20番 新体制スタート!(その二)
本日2/17(月)より、平日毎日連載になります☆
(大丈夫かなぁ……)
というわけで、今週もよろしくお願いします☆
さて、神楽坂さんが東西高校のOGと聞いて、さっそく落合がストレートな質問をする。
「ウチの学校のOGって、神楽坂先生、何年くらい前に卒業されたんですか?」
「おい落合、おまえいきなりそんな質問するなよ」
常識人である原木が、すかさず落合に注意する。
「なんで? だって知りたくない?」
「まあ、知りたくないワケじゃないけどさ……その質問って、女性に年齢聞いてるのと同じだろ? 先生に対して失礼じゃないか」
原木は落合に常識論を説くが……原木よ、それはムリがあると思うぞ。
「え、わたし、自分が同じ質問されても、別に気にしないよ?」
「いや、高校一年のおまえが十五か十六なのは、聞かなくてもみんな知ってるだろうが」
「ふぉっふぉっふぉ。こう見えてワシはそんな小娘ではないぞよ。当年取って八十五なのじゃ。十年取らないと九十五なのじゃ」
「…………」
常識が通じない落合に、原木は呆れ顔だ。
「原木くんの負けね。同級生なんだから、落合さんってそういう人なのはわかってるでしょうに。原木くんも懲りないわね。横で見てる分には面白いけど」
「くっ!」
同じ一年生である中山清華の冷静で端的な評価に、原木は絶句する。
落合は「わーい原木に勝った勝った! 清華ちゃん、大好きー♡」と大喜びだ。
「まあまあ、わたしのいた頃の話は、そのうち追い追いする機会もあると思うので、楽しみにしててください」
神楽坂さんは苦笑いしながら、この話を終わらせる。
神楽坂さんがここの生徒だった頃の話をしてしまうと、オンケンの初代部長だったとバレそうだから、神楽坂さん的には、この話題を早く終わらせたかったのだろう。
という感じで、新旧両顧問の挨拶は終わり。
次は新入部員である俺の自己紹介である。
茅場が話を切り出す。
「えー、次はこのタイミングで新たに加入することになった新入部員、それも二年生のくせに加入することになった新入部員を紹介します。……それじゃ東、とっととやって」
「おい茅場、それが新入部員に対する態度かよ! もう少し丁寧にだな……」
「あのさ東、それが部長に対する態度なの? わたしは『おい茅場』なんて名前じゃありません。新入部員なら新入部員らしく、部長に対して、もう少し敬意を払った丁寧な態度を取るべきでは?」
「うっ……」
そのやり取りを見ていた神楽坂さんが、目の奥で楽しそうに笑っている。
「あー残念。原木くんに続いて、今回は東くんの負けね」
今度はさくらちゃんが冷徹な評価を下す。
それを聞いた原木は、負け仲間ができてちょっと嬉しそう。
同情と仲間意識に満ちた原木の視線がウザい。
チクショーッ!
「二年C組、東 陽町です。葛西の同級生です。よろしくお願いします」
ボソボソと簡単に自己紹介すると、葛西が突っ込んでくる。
「葛西『副部長』だよね?」
葛西、おまえもか!
「……葛西、ふ・く・ぶ・ちょ・う・の、同級生ですっ! よろしくお願いしますっ!」
ふんっ!
「まあまあ、あんまりイジるとかわいそうじゃないですか。もう少し優しくしてあげましょうよ? 可愛い後輩部員だから、すぐやめられても困るし」
余裕をブッこいた落合がニヤニヤしながら「ねっ?」とウインクしてくる。
何が「可愛い後輩部員」だ。何が「ねっ?」だ。
マジ、ウゼー!
さらに落合が追い討ちをかけてくる。
「そういえば、茅場部長が東先輩をやたら勧誘してたから、てっきりわたし、部長が東先輩のこと好きなのかと思ってたんですけど――」
おい、この期に及んでナニ言い出すんだ、このヤロ!
「お、落合、アンタなに言ってんの?」
「たしかに勧誘はされたけど、そんなワケないだろ!」
茅場と俺は、同時に落合の暴言に反発する。
「あーすみません部長、それって明らかにわたしの勘違いでした。まあ、葛西先輩と東先輩を比べたら、普通に葛西先輩選びますわ。東先輩と付き合いたい人いたら見てみたいですね。てへ!」
「…………」
まったく落合は、ほんとに地雷踏むの好きだな!
俺はまあバカにされてもいいけど……。
神楽坂さんのあの顔と、茅場と葛西の気まずそうな顔見てみろよ!
おまけにさくらちゃんなんて大爆笑するわけにもいかず、顔ひきつらせて、笑うのを必死に我慢してんじゃんかよ。
場が気まずくなったことは、なんとなく落合も認識したらしく、「あは、あはは、いやー、ねえ?」などと言ったあと、しゅん……と黙りこみ、おとなしくなった。
「えー、気を取り直して、続けます!」
茅場が改めて場を引き締める。
「先ほども少し話題が出ていましたが、葛西くんの副部長就任の件です。では葛西くん」
「はい、この度、副部長に就任することになった葛西です。よろしくお願いします」
葛西は立ち上がり、頭を下げた。
「俺が今回、副部長に就任するのは、これからオンケンの活動を活性化させ、今までよりも発展させるためです。ここで言う発展というのは、単にオンケンの人数を増やして、規模を大きくするという話ではありません」
葛西はみんなの顔をぐるりと見渡す。
「われわれ音楽研究部は、音楽全体を活動範囲にできます。吹奏楽部が吹奏楽の演奏に、軽音楽部がロック系の音楽の演奏に、それぞれ特化しているのに対して、古今東西あらゆる音楽を対象に活動できるのです」
演説は続く。
「場合によっては、われわれだって演奏したっていい。何をするかはわれわれが決める。ここ数年のように、毎年似たようなことをやる必要はない。音楽を自由に楽しむ活動をみんなでやる。それが副部長の使命です」
「これから何をしていくか、しっかりと決めて、秋の文化祭に臨みたい。そのためにみなさんに宿題を出します」
「えー、宿題ぃー?」
しばらく黙っていた落合が、宿題というキラーワードに敏感に反応を見せる。
ここで茅場が葛西に変わって話し出す。
「合宿をします! 海です! 花火もやります! その合宿で今後のオンケンの活動方針を決めます。宿題というのは、今後の活動をどうしたいかを考えてきてもらって、合宿のときに発表してもらう、ということです」
「海、行くっ!」
落合が、宿題と言われたときとは正反対の反応を示す。
「合宿ですか。いいですね。オンケンってそんなのない部だと思ってました」
原木も前向きのようだ。
「あー、わたし水着持ってないですよぉ。どうしよう」
「大丈夫、わたしもスク水しかないし。清華ちゃんいっしょに買いに行こ!」
中山が難色を示すのに、落合が絶妙にフォローする。
茅場と葛西は顔を見合わせて、うなずき合ってる。
このふたりの間では、合宿実施の方向で意志統一が図られているようだ。
俺はおそるおそる、神楽坂さんの顔色をうかがう。
と、こちらを見ていた神楽坂さんの視線と、俺が向けた視線とが正面から合ってしまう。
優しく微笑む神楽坂さん。
そこへ茅場が切り込んでくる。
「神楽坂先生、オンケン部長としては、活動活性化に向けての合宿が必要と考えているのですが、ご意見いかがでしょうか?」
美沙ちゃん、わかってるでしょうね、と言わんばかりの茅場部長のアツを神楽坂さんは緩やかに受け流す。
「そうですね。今後の活動方針を決めるなら、ある程度の時間が必要でしょう。放課後の活動では時間が短くて、まとめるのが難しいわ。合宿で時間をかけて話し合いをするのは良い考えだと思います。やりましょう」
やったー、合宿だー、と一年生たちが喜びを爆発させている。
部長と副部長もホッとした顔だ。
俺は念のため、神楽坂さんに確認する。
「神楽坂先生、質問があります」
「東……くん、なあに?」
「その、合宿には、先生も参加されるのですか?」
神楽坂さんは、いたずらっぽい目をして俺の問いに答える。
「高校生の男女だけでの合宿では、いろいろ親御さんを心配させてしまうおそれがあります。みなさんに最初から最後まで責任もって付き添うのが、顧問の務めだと考えていますので、当然わたしも参加しますよ」
マジか……それ、俺、ヤバくない?
だって、お付き合いしている大好きな彼女と、ひとつ屋根の下で泊まっちゃうってコトだよね?
おまけに海! あの魅惑のふくらみを水着姿で見られちゃうかも、ってこと?
あああ、そんな夢みたいなコト、ほんとにあるの?
にわかに俺の心臓の鼓動は速まり、顔に血が上るのを感じた。
「はい、では合宿の詳しい日時とスケジュールなどは、別途アプリで連絡するので、グループに未登録の人はこの場で登録してください」
葛西がテキパキと事務的なことをこなしていく。
あ、コイツと茅場もひとつ屋根の下で一夜を過ごすワケか。
俺の頭の中は、いろいろエロいことでいっぱいになってしまい、もはや神楽坂さんのことをマトモに見ることもできない状態になってしまっていた。




