24番 水着を買いに。(その三)
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早速試着を始めるのか、と身構える俺を尻目に、神楽坂さんは「あのー、すみません」と店員さんに声をかけている。
「はい、何かご用でしょうか?」
若い女性の店員さんが神楽坂さんのところに近づく。
「これとこれと、あとこれなんですけど、サイズありますか?」
「はい、この三点ですね。えーっと上と下、それぞれどのくらいのサイズをご希望ですか?」
「えっとですね……」
神楽坂さんがこっちをジッ、と見てくる。
なんだ?
「ハルくん、ちょーっと離れてもらってもいいかな?」
「はい? なんで?」
「いいから、離れて」
「あー……うん。わかった」
わかった、とは言ったが、なんで神楽坂さんから離れないといけないのか、よくわからないまま、俺は神楽坂さんから少し距離を取る。
俺が距離を取るのを確認すると、神楽坂さんは店員さんに「えーと、上が…………で、下は……ですかね」と耳打ちするように伝える。
「えっ!」
店員さんの表情に、なぜか焦りの色が浮かぶ。
「お、お客さま、確認はいたしますが、あの……」
なぜだか、店員さんのほうも神楽坂さんに耳打ちするように何かを話している。
「えーっ!……まあ、そうか……そうなんですよね、忘れてましたけど、そういえば前も似たようなことがありました……」
神楽坂さんはがっかりしたような、憮然としたような複雑な顔つきだ。
「こっちに並べてある残りのヤツも、念のためサイズ、確認してもらえます?」
「はい、たぶん下のほうは大丈夫かと思うのですが……少々お時間を頂戴しますね」
店員さんはそういうと、神楽坂さんが選んだピックアップした三着と、ピックアップはしなかったがフィッティングルームに並べた残りの水着も含めて、すべてを抱えて、どこかへ行ってしまった。
「神楽坂さん、どうしたんです?」
神楽坂さんは微妙に困った顔をしている。
「あー、わたし、前にも同じような失敗をしてるんですけど、今回もまたやらかしちゃったんです……」
「やらかした、って、何を?」
「いや、あの、ハルくんが元気なさそうだったから、元気出してもらおうと思って、水着を買うのにつきあってもらったんですけど……たぶん買えません、水着」
「え? でもでも、さっき選んでたじゃないですか。フィッティングルームで。三種類でしたっけ? あれは買えないんですか?」
「あれは……あれを買おうと思えば、買うことはできるんですけど、でも着れないです」
「買っても着れない?」
そこへさっきの店員さんが駆け足で戻ってくる。
「お客さま、確認したのですが、お選びいただいた水着は、下はいずれもご希望サイズの在庫があるのですが、上のサイズはご希望よりその……小さいサイズしかご準備がございません。まことに申し訳ございません……」
「ああ……まあ、はい。わかりました。仕方ないですね。お手数かけました……」
さすがの俺も、察した。
神楽坂さんは、顔こそ高校生と間違われるような童顔だが、胸はきょにうである。
つまり今回の出来事は、神楽坂さんが水着を買おうとしたところ、胸が大きすぎて、そのサイズに合う水着がなかった、ということだ。
神楽坂さんの胸はもはや「きょにう」ではなく、「ばくにう」と言うべきなのかもしれない。
さっき神楽坂さんが俺を遠ざけた意味、店員さんがサイズを聞いて焦った顔をした意味が、今となってはわかる。
いったい何カップなのだろうか?
E? F? それともGか?
といっても、俺自身、◯カップとか言われても、正直なところ、まったくピンとはこない。
たまーに自宅で妹の……その、下着を、洗濯物なんかで誤って目撃することがあるが、あれが何カップなのか俺は知らない。
(知ってたら、まず間違いなく妹に「キモい!」と言われるだろう)
だが少なくともパッと見でも、神楽坂さんのソレは、妹のアレとは比べものにならないほど、リッパだ。
間違いなく。
いやいや、そんなことはどうでもいい。
いや、どうでもよくはないが、今は置いておく。
きっと神楽坂さんは、自分に合ったサイズの水着がなかったことで落ち込んでいる。
「神楽坂さん、じゃないや、みぃたん! 俺を元気づけるために誘い出してくれたんでしょ? ほんとにありがとう。こうやって初めてみぃたんとデートできて、俺とても元気出たよ」
「……でも、ハルくんに水着選んでもらおうと思ったのに、ダメだった。前にも同じようなことあったのに、わたし忘れてた。わたしってホントダメだね。がっかりしたでしょ。本当にごめんなさい……」
「いやいや、実は俺、正直ホッとしてる。だってさ、オンケンの合宿でみぃたんの水着姿を見せなくてよくなったってことでしょ? 葛西とか原木なんかに見せてやる必要、全然ないし。だからかえって良かった」
「……ほんとうに? そう思ってる?」
「もちろん、ほんとうだよ。だからそんな顔しないで」
「ハルくん……」
突然、神楽坂さんが俺の胸に飛び込んできた。
周りの人たちはびっくりしてる。
そりゃ、その辺にゴロゴロ転がってる普通の高校生の胸に、ギャルが飛び込んで抱きついてるんだから、そういう反応になるだろう。
でも俺は、そんな神楽坂さんをあえてギュッと抱きしめる。
「え? ええっ?」
抱きしめられた神楽坂さんのほうが驚いてる。
まさかこんな衆人環視の中で、俺がそんな行動にでるなんて思わなかったんだろう。
「今度、ふたりだけで海に行こうよ。それまでに、みぃが気に入る水着を探して買っておいてくれればいい。そのときを楽しみにしてるから」
「……うんうん、わかった。ありがとうハルくん。……だいすき」
周りがザワザワするのを無視して、俺たちはしばらくそのまま抱き合っていた。
こ、こんな展開になるとは・・・☆
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