【連載再開!】19番 終業式の前(その一)
2025年2月10日から連載再開です!☆
ただし、これまでよりもちょっと連載のペースが落ちます。ごめんなさい☆
平日の月・水・金の朝(7時2分ごろ)1日1回アップするつもりですが、都合により抜けたり、休止するかもしれません(原稿作成が自転車操業なもんで・・・笑)☆
引き続きお付き合いいただけましたら、うれしいです☆
ブクマ&評価をいただけると、もっとうれしいですww☆
期末テストが終わり、その結果はそれぞれに悲喜こもごもがあったものの、テストの返却が終われば、後は夏休みを待つばかりだ。
特に俺たちは「高二の夏休み」という、アオハルど真ん中を迎えることになるわけで、わが二年C組メンバーもなんとなく全体的にアガった感じになっている。
もしかすると俺がそんなふうに感じるのは、俺自身の気持ちが、かつてないほど高揚しているからなのかもしれないが。
この高揚感のヤバさは、自分自身が一番よくわかっているつもりなのだが、普通にしているつもりでもニヤニヤが止まらない。
あああ、神楽坂さん……好き♡
このところ、たしかに俺はかなり変になっていた。
何も面白いことが目の前で展開していないのに、俺が自席でニヘラーっと笑みを浮かべているのを見た隣席の女子が、恐怖のあまり席から逃げ去るほどに。
まあ、それはそうだろう。
なにせ、生まれてこの方、女子にモテたためしのない俺に、初めてコ・イ・ビ・トができたのだから。
「あ、あんたさー、恋人って言葉を一文字ずつ区切って発音するとか、ホントやめてよ! 彼女ができて嬉しいのはわかるけど、ハッキリ言って超キモいから!」
茅場が思わずそんなことを言ってしまうほどの変さ加減だが、そんなことでは俺はくじけない。
これが愛のちからだ……素晴らしい!
「ちょっと葛西、あんたの友達でしょ! なんとかしなさいよ」
「ああ、本当にすまん。まさか東がこんなふうになるとはまったく思ってなかった」
神楽坂さんからの「愛の挨拶」のあと、俺は神楽坂さんの説得というか、お勧めというか、まあどちらでもいいが、そういうものに応じて、オンケンへの加入を了承した。
神楽坂さんの部屋で、神楽坂さんがどんな表情で、どんな仕草で、俺を口説いたか――ここで言う「口説く」は、オンケン加入を説得したって意味だからね!――については、ふたりだけの秘密にしておきたい。
とにかく俺は、あれほど拒絶感が強かった部活動であるオンケンへの加入を了承した。
そのことを葛西に申し出たときの葛西の驚きぶりは、こちらが驚くほどだった。
「おまえさ、これ『入部届』って書いてあるんだぞ?」
「ああ、それくらいは『御侍史』が読めなかった俺でも読める」
「おまえ、本気でオンケンに入部する気なの?」
「もちろんだ。てか、この『入部届』はおまえが作ったもんだろ?」
「まあ……そういえば、そうなんだが」
そんなやり取りの末、俺はついに入部届に自分の名を書き込んだ。
入部届は、葛西から部長である茅場に届けられ、現在のオンケン顧問である飯田橋先生に提出された。
「まあ、今まで東くんがオンケンに入ってなかった、ってこと自体が不思議だったのよね。あれだけいろいろ活躍したのに、部員じゃなかったなんてさ」
飯田橋先生は茅場部長にそんなことを言ったらしい。
飯田橋先生は自分の確認印を押すと、部活動を統括している教頭先生に入部届を提出し、これで俺は正式にオンケン部員となった。
☆☆☆
「東、ちょっといいか。話がある」
夏休みに突入する少し前、終業式まであと数日、というタイミングの昼休み、葛西と、あと珍しく茅場が揃って俺のところにやってきた。
「おやおや、最近仲の良いおふたりがお揃いでお越しとは珍しい」
俺は少しおどけてふたりを迎えたが、ふたりはニコリともしない。
なんだ?
「悪いけど、部室でいいか?」
葛西がそう言い、茅場も黙ってうなずく。
「まあいいけど……」
断る理由もないから、俺はそう答えた。
三人で社会科資料室に向かうが、その間も葛西も茅場もひと言も話そうとしない。
「んで? 改まってなんだよ、ふたりして辛気臭いなぁ」
「…………」
ふたりとも無言なのだが、ふたりの間で「あんたが言いなさいよ」「いやそっちが切り出せよ」みたいな空気感が滲んでいる。
こういうときに必ず貧乏くじを引かされる葛西が、茅場のアツに負けて、しぶしぶ口火を切る。
「あのさ、今度の終業式でさくらちゃんと神楽坂さんのバトンタッチが発表されるじゃん?」
「ああ、そうだな。それが?」
そう、夏休み前の終業式のタイミングで、飯田橋先生の休職と神楽坂さんへの引き継ぎがお披露目される予定になっている。
夏休み期間中も、学校が開いているタイミングでは保健室は開ける必要があるし、夏休み中には養護教諭の研修会なんかもあるらしい。
そんな事情を踏まえたお披露目が、ほんの少し先に予定されているのだ。
「それでなんだが……」
「うん?」
葛西が超話しづらそうにしている。
言うべき時には、わりとはっきりモノを言う葛西にしては、かなり珍しい。
「……校内では、おまえと神楽坂さんの関係は、隠しておいた方がいいんじゃないか?」
「どういう意味だ?」
俺は軽く混乱する。
茅場が割り込んでくる。
「葛西のことを悪く思わないでね。葛西だって、東にこんなこと言いたいわけじゃないの。わたしと葛西で相談して、わたしたちの考えを伝えなきゃって思ったの」
「……どういうことだよ」
葛西が茅場の発言を引き継ぐ。
「おまえと神楽坂さんがうまくいって、おまえが本当に嬉しいだろうことはよくわかる。俺たちだってそうだ。ちょっと前から、俺たちふたりは正式に付き合うことになった」
「それはよかったな。おめでとう」
「俺たちがこうなれたのは、おまえのおかげによるところが大きい。だから、おまえには本当に感謝している」
「東、ありがとう。あなたが今回の顧問の件でがんばってくれなかったら、わたしたちは付き合えてなかったと思う。わたしも感謝してるわ」
「それじゃ、なんでそんなことを」
「おまえと神楽坂さんは、俺たちと違って生徒同士じゃない。先生と生徒の関係だ。先生と生徒が付き合ってるなんて学校に知れてみろ。大変なことになる」
「…………」
葛西は毅然として、俺にそう告げた。
そう言われてみれば、たしかにそうだ。
なにせ学校は、さくらちゃんと浦安先生という先生同士の関係でさえ隠している。
先生と生徒が付き合ってるなんてわかったら、どんなことになるか。俺が退学させられるか、あるいは神楽坂さんが学校から排除されるか。
「これは、茉稚は絶対、口にしたくないだろうから俺から言っておく」
葛西が真面目な顔で言う。
「もし神楽坂さんが学校から排除されれば、今度こそオンケンは潰れる。茉稚はオンケンを潰した部長ということになる。俺は茉稚をそう呼ばせたくない。オンケン存続のため、おまえたちのことは隠すしかないんだ」
葛西からすれば、そうだろうな。
俺からしても、もしそんなことになれば、せっかく自分が骨を折って繋いだオンケンの歴史を自ら途絶えさせることになる。
「おまえたちの考えはわかったよ。言ってることも、まあ理解できる。俺と神楽坂さんとの関係は、秘密にしたほうがよさそうだ」
葛西と茅場はホッとした顔だ。
「そうか、わかってくれるか。よかった」
「ただ……頭では理解できても、気持ちの面では納得できないんだよなぁ」
それはそうだろう。
自分の彼女を公言できないなんて、そんな殺生な話はないだろ?
ましてや、俺にとっては初めての彼女だ。
「神楽坂さんと相談させてほしい。もし秘密にするなら、当たり前だけど彼女の理解と協力がいるだろ」
「もちろん、そうだな」
葛西は言った。
「せっかくうまくいって付き合いだしたのに、こんな話をすることになるなんて、本当にごめんなさい。美沙ちゃんにも申し訳なく思ってるわ……ごめんなさい」
茅場は、少し後ろめたそうに、そう言った。
俺がオンケンに関わりを持たず、俺と神楽坂さんのお付き合いだけが実現し、葛西と茅場は付き合うことはなく、オンケンは顧問不在で消滅――そんな未来があり得たのだろうか?
俺にとっては、今の状況は一連のもののように思える。俺がオンケンに関わらなければ、神楽坂さんとの関係は今のかたちにはなっていないだろう。
いずれにせよ、終業式の前に神楽坂さんとは話し合う必要がありそうだ。
俺はさっそく、神楽坂さんにアプリでメッセージを残すことにした。




