表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
令和2年全国高校総体剣道女子団体決勝戦【転生悪逆令嬢VS侍少女編を連載中】  作者: 目黒市
先鋒編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/75

17 春風ヨウコについて海野の証言

 春風ヨウコが表舞台にその名前を響かせたのは、ユウカと出会う3年前。

 小学6年時の市民剣道大会、小学生高学年の部個人戦であった。


「春風は本当に天才でした。天才というのは努力を積み重ねてある域までたどり着いた人間を、そこに至れなかったものが自身をなぐさめるために使う言葉だと思っていましたが、春風の天才はそれとは違う。言葉の通り『天』から授けられた『才』と言えます」


 春風について尋ねると、当時彼女が通っていた剣道クラブで指導をしていた海野ダン氏は興奮気味に口を開いた。

 南行幸剣道クラブ。

 市内の行幸第二小学校の体育館で週2回開かれている区内の小学生、中学生を対象にした剣道教室である。指導をしているのは市内で豆腐店を営む海野氏。

 あくまで町内のクラブ活動であり、練習内容も基礎的なものにとどめ、大会での入賞などを目指すような練度の練習はしていなかった。


「同じ地区に鬼高剣道会という熱心に活動を行っているところがありましてね。ある程度運動神経のいい子とか、兄弟が剣道をやっているみたいな子は大体そちらに行ってしまうんですよ」


 南行幸剣道クラブ。通称ナン剣に入会するのは体が弱い子などの体力作り目的、という場合がほとんどだった。地域の子供たちからは強い鬼剣と、弱い軟剣のように比べられていた。


「春風が入会したのも友達に誘われて遊びにきたという感じでしたね」


 しかし一目で春風が鍛えれば強くなるタイプだと海野氏は確信を持ったと言う。


「いやいやそんな大層なことではなくね。小学生レベルだと技術とか云々よりも、運動神経とか体格差が大きく影響するんですよ」


 春風の当時の身長は153センチ。小学生にしては確かに高い方ではあった。


「それになんていうんです。たくさん子供見ているとわかるんですよ。簡単に言っちゃえばクラスの中心みたいな子供っていうのは」


 クラスの中心って子は大体が自己肯定感が高かったり、他人に物怖じしないところが強い。そして小学生においてクラスの中心になるための必須項目は基本的に運動が特異であること。

 道場に遊び感覚でやってきた春風はまさにクラスの中心の子供だった。


 現に春風は学校でも学年の女子のリーダーのような存在であり、海野氏の予想は当たっていた。


「春風が入会してからは彼女と同じ学校の生徒が何人も入会してくれましたね。みんな春風目当てですよ。学校ではアイドルみたいな感じだったんでしょうね」


 春風の入会以降、春風曰く『お友達』が入会し道場は女子小学生で姦しくなった。


「春風の強さの秘密について取材されているんでしたっけ? いや私もさっぱりなんですがね。それでも春風の空気読みは抜群ですよ」


 海野氏曰く春風は人の心が読めるのではないかと疑いたくなるほど、こちらのやろうとすることを見抜いてくるのだそうだ。


「打とう、下がろう、様子を見よう。そういうことを考えた瞬間にまるで心を読んだように春風は行動を起こすんです。とても不思議な剣でした」


 先の先の剣だ、と海野氏は語った。

 相手の攻撃よりも先んじて、その攻撃の起こりを叩く。

 相手はただ呆然とするしかない。

 それは本当に不思議な体験だった、と海野氏は春風との立ち合いを思い返す。道場内では春風の練習相手になるような剣士はおらず基本的には海野氏が練習相手になっていた。


「恥ずかしい話学生時代もずっと補欠だった選手なんでね。春風の練習相手としては不足だったかもしれませんがね」


 実戦形式での立ち合い。海野氏も素人ではない。本人は謙遜して大した選手ではなかった、と言っているが学生時代は関東でも強豪で名の通る大学で鍛錬を積んでいた選手である。

 そんな海野氏でも技を打ち込もうと意識した瞬間にその出鼻を春風に打ち込まれた、と言う。


 「目がいいとか、反射神経が優れているという問題でもないんですよ。例えば相手の出鼻を狙うとなったらわざと隙を見せて誘い出すとか、相手の技の起こりを察知してから最短距離で技を出す、という風にして狙っていくものです。しかし春風の場合はそのどれにもあてはまらない。本当に心が読めているんじゃないか、と疑いたくなるレベルでした」


 不思議な話なんですが、と前置きして海野氏は話始めた。


 あまりにも春風の先読みが鋭すぎるので、その要因は動体視力が優れているのではないかと考えた海野氏は動体視力を測定してみることにした。

 調べてみると正確さを抜きにしても有象無象の測定動画があふれていた。いくつかの動画で測定してみたそうだ。

 その結果は興味深いものであった。

 春風がやっているのを見て他の道場生もやってみたいと集まって、気づけばその場にいた全員で行っていた。その結果春風の動体視力は平均よりも少し下のレベルであることがわかった。


「余計わからなくなってしまったんですよ。それで本人にも聞いたんですが。私は人の心が読めるんですって笑いながら答えられてしまいました」


 普通ならば冗談と思える言葉だが、あまりにも春風の能力が常軌を逸しているので海野氏は半ば本当かもしれない、と思えたそうだ。


「もちろんそんなことはないんですがね。運動はもともと得意な子でしたが学校の勉強はイマイチみたいでね。小学校のテストでかなり低い点をとってからかわれていました。もしも人の心が読めるならテストの点だって高得点確実ですよ」


 そんな常人を遥かにしのぐ察知能力を春風は道場に入会後次々と発揮していく。


「彼女が入会して3カ月くらいですかね。毎年開かれている市民大会に参加したんです。市内の小学生から大人まで、市の剣道協会に加入していれば参加できる大会です。小学生からすれば数少ない公式戦ですし、中学生は夏の大会後の新チーム初の公式戦の場ということでそれなりに活気のある大会です」


 そこでも春風は圧倒的な実力を発揮した。


「普段の市民大会は鬼高剣道会という道場の子たちが上位を独占するんですが、春風はそこの道場生たちを次々に負かしましてね。結局は優勝をしたんです」


 海野氏はその結果も当然だ、とあまり驚きもしなかったという。


「先も言った通りなんですが、小学生のスポーツは体格と運動神経が一番モノを言います。春風はそのどれももっていました。もちろん鬼高剣道会みたいに高い練度で鍛えられた子供たちはそういった身体的ハンデを覆すのです。しかし春風にはあの先読みがあります。私のように年齢差、性別差があれば力でねじ伏せることもできます。しかし同じ年齢帯であれば春風に勝つのはまず不可能でしょう」


 春風が勝ち進んでいくと、中学の部に参加している学校の顧問たちが海野氏のもとに集まったという。

 あの子はどこに進学するのか。中学でも剣道は続けるのか。

 中でも市内の強豪、東亜大付属中学の顧問が熱心で、後日道場にまで訪問してきたそうだ。


「春風も東亜の監督さんの話を聞いて興味を持ったようでね。スポーツ特待生で東亜中に進みましたよ。……1年目の活躍は本当にすごかった」


 一瞬、言葉を詰まらせた海野氏。


「2年の夏以降は部活も辞めて不登校になってしまったと聞いた時は本当に心配しました」

 

 

 

 先週より仕事が繁忙期を迎えているため更新が遅れます。もし読んでくれているかたがいるとしたらお待たせするかもしれませんが、更新は続けていきますので引き続き読んでいただけると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ