✜38 魂魄の生成と定着
「オラァァァ!」
ヒーローが叫ぶ。
オラついているところ悪いけど、ヒーローとセイントの相手は、ヤコとシュリに任せる。空間転移でふたりを背後へ送る。
そのままストラテジストと向かい合った。
「降参する?」
「ふざけるなぁぁ!」
軍師はあくまで軍師でしかない。伸縮型の警棒を伸ばして自分へ襲い掛かってくるが、ステータス差があり過ぎて、話にもならなかった。振り下ろしてきた警棒を何回か避けたが、しつこいので、受け止めて腕力に任せてへし折った。
「へぁ? ごぶぅ!」
呆気に取られた眼鏡を後ろの壁まで殴りつけて、吹き飛ばした。
「プレイヤーは、生き返るからいいけど」
「くそっ、死ね!」
瓶に入った粉を投げてきたので、手で振り払った。その途端に発火し、赤い炎が全身を包む。
「プレイヤー以外の人は生き返らないんだけど?」
「ぎひぃ!」
炎? まったく関係ない。燃え盛る炎に身を包まれたまま、ストラテジストを殴り、掛けていたメガネを吹き飛ばした。
「ひ、ひぃぃ」
コイツ、ふざけてる。分が悪くなったら仲間を置き去りにして空間転移で逃げた。
後ろの状況は……。
ヤコが、ヒーローとセイントをボコボコにしていた。ヒーローがシュリを人質にしようと方向を変えたら、シュリの重力魔法で潰されて動けなくなっていた。
汚なッ……ヒーローってダークヒーローの間違いじゃない?
ヤコもシュリも全然、まだ本気を出していないのに軽く遊んでいるように見えるので、ここは彼女たちに任せて大丈夫だろう。
空間転移って水の流れに似ているかも。転移前が排水口だとしたら、転移先は蛇口のようなもの。空間の乱れと流れが目に見えるようになっていた。だから眼鏡がどこへ転移で逃げたかも一目でわかる。
空間干渉を使って転移した先にはダンジョンの中と思しき場所へ出た。
「本当に追ってきやがった……でも、ここがお前の墓場だ」
まだ懲りてないな……。
体高が10メートルくらいある頭が魚で全身鱗で包まれた化け物。腕が6本あり、すべての手に巨大な槍が握られている。ステータスをみると「グレータ・サハギン」と書かれている。
これがダンジョンのボスなんだ。
ストラテジスト……眼鏡を無くした男は、どうやらこの迷宮主を支配下に置いているらしく、グレータ・サハギンが、命令に従って、自分へその槍の穂先を向けてきた。
せっかくだから上位天使タバサからもらった新しいチカラを使ってみる。
【第2位指定管理者】の特権である1日に10回できる魂魄の生成。1回ずつ行えば普通に10回なのだが、一気に10連を回したら11回引けるという、ありがたい仕様になっている。
空からソフトボールくらいの大きさの球が一個ずつ降りてくる。色によってレア度が変わってくるらしい。ガチャの最中はすべての時間が止まっていて、眼鏡を無くした眼鏡やグレータ・サハギンもその動きを止めている。
01【N】
02【HN】
03【N】
04【HR】
05【N】
06【R】
07【N】
08【SR】
09【N】
10【N】
お、11回目で昇格演出が始まった。降りてくる球の色が赤、橙、黄、緑、青、藍と色が変わっていき、手元に到着した時点で紫色になり、まぶしく光りはじめた。
11【LR】
よっしゃ! きたコレ!? えーと、LRだからレジェンドレアでいいのかな? まあ演出が始まった時点で、超レアなヤツになると思った。
そして、この魂魄たちをNPC生成で作ったカラダに定着させると……。
まあ、なんということでしょう! これからダンジョン島を盛り上げてくれるキャラ達の出来上がり!?
【N】 農夫
【HN】魔法使いの弟子
【N】 吟遊詩人
【HR】魔法使い
【N】 兵士
【R】 騎士
【N】 旅人
【SR】魔法画家
【N】 学者
【N】 酒場の主人
【LR】賢者
農夫、吟遊詩人、学者、酒場の主人は迷宮主を攻略するうえで、役に立ちそうも無いので後方に下がってもらう。もちろん、あくまで戦闘に対しての話だ。彼らは畑や街の運営にはなくてはならないキャラとなっている。
前衛がちょっと心細いか? テコ入れとして、ゴーレムを2体生成して彼らの盾代わりとなってもらうことにした。
「おっと、もう逃がさないよ?」
「なっ、なんで転移魔法が使えな……がはぁッ!?」
また逃げようとしたので、空間系能力の上位に位置する空間干渉でストラテジストの逃亡を阻止し、余計なことができないよう、1発ぶん殴っておいた。
いやぁ、腕が6本もあるのは卑怯だよね。騎士とゴーレム2体が盾役になっている間に兵士と旅人が横から斬りつけようとするが、すべて遮られて逆に何度か致命傷をもらいそうになっている。
魔法使いの弟子と魔法使い、賢者はそれぞれ魔法の詠唱をしていて、魔法使いの弟子は初級程度の魔法なので詠唱が早めに終わったが、グレータ・サハギンの硬い鱗の表面をほんのり焦がしたくらいで効いてない。次に唱え終わった魔法使いの風の刃は鱗を数枚剥ぎ取れはしたが致命傷には至っていない。残る賢者の長文魔法はおそらくシュリと同等程度の威力はありそう。魔力がどんどん杖の先へと集まっている。
おもしろいと思ったのは魔法画家。最初戦えるの? と心配になったが、描いた魔獣……リトル・グリフォンがキャンパスから飛び出して、空からグレータ・サハギンの注意を引くよう上手く立ち回り始めた。
最後は賢者の上位氷結魔法が完成して、グレータ・サハギンを瞬間冷凍したのち、パキパキとクラック音が鳴るとバラバラに粉砕した。
あ、やっちゃった。
すっかりグレータ・サハギン戦に意識が向いてしまっていた。油断していた自分を背中から緑色の液体が滴る毒のダガーで刺そうとしたストラテジストを絵から生まれたリトル・グリフォンがその鋭い趾で頭部を鷲掴みにして、勢いよく壁に叩きつけてしまった。
残念、いろいろと聞き出したかったのに……。
【ファンタジー小噺37】
攻める王女に守りの姿勢の勇者、のお話
王女:まあ勇者様、よくぞ魔王を討伐してくださいました
勇者:あ……はい、当然のことをしたまでです
王女:それで、父が約束した例のめでたい話を……
勇者:そういえば辺境にまだ魔王軍の残党が!
王女:まあ大変、討伐軍を向かわせますわっ
勇者:いえ、そんな、僕が最後まで責任を持ちます
王女:勇者さまは違う責任もあるのではなくて(ぽっ///)
勇者:最近、隣国に怪しい動きが、行って確かめてきます
王女:ご心配には及びません。すでに斥候隊が向かっています
勇者:うっ、不治の病の「旅に出ないと死ぬ病」が!
王女:まあ、大変、どこまでもお供しますわっ
勇者:攻撃力高すぎ(泣)




