27番 いたずらっ子とペア活動(その一)
すみません、先週金曜日(3月7日)に誤ってこのエピソードを投稿してしまって、再投稿になります。
すでに読んでしまった方、ありがとうございます&ネタバレごめんなさい…☆
俺たちオンケン一同と、西ケ原さんの降りる駅はいっしょだった。
聞けば、西ケ原さんの祖父母が、俺たちが行くのと同じ別荘地に暮らしているらしく、今日はそこへ祖父母を尋ねるところらしい。
「こみちちゃん、南音高の文化祭行きたいから、わたしたち招待して!」
「…………わかった。そのかわり、わたしも東西高の文化祭に呼んで」
「うんうん、もっちろん!」
そんなやり取りが交わされ、一年生たちと西ケ原さんは特急列車の中でお互いの連絡先の交換をしていたようだ。
到着した駅のホームから階段を降り、改札を抜け、真っ直ぐに駅のロビーを抜けると、正面の広場はロータリーになっている。
外は夏の日差しに溢れている。
暑さで、地面からかげろうのようなウネウネしたものが立ち昇っている。
ロータリーの正面はタクシー乗り場、その右はバス乗り場になっているが、俺たちは別荘の管理人さんが車で迎えに来てくれることになっていた。
自家用車の送迎場所は、ロータリー向かって左側だ。
「あっちー。これはヤバいなー」
駅舎から出るだけで、照り返しがちょーキツい。
できるだけ日陰を選びながら、俺たち七人と、祖父母からの車の出迎えがあるという西ケ原さんの計八人は、ロータリーに沿って左側に回り込んでいった。
すると、目立つ位置に、黒塗りの大きな四ドアの高級外車が停車しているのが見える。
後部ドアのこちら側には、この暑いのに、三揃いの黒スーツを着た男性が白い手袋をして直立しており、乗る人の到来を待ち構えていた。
どんな要人へのお迎えだろう、と思って遠くから見ていると、こちら側からスッ、と黒スーツの男性に近づいていく小さな人影がひとつ。
あっ、あれは西ケ原さんだ。
「お帰りなさいませ、小径様」
「…………うん。岩淵、出迎えご苦労さま」
男性が後部ドアを開けると、西ケ原さんはごく自然に後部座席に乗り込む。
男性は「バンッ」と重厚な良い音を立ててドアを閉めると、車の後部を回って運転席側へ移動する。
その間に西ケ原さんはパワーウインドウを下げ、こちらに向かって話しかけてくる。
「…………今日は楽しかった。またね」
低く静かなバッテリー音がして、すうっと滑らかに黒塗りの車が発進していき、たちまちスピードを上げて車は走り去った。
「あれ……すごいな。もしかして西ケ原さんって、お嬢さまだったりするのかな?」
「たぶんどこかの御令嬢なのでしょうね。あのバイオリン、見た感じと音の響きからすると、相当高価なものだと思います。……たぶん最低でも数百万円、もしかすると一千万円を超えてるかも」
神楽坂さんが感嘆を交えて、そうつぶやく。
「い、一千万円のバイオリン?!……あれが? マジかよ……」
バイオリン演奏を目の前で見た原木が、とても信じられない、というような表情で首を振る。
「あるところにはあるんだねー、お金って……」
落合がボーゼンとつぶやく。
「今はお金よりも涼しさがほしいけどねー。……お迎え、まだー?」
ぱたぱたと手のひらで顔を扇ぎながら、中山がぐったりしている。
そのとき「プップー」とクラクションを鳴らして、一台のミニバンがロータリーに入ってきて、さっきまで黒塗りのクルマが止まっていたスペースに止まった。
ミニバンの運転手さんが降りてきて「あのー、あんたら東西高校の部活の人たちかね?」と尋ねてくる。
「はい。わたしたち、東西高校の音楽研究部の者です。わたしは顧問の神楽坂と申します。飯田橋さんのご紹介で、本日から三日間お世話になります。よろしくお願いします」
代表して神楽坂センセイが、運転手さんに挨拶する。
「ご丁寧な挨拶、恐れ入ります。こんな暑い中、みなさん遠いところまでご苦労さまです。私は別荘の管理をしとる田浦と申します。よろしく」
「「「よろしくお願いしまーす」」」
オンケン一同が声を揃えて挨拶を返す。
「おー、元気のいいことだ。でもこう暑いと、その元気も干上がってしまうな。ところであんたら、全部で七人で間違いないかね?」
「はい。全部で七人です」
「この車はワシも入れて八人乗りだから、人数ちょうどだな。クーラー効かせてあるから、さあ乗った乗った」
そう田浦さんから声をかけられ、オンケン一同はミニバンに乗り込もうと動き始める。
「えっと、副部長は助手席に座って。神楽坂先生は一番後ろ、三列目シートの奥ね。東は三列目の真ん中。わたしがその隣。二列目は一年生三人ね」
テキパキと茅場部長が座席を指示する。
「はーい」
一年生はいったん、とても良いお返事をする。
「部長、荷物はどうしたらいいですか?」
「とりあえずは自分で抱えて乗って!」
「えー、重いのやだー」
「いちおう、ちょっとの荷物スペースは三列目の後ろにあるが、これじゃ、全員分の荷物は乗りきれないな」
田浦さんが申し訳なさそうに教えてくれる。
「とりあえず神楽坂先生のキャリーケースは後ろのスペースに乗せましょう。あとは部の荷物ね。それと、さすがに助手席に荷物を抱えて乗るのは危険だから、副部長の荷物も後ろに。それ以外の人は前に抱えて乗ること!」
「えー!」
茅場部長の決定に、一年生はブーイングだ。
「黙れ! 部長のわたしだって荷物抱えて乗るの! これ以上文句言うヤツは、別荘に行かずに、ここから特急乗って帰ってヨシ!」
「…………」
部長の強権で一年生の不満を抑え込むと、茅場は田浦さんに「それじゃあ、お願いします。まずは買い出しで」と声をかける。
「はい、了解。じゃあ出発するよー」
田浦さんは陽気に返事をすると、車を起動させ、ウインカーを出してから、軽くアクセルを踏み込む。
オンケン一同の乗ったミニバンはスムーズに加速していき、たちまち駅舎は遠く離れていった。




