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22番 図書館のふたり(その二)

平日毎日連載スタートから一週間☆

今週を何とか乗り切りました☆

来週の元気のため、よかったらブクマ&評価をよろしくです☆

 葛西と茅場は自然に手を繋いで、図書館の自学自習スペースから外へと出て行く。

 ふたりはそこから廊下を通り、図書館入口すぐ横の休憩スペースに入っていった。

 ちょっとしたベンチや自販機が並んでいて、他にも何人かがおしゃべりしたりしている。

 勉強の息抜きに利用するんだろうな。


 そこに入ったふたりは、ふたりが座れる程度のスペースが空いていたベンチに並んで座った。

 単なる知人同士がふたりで座るのと比べると、だいぶ距離が近い。ふたりとも膝のすぐ横に手をついているが、よく見ると、手と手が重なっている。

 というより、指と指が絡んでいる。

 これは……えっちだ。

 

 葛西たちが何を話しているかは、休憩スペースの外からではわからない。

 さすがにこれ以上近づくのは無理そうだ。

 

 俺はその場面をスマホで撮影して、後で神楽坂さんに見せようと思い、画角をいろいろ工夫してみた。

 しかし、角度をつけたり、拡大縮小したりしても、どうしてもふたりの姿をフレームに収められない。

 

 えーい、一瞬に賭けるっ!

 俺は柱の陰から一瞬飛び出して、シャッターを押す。

「カシャッ!」


「あっ、ハルマチじゃないか!」

「あ、あんた、いま写真撮ったねー? 見せなさい!」


 ヤベ、見つかった!

 俺は慌てて、すぐ近くの出口から図書館の外に逃げ出す。

 しばらくダッシュしたところで振り返ると、葛西がもう俺のすぐ後ろまで迫っている。

 ダメだ、これじゃ振り切れない。

 図書館の敷地の外に出る手前で、俺はあえなく葛西に捕まった。


「……よ、よぉ、こんなトコで奇遇だな?」

「奇遇だぁ? おまえ、いつから俺たちの存在に気づいてたんだ?」

 すぐに葛西の追及を受ける。

 その間に、ようやく茅場が俺たちのところまで追いついてきた。

 

「いや、たった今だけど? たまたま俺が図書館に入ったら、入口すぐの休憩所でおまえらを見かけてさ。で、つい……」

「……そのわりには東、荷物とかまったく持ってないじゃん。図書館来るのに手ぶらで来たってワケ?」

「うっ……」

 なんでこんなときに限って、茅場のヤツ鋭いんだよ。


「正直に言えば、情状酌量の余地があるかもしれんぞ」

「へへー、お奉行様、まことに申し訳ございません。お慈悲をお慈悲を……」

 

 俺はちょっと前にチャリで自学自習スペースに来たこと、そのときにふたりの姿を見つけたこと、葛西が茅場の手を引いて席を外したのでそれを追いかけて休憩スペースに行ったことを正直に話した。


「あっ、あっアンタ、まさか……んっ、んん、東、わたしたちが何をしてるところを見たの? お、怒らないから見たものを正直に言いなさい! さっさと言えっ!」

 茅場が俺の胸ぐらに掴みかかろうとするのを、葛西が「茉稚、まあまあ落ち着いて」と抑えている。

 

「いや、別にそんな……たいした場面は目撃してないけどさ。そうだなぁ、茅場がすごく柔らかい笑顔を葛西に向けてるとか、肩を寄せ合って勉強してるとか、葛西が優しく茅場の髪を撫でてるとか――」


「――東、今すぐ消去しろ。脳内から。今すぐに」

 茅場がヒトゴロシの目で俺のことを見据えている。

 目が据わってて、マジでヤバい。ヤバ過ぎる。

「は、はいっ! わ、わかりましたっ!」

 こ、こわっ!


「あと、スマホ出して。さっきの写真すぐ消しなさい」

「は、はいっ! ……こ、この写真でしょうか?」

 ベンチに座って、仲睦まじく手を重ねて合って指を絡めて、見つめ合っている葛西と茅場の写真。

 ……いい写真じゃないか。

「消せっ!」

「ハイッ!」

 消去。その前に撮った窓の外の風景写真が表示される。

 

「あーあ、いい写真だったのに」

「あんな写真、恥ずかしいのっ! 髪の毛もボサボサだったし、いやなのっ!」

 茅場が超恥ずかしがって、真っ赤になって怒っている。

 

「……ちょっと残念。なかなかいい写真だったよな」

 葛西が、こそこそっと俺だけに聞こえる声で耳打ちする。

「ハイそこ、何をコソコソ話したの?」

 茅場の追及に、葛西がしれっ、と答える。

「いや、茉稚が可愛く撮れたいい写真だったから、もったいなかったなー、って言っただけだよ」

「――――!」

 

 茅場はさっきまでの怒りの赤さとは違った真っ赤な顔になって、黙り込んでしまった。

 さすが葛西。茅場の扱いには慣れている。


          ☆☆☆


 茅場が落ち着くのを待って、俺たち三人はさっきの休憩スペースに戻った。

 さすがに屋外は暑すぎて、あれ以上あそこにいるのは無理だ。

 図書館に入ると、たちまちすうーっと汗が引く。

 こりゃ、みんなが集まってくるわけである。


 自販機でスポドリを買ってからベンチに座る。

 葛西たちは俺の目を意識してか、さっきより少し離れて座っている。

 俺はスポドリを開けてゴクゴク飲むと、ハーッ、と深くため息をつく。


「……おまえらはいいよなぁ。こうやっていっしょに勉強したりして。うらやましいぞ、まったく」

「何が。おまえだって、神楽坂さん、いや、もう神楽坂先生か、とは、よく会ったりしてんだろ?」

 そこへ茅場が口を挟む。

「いやアリオ、それが美沙ちゃんったら、夏休み入ってからずーっと研修だって聞いたよ。だから東も、なかなか会えてないんじゃないの?」

 

「……アリオ、だと?」

 茅場が「しまった」という顔をする。

 へー、ふたりのときは、そんな呼び方してんだ。

 今はいったん、呼び名の件はスルーしておく。

 

「そう、茅場の言うとおりだよ。俺たち全然会えてないんだよなー。夏休み前の臨時会議だっけ? あれ以来、直接会ってないんだよ」

「マジでか? さすがにメッセージとか通話では話してるんだろ?」

「ま、いちおうはな。でもいろいろ忙しいらしくて、なかなかな……」

「そうなのか……」


 葛西は気の毒そうな顔で俺のほうを見る。

 同情されるとかえってミジメな気分になるから、やめてほしい。

「まあ、神楽坂先生も合宿には参加するんだから、そのときに今までの分を取り返せばいいじゃないか! な?」


「アリオ……んっ、葛西くん、それはダメ」

「えっ?」

 茅場の指摘に、葛西が驚く。

「なんで?」

「だって、東と美沙ちゃんの関係は、オンケンのみんなには秘密だもの。下手にバレたら休み明けに学校中に広がって大変なことになる。そしたら、これまでの苦労が水の泡になるのよ。忘れたの?」

「……そうか。そうだったな。ハルマチ、すまん……」


 そうなのだ。

 俺と神楽坂さんとのお付き合いは、学校には秘密にしなければならない。もし俺たちが付き合ってることがバレたら、俺が退学になるか、神楽坂さんが養護教諭をクビになる可能性が高いのだ。


 だから、オンケン部員にもそのことは知られてはならない。いっしよに合宿に行っても、海で遊んだり、BBQや花火をしても、盛り上がって神楽坂さんに迂闊に接触してはダメだ。


 周りの人に気取られてはならないのが、俺たちの関係なのだ。


「東と美沙ちゃんには気の毒だけど、合宿では本当に気をつけてほしい。落合なんかに、もしそんなこと知られたら、あなたたちだけじゃなくてオンケンもおしまい。顧問不在で取り潰しよ」

 茅場の心配はもっともだと俺も思う。


「大丈夫だよ」

 葛西が元気づけるように言う。

「ハルマチ心配すんな。俺たちがなんとかしてやる。合宿の中で、できるだけおまえたちがふたりきりになれるチャンスを作るから。な、茉稚、いいだろ?」


 それを聞いた茅場は、はーっ、とため息をつく。

「葛西くん、またそんなこと言って……。そんな簡単な話じゃないわよ、それって。……まあ、でも、葛西くんはそういう友達想いなところがイイところだし。美沙ちゃんのためでもあるからなぁ……」

「おい、そこに東くんのため、ってのは入らないのか?」

「……はぁ? 東、何言ってんの? 入ると思ってんの? あつかましい」


 なんだかんだといいながら、合宿では葛西も茅場も俺たちに協力してくれそうだ。

 照れ臭いから口にはしないが、俺は目の前のバカップルどもに心の中で感謝した。

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