28 令和2年先鋒戦
短いのでお昼までにもう1話出します。
「はじめっ!」
春風と林道、2度目の立ち合い。
その始まりは静かに、しかし2人にしか見えない世界では激しく始まる。
林道は間合いを切るように後ろに下がる。
そして獲物に飛びかかる肉食獣のようにその体勢を低くする。
春風はゆっくりとその間合いを詰めていく。
「フシュー」
まるで獣のような息遣いが林道から漏れる。
春風が林道の間合いに入ったのだ。
それは打突の間合いではない。ただでさえ小柄な林道が両足のスタンスを広めにとった構えをとっているのだ、打突の間合いはかなり短い。
ならばその間合いは何か。
殺気の間合いである。
春風のような超共感覚者でなくとも自分が刺されたと錯覚するほどの強烈な殺気。
その間合いである。
林道の『無形の一撃』が春風を襲う。
並みの相手ならば本当に刺されたと錯覚して倒れてしまうような一撃。
それは春風にとって4年前以上の致命の一撃となるはずであった。
けれど前に進む春風の足は止まらない。
「っ!」
再び無形の一撃が春風に刺さる。
「無駄ぁあ!」
無数の架空の刃が春風の身体に突き刺さる。
なぜ、目の前の相手が立っているのかはわからない。それでも効いていないわけじゃない。腕や足に刺さる度、わずかに筋肉が痙攣しているのを胴着越しにもわかる。
林道はさらに無数の刃を放つ。
しかし一向に春風の歩みは止まらない。確実に間合いを詰めてくる。それならば、と林道は姿勢を落としたままで、僅かに足のスタンスを狭める。
次の無形の一撃。その中に自身の有形たる一撃を紛れ込ます。
「そこぉおお!」
「……え」
まさに無形と有形入り混じる一撃を放つ瞬間。左足に力を入れようとした瞬間。
春風の飛び込み面が林道の面を捉えた。
「メンありっ!」
3本の旗が綺麗にあがる。
残心を決めた春風が開始線へと戻る。
林道は信じられない、とその春風を睨む。相手に有効打をとられるのは初めてではない。それこそ、すぐそこでガッツポーズを決めている百葉創英高校の副将である工藤ニナに中学時代奪われたこともある。
しかしそのどれも偶然によるものだった。
林道の気魄から逃れるためにがむしゃらに振った剣がたまたま有効打となった。そんな林道にとってはかすり傷程度の感覚でしかないものだった。
けれど今のは違う。
確実に狙いすました一撃が林道の頭をかち割った。
「なんでだ」
「もう一本」
動揺する林道と静かに呼吸を整える春風。
対象的な2人が剣を構える。
「二本目っ!」
審判は試合を再開させる。
その審判の声と同時に林道は前に飛び、春風に密着する。
鍔迫り合いに持ち込む。
どういう理屈で春風が無形の一撃に耐えたのかわからない。ならばより近い距離で、密着した状態で直接感じさせる。
「ションベンをまき散らせぇええ!」
林道は春風の胴胸に小手をぶつけると同時に渾身の無形の一撃を放つ。
「それを待ってました!」
春風は自身の胴胸に林道の小手が触れた瞬間に動き出す。
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