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プロローグ

 その日、あたくしは浮かれていた。

 憧れの王子殿下と初めてお会いする日だったから。あたくしは3歳の頃に聖力に目覚めて以来、ずっと中央教会の片隅にある離宮に住んでいたから、男性、特に王子様というものに、憧れていたのだ。

 聖力というのは、救国の聖女のみが使える神聖な力で、これを持っている人間はこの世界に殆どいない。聖力をもっていれば聖女なので、あたくし以外にもこの国には聖女がいるけれど、あたくしの聖力は圧倒的に強いから、あたくしは特別だった。聖女は他にもいるのに、この中央教会に保護されている聖女があたくしだけなのも、それが理由。この中央教会がわざわざ聖女を保護することはほぼ無くて、選ばれた聖女は、基本将来的には法皇になる。法皇は状況によっては皇帝陛下と同列、宗教関連に於いては周辺国家にも強い影響力をもっているぐらい、偉いのだ。つまりあたくしはとても特別。

 話をもとに戻すけど、教会の人達は、あたくしと今日お会いする王子殿下に婚姻してほしいらしい。王子殿下は公爵家の令嬢が許嫁らしいけど、枢機卿達に言わせてみれば、本人の気持ち次第ではどうとでもなるらしい。なんといってもあたくしは特別だし。枢機卿達も、法皇猊下も、あたくしに期待しているんだって。だから、あたくしは頑張らなくてはいけない。


 舗装された石畳の上だろうと、馬車というのはガタガタ揺れる。だからかしら、なんだかあたくしは頭がぐらぐらとして、気持ちが悪かった。でも、そんなことは気にしない。憧れの王子さまにお会いできるわけだし、それに、いろんな方から期待されているんですもの。そう思うと、自然と口角があがった。

 王宮はきらびやかなところだった。中央教会とはまた違った、華やかで豪華だけど、決して下品ではない、洗練された、素敵なところ。さっきから頭痛が凄いけれど、今更体調が悪いです〜なんて言うわけにもいかないので、我慢する。こんな日に頭が痛くなるなんてついてないなぁと思いながら、重厚な絨毯の上を歩く。王宮の女官達に案内されたのは、綺麗な青いバラの花が咲くガラス張りの温室だった。美しい花に囲まれて、可愛らしいティーセットとお菓子の置かれた丸テーブルがある。王子は椅子に座っていたが、あたくしをみるとすっと立ちあがった。

「聖女エルフリーデと申します。お目にかかれて光栄ですわ、ヘルフリード王子殿下」

どんどん強くなる頭痛に耐えながら、必死に頭を下げて挨拶をした。カーテシーはちゃんと出来てるかしら。顔を上げると青い薔薇の中でたたずむ王子は何かを考え込むような顔をしていた。青い、薔薇?青い薔薇なんて、存在したのね、あれ?あたくし、青い薔薇の咲き誇る温室を、みたことがなかったかしら。なんだか、やけにこの温室に見覚えがある、なんだか、なにかの絵画でみたような、そんな気がする。なんだか世界の色がぐちゃぐちゃとまわりはじめたようなきがする。あたまが、いたい。

王子殿下は何かを言ったようだ。音がやけに遠くで聞こえる。唐突に強烈な眠気にも似た感覚が襲ってきて、あたくしの世界は真っ白になった。





「悪役令嬢に転生したけど、お花畑聖女に代わって世界を救ってみせますわ!」

コッテコテの何度も聞いたことがあるようなテンプレ悪役令嬢転生モノの題名。ありがちな題名だけど、悪役令嬢転生モノとは思えないぐらいの鬱展開マシマシのシリアスストーリーで、話題になったなろう系小説。某ランキングでも数年連続でオンナ編1位を取り続け、知名度も人気もそれなりにあった。あたくしは、アニメで観たぐらいのにわかだったけど。公爵令嬢である主人公は、幼少期に前世を思い出し、この世界が前世にプレイしていた激鬱乙女ゲーであること、そして自分はその悪役令嬢であると気がつく。自分と世界の破滅の両方を防ぐために活躍しながら、乙女ゲーの攻略キャラ達と恋愛する、という話。よくあるやつ。

あぁ、あたくし、このラノベに出てきたお花畑聖女だ。

強い聖力を持っていて、温室で大切に育てられた、聖女。まさか自分が転生するなんて思いもしなかったから、細かい設定覚えてないけれど、見ていてかなりイライラした記憶がある。


あたくし、ヤバいかもしれない。小説通りに話が展開したら、あたくしは色んな人に見捨てられて最期は犬死にだ。

でも、そんなのいやだ。あたくし、少なくとも今までずっと頑張ってきたのに。お父様とお母様に会えなくても、ずっと、ずっと。

あたくしは、しあわせになりたい。






目が覚めたら、見知らぬベッドの中にいた。

ぼんやりと精緻な幾何学的模様のある彫刻が彫られた天蓋をながめる。

あたくし、王子殿下にお会いしたところで、倒れたんだった。ということは、ここは王宮なのだろうか。ベッドから起き上がり、天幕に触れる。人が動く気配がした。王宮の侍女だ。

 コルセットだのなんだのは全て脱がされていていたので、侍女にドレスを着させてもらう。

支度が終わると、扉がノックされて、王子が入ってきた。

あたくしはどうしたらいいのかしら。正直少し考える時間が欲しい。ここは小説の中の世界だとしたら、多分王子とのファーストコンタクトって大切だと思うの。乙女ゲー内だとメイン攻略キャラで、小説内だと主人公の悪役令嬢と最後に結ばれるから。ひとまず、小説と全然違うことをしてみるべきなのかしら。全然なにをするべきかわからないわ。関わらないなんて無理に決まってるし、ここはもう、主人公の悪役令嬢と仲良くなるべき?

「お入りになってください」

扉が王宮の侍女によってあけられた。想定どおり、扉の前に立っていたのは王子殿下。


さぁ、あたくしこれからどうしましょう。あたくしは、たしかに賢くもないし、悪役令嬢と比べて器量にもおとるし、世間知らずなのかもしれないわ。


でも、あたくしはしあわせになりたい。一生懸命、頑張ってきたもの。このタイミングで唐突に都合よくこの世界が小説だと気がついたのだって、しあわせになりなさいっていう神様の思し召しにちがいないわ。



負け確聖女だけど、きっとしあわせになってみせる。




読んでくれてありがとうございます。バカであんまり良くない意味で純粋な聖女が、割とハードな人間関係の中、がんばっていく話です。ちなみに、聖女は前世をあんまり覚えてません。現代日本で女だったことぐらいのふんわりした記憶です。それなのに何故か、この世界が(大して興味があったわけでもない)小説の世界だということだけ理解できた感じです。まぁ、肝心の作品の内容はざっくりしか覚えてないけど。

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