正反対な寝言
拙作をお読みいただきまして、ありがとうございます。
なろラジ最終日に間に合わせました!
「もふもふのきょうりゅう。おいしいの……」
真琴は思わず振り向いた。
散歩の途中で寝落ちした晶の夢には、えらく独創的なお弁当が出てきたらしい。
ついでにずり上げれば、できたての蒸しパンのようにあたたかく、しっとりとした我が子の重みは脱力しきっているせいで背骨にこたえる。
家に帰り着くと真琴は真っ先にカレンダーを見た。チェック済みの日付は、結婚生活を卒業する予定日。
だのに元ルームメイトから昨日届いた連絡は、『離婚してもしばらくは同居して子どもをいっしょに育てたい』とかいう身勝手な要望で。
脳味噌湧いてんのかコイツとしか思えなかったけれども、頭から拒絶せず話し合いの実績を持つべきとアドバイザーにも諭され、しぶしぶ話し合いを持つことになった。
やけににこにこしながら要は大量の缶ビールとおつまみを持ってきた。
夕飯の後、ベランダへ出て二人並んでぷしゅっと開けるという絵をやりたかったのだろうが、あいにく育児は子どもから一瞬でも目を離せるもんじゃない。
「というかわたしがお酒が飲めないって、何度言えばわかるのかな?」
冷ややかな目で睨めば要は世にも情けない顔になったが、慈悲はない。
「そもそも、あなた、家に入ってきてから晶になにしたと思ってるの?」
すっかり熟睡している晶の顔を、下手くそな紙飛行機でつついてギャン泣きさせたのはどこのどいつだ。
「あんたはこの家の要じゃなくて不要なの」
しょぼくれてベランダへと家出した背中を見送り、いっそのこと鍵をかけてみたい誘惑にかられたが真琴はかろうじて我慢した。
子どもをいっしょに育てたいとか目を開けて寝言を言うなら、まずは一日世話をしてみろと思う。その様子を一度なにも手を出さずに観察だけしてみたい気もするが、それをしたらまず間違いなく晶が殺される。
悪気はなかったんだよー、と悲劇の主人公ぶりっこするところまで想像できてしまう。
初めての育児なのだ、真琴だってゆとりなんてない。
だのに要ときたら最近ちっともかまってくれなくなったのは、浮気をしているからにちがいない、などととんでもない妄想を膨らませたあげく、興信所にしこたま払い込もうとしたのだ。
しかも自分の小遣いが減るからと、晶の学資保険を解約しようとし、真琴に連絡がきて判明したというお粗末さ。
(まあ、相手ができた、というのも間違いじゃないか)
我が子だって新しい相手、なわけだし。
晶の口元を拭いてやりながら、真琴は独りごちた。
登場人物の名前をすべて中性的なものにしてみたものの。
性別が脳内固定されることに。