗くのは青みがかかった瞳。さっきの松笛が王子様ならこっちは童話のお姫様みたいだ。
「ええっと」
「秋山。秋山リリ」
「よろしくね秋山さん」
「リリ」
お姫様もとい秋山はブルーサファイアのような瞳で春風をじっと見つめていた。
「リリでいい」
「あ、ありがとう」
「うん」
秋山はそのまま口を閉じてしまった。どうやら口数は少ないようだ。お姫様というよりもビスクドールのような子だな、と春風は個性が強そうな部員たちに嘆息した。
けれどヨウコは少しホッとした。
工藤はもちろんのこと、松笛や秋山からもヨウコに否定的な感情を抱いていないのは見えたからだ。
工藤からは自分自身への絶対的な自信。自意識過剰とも言えるぐらいの感情が見えてとれた。
松笛や秋山からは、ヨウコへの興味や好奇心が見て取れた。
おそらく工藤からヨウコの能力について聞いているのだろう。
「ところで工藤さん」
「あぁ?」
気づけば松笛にチョークスリーパーをかけている工藤へ声をかけた。
「工藤さん、ま、リンナさん、リリさん、それから私の4人だけれど。部員はこれで全員?」
ずっと気になっていたことを問うた。
試合には4人でも出られるが、それでは相手チームに不戦勝を1つ与えることになる。5人揃っているほうがいいに決まっている。
「んだ、そんなことか。もう1人は来年入学予定だ。オレの後輩だ。オレほどではないがかなり強いから心配いらねぇ」
なるほど、とヨウコが納得していると工藤がズカズカとこちらに近づいてきて、そのままヨウコの両頬を鷲掴みにした。
「なんで俺だけそんな余所余所しく苗字呼びなんだよ」
「ふぇ」
「ニナちゃんもヨウコちゃんに名前で呼んで欲しいみたいだよ」
松笛が制服の乱れを整えながら笑いかけた。
「うるせぇぞ馬鹿松笛」
「工藤さんもみんなのこと苗字で呼んでいるので」
「あぁ? オレはいいんだよ」
「ニナは寂しがり屋」
「適当なこと言ってんじゃねぇぞ秋山」
「ええっと、ニナさん」
「おう、それでいいんだ」
ごほん、と咳払いをすると工藤が胸を張って宣言した。
「これからオレ様と愉快な下僕のお前たちとで百葉創英高校剣道部の始動だ! 明日から気合入れていくから覚悟しろよ」
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