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3番 オンケン(その二)

 放課後、予想どおり葛西はいつの間にか姿を消していた。


「あれ、今日はかっちゃんはいないの?」

 席に座っていた俺のところに中野が寄ってくる。


「ああ、葛西ならもういないみたいだな。なんか用事でもあったんじゃないか?」

 事情を知っていながら、俺はとぼけた。


「かっちゃんのヤツ、まさか俺たちの知らないところで女の子とデートか? 超うらやましい! 明日学校に来たら、しっかり追及しなきゃなあ」

 女好きの中野は、すぐそういう発想になるらしい。


 中野は以前は、ちょっと可愛い女の子を見かけると、見境なく声を掛けてはガン無視されたり手ひどく振られたりしてきたが、いずみと付き合ってからそういうことは減り、かなり落ち着いた。


 落ち着いたというよりも、いずみの監視が厳しくて、女の子に声を掛けることが難しくなった、というのが正解かもしれない。


 少なくとも学校の中では、いずみの監視ネットワークは完璧に機能している。先日の朝、中野が可愛い一年生のひとりに声を掛けたらしいが、午後には早くもいずみに通報が入り、その日の放課後、中野はいずみに折檻されていた。


 折檻されている中野はミョーに嬉しそうだったから、中野は中野でそういうプレーを楽しんでいるのかもしれない。

 そういう意味では、やっぱり中野といずみはバカップルだ。


 俺が中野としばらく雑談していると「ごめんごめん、今日は日直で遅くなっちゃったー」とか言いながら、帰り支度をしたいずみが小走りに教室に入ってきた。


「あれ、今日は葛西いないの?」

「あー、かっちゃんは女の子とデートらしいぞー」

「うそうそ、それ単に中野の妄想。なんか用事でもあったんだと思うが、気がついたらいなくなってた」

「ふーん、そうなんだ」

 いずみは興味なさそうだ。


「じゃ、帰ろっか」

「そうだな」

「おう、帰ろ帰ろ。なあなあ、帰りがけにワックの新作ドリンク飲んでこーぜ!」

「え、ミチヒロ、この間飲んだばっかじゃん」

「あん? そうだっけ?」

「そうだよお。ま、ミチヒロがまた飲みたいなら、いいけどさ」

「よーし、じゃあ駅前のワックまでダッシュだ!」

 中野がカバンを持って、ひとりで教室から駆け出していく。


「ちょっと、ミチヒロ待って!……まったくもう」

 いずみが半分呆れながらも、愛おしいものを見る優しい目で中野を見送った。


 どうせ中野は、昇降口あたりで俺たちを待ってる。

 いずみに折り入って茅場の話を聞くなら、中野の邪魔が入らないこのタイミングしかないだろう。


「じゃ、私たちも行こっか?」

「ああ、そうだな」

 いずみと俺はいっしょに廊下に出て、昇降口へ向かう。


「あー、いずみ、ちょっと聞きたいことがあるんだが」

「んー? あらたまって何よ」

「オマエのクラスに茅場っているじゃん」

「カヤバ? ああ、茅場茉稚のこと。いるけど、それがどうしたの?」


 ちょっと胡散臭そうな顔で、いずみが俺の表情を覗き込む。俺の意図がわからなくて困惑しているみたいだ。


 しっかし、この目つき、中野を見てるときの優しい目つきとはまったく違うな。女って相手によって、反応がこんなにも違うもんなのか。


「ああ、あのさ、茅場ってどんなヤツなの?」

「いきなりどんなヤツ、って言われても……。いったい何なのよ。茅場と何かあったの?」

「別に何もないけどさ、ちょっと興味があって」

「はあ? 東が茅場に興味ぃ?」

 いずみはますます疑わしそうな顔つきになる。


「茅場なんて地味で真面目で、かわいいタイプでもなんでもないじゃん! あんた、ああいう陰キャなタイプが好みなの?」

「いや、そういうわけじゃないけどさ、二年生なのに部活で部長をやってるって聞いたんで、どうしてかなって思って」


「ああ、たしか音楽研究部の部長だっけ? なんでも去年の三年と二年がもめて、二年が全部辞めたとかなんとかで、三年生引退後、一年生だった茅場が仕方なく部長になった、とかいうやつ?」


 そんな事情があったのか。

「へー。部長になるくらいだから、茅場ってそれなりに人望あるんだな」


「さあ、どうなのかしらね。クラスの中で見ている限り、そんな感じには見えないけど」

「そうなのか?」

「だってクラスで仲いい人とかあんまりいないみたいだし。お昼だってひとりで食べてるのをよく見るよ。ま、わたしも彼女のことそんなに知らないしね」


 クラスぼっちか。一度しか会ったことないけど、なんとなくわかる気がする。

 クラスぼっちだとすると、いずみが知ってる情報は今話してもらった程度しかないんだろうな。


「いずみたーん、遅いよーぉ。早く早くぅ」

 そうこうしているうちに、俺たちは中野が待ち構えている昇降口に到着した。中野がいずみに甘えるネコナデ声がちょー気色悪い。


「はいはい、お待たせしてごめんねー」

 その声を聞いて、いずみが嬉しそうに中野のほうへ駆け寄っていく。


 やっぱりコイツらはバカップルだ。

 あんまりお邪魔して馬に蹴られないようにしよう。


 茅場については……うーん、どうしたものか。

 あれこれ考えているうちに「東ぁ、ワック行くぞワックー。はよ来いよー」と脳天気な中野の声が聞こえてくる。


「ほいほい、今行くよー」と答えながら、俺は今日のところはいろいろ考えるのをやめにした。

お読みいただきありがとうございます☆

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