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✜23 素晴らしきクソゲー


 試練が始まった。その名も「ドッキドキ人生ゲーム」……いや、ネーミングセンス!?


「あれを見るのじゃ」


 上の方に白くて丸い大きな球が浮かんでいる。


「お主らのキャラクターじゃ」


 3つの白い球の中にそれぞれ人物が映っている。シュリとヤコ、もうひとりは……え、自分!? ……でも、なんか可愛いんだけど?


「これから始める試練のためにアラタだけ性別を入れ替えたのじゃ」


 うわぁ……なにそれ、ちょっと面白いかも。


「アラタ、お前、嬉しそうだな?」

「えぇぇ!? いや全然そんなことはないよ」


 ヤコに誤解されるところだった。危ない危ない。


 いや、ただちょっと面白いかなって思っただけで、本当になりたいわけじゃないし、うん。


「舞台は魔法学園、攻略対象である同級生の皇子と婚約できたら、試練クリアじゃ」


 プレイヤーは自分とシュリとヤコの3人。人生ゲームっていうからボードゲームのヤツを想像していたけど、これって乙女ゲーだよね。どうしよう。一度もやったことないんだけど?


 シュリとヤコがまだよく理解できてないようなので、乙女ゲーの基本的なルールを説明する。するとふたりとも顔を真っ赤にした。うん、ダメだなこりゃ……。


 ゲームが始まった。3人とも校門の前に立っている。リンクはしておらず、どうやら別々でゲームをやるようだ。


「きゃっ!」

「ボーっと立ってんじゃないわよ、レイシア様の通行の邪魔でしょ」

 

 お、さっそくイベントが始まった。

 

 3人の女子のうち一人がキャラクターの肩をつかまえて横へ退かそうとしてきた。


【コマンド】───────────────

  おとなしく、道を譲る

 ➡相手の手を振り払う

 ─────────────────────


 シュリは謝りながら、おとなしく道を譲り、その場をやり過ごした。自分とヤコのキャラは肩をつかまえてきた女子の手を振り払い睨み返し、こう言った。


「邪魔なのはどっちなの? 貴女たちだけの道じゃないのよ」


 おー、いきなりビシっと言った。でも、序盤で対立して大丈夫なんだろうか?


「……行くわよ」


 目くじら立てて怒っているふたりに後ろの女子が声をかけると、おとなしく従った。たぶん奥の子がレイシアなのだろう。


「キミ、すごいね」


 自分とヤコのキャラに違うイベントが始まった。レイシアとその仲間を見送っていると、背後から声をかけられたので振り向く。


「ボクはミケル……ミケル・ユリウス」


 自己紹介されたが、どうやら彼がこの乙女ゲーの攻略対象、国の皇子らしい。主人公であるマイキャラが「これは皇子」と頭を下げている。


 ミケル皇子との会話の内容は先ほどの一幕……悪役令嬢レイシアとその取り巻きに引くことなく言い返したのを見ていてとても愉快で爽快な気分にさせてくれてありがとう、と礼を言われた。──見てたんだったら助けてやれよ、とツッコみを入れたくなるが、ゲームの世界の話だから都合よくデキているんだろう。


 球の中の場面が変わった。右上に暦が表示されているが、1週間が経過している。おそらくイベントが1週間ごとに発生して、数々の選択した内容によって皇子との婚約が成立するかどうかが、決まるんだと思う。


 悪役令嬢レイシアもミケル皇子に想いを抱いているが、皇子の方はというと、性格のきついレイシアが苦手らしく、敬遠しがち。主人公である自分達のマイキャラばかりに構うので、嫉妬の炎を燃やしに燃やして悪役令嬢ぶりを存分に発揮する。


 度重なる嫌がらせ。主人公がボッチになるよう、まわりに無視するよう働きかけたり、陰で悪口を言ったりと、なかなか味な真似をしてくれるが、所詮ゲームの中での話。自分は耐性があるので、別に気にならないが、シュリは「はわわわわッ」とずっと悪役令嬢に振り回され、ヤコは「そこから出てこい! アタイがぶっ飛ばしてやる」とゲームの中の悪役令嬢にキレている。やっぱダメだな、このふたり……。


 しかし、自分は違う。ジャンルは違えどゲームはゲーム。序盤でゲームの本質を見抜いて、群がる邪魔者を排除し、あざとく(したた)かな選択をしていく。欧米の強力な掃除機が如く皇子の心を吸引しまくること半年。皇子の好感度が早くもMAXに達し、婚約イベントが発生した。


「アラタ……ボクと結婚してくれ!」


 自分の名前がそのままキャラ名なのはちょっとイヤだな。だが、ゲームもすでに最終局面まできている。不満はあるが、ゲーム進行を優先すべくコマンド画面を確認する。


【コマンド】───────────────

 ➡「はい、喜んで!」

  「すこし、考えさせてください」

 ─────────────────────


 なにこれ? 皇子攻略がこのゲームの目的なのに断る選択肢っている? もちろん「はい、喜んで!」を選択した。


「キミに話しておかないといけないことがある……」


 なんだろう、まだ続きがあるのかな?


「実は我がユリウス家は代々、借金を多く抱えていてボクの代で全額返さないといけないんだ!」


 ミケルの父王から数代に遡って途費がはげしく、財政難に陥っている現状をさらに赤字国債を発行しまくって今日(こんにち)まで凌いできたが、もう限界に近いそうだ。


「だから、キミも一生懸命、ボクの……いや、国のために働いてくれ!」


【コマンド】───────────────

 ➡ 婚約破棄を言い渡す

  「はい、喜んで!」

 ─────────────────────


 ふっ、このゲームを作ったヤツ(サクラ)、ひとが悪いな、あとで自分の気が済むまでアイアンクローをお見舞いしてやろう。


 ゲームの中の話……だが、これは一択しかなかった。「やっぱりアナタとは結婚できない」と、婚約破棄を言い渡すと、謀反の罪で一生牢獄へ繋いでやると脅しをかけてきたので、次のコマンド選択で「知るかボケェェェ!」を選び、皇子に豪快なアッパーカットを喰らわせて、そのまま国外逃亡してバッドエンドで終わってしまった。


「どうじゃ? おもしろかったであろう」

「これ、サクラが作ったの」

「自慢ではないが、妾の傑作じゃ、どれ、感想を述べてみい?」

「知るかボケェェェ!」

「ちょっ、タンマじゃ、あいたたたたっ」


 この実に素晴らしいクソゲーを作った頭のおかしいゲーム制作者にゲーム中と同じオチとして、アイアンクローを喰らわせてあげた。




【ファンタジー小噺(22)】

養殖系天然女子とガチ天然女子との熾烈な争い、の話


楓:へー、シル様って頭いいですねー私おバカだから、うぇーん

薫:ふぇ? 楓っておバカなの? 知らなかったー

楓:(コイツ……いちいち邪魔してきやがって)

楓:うん、おバカだから、シル様にいろいろと教えてもらいたいなーって

薫:大丈夫、私が楓の相談に乗ってあげるのだッ!?

シル:アハハッ、薫ちゃん優しいね

楓:(どこまでが(コイツ)の天然領域展開なんだ? くそっ読めねぇ)

楓:うーん、私、少し酔ったかも……

シル:大丈夫、楓ちゃん?

楓:(よっしゃッ! 家まで送っていこうかと言わせれば勝確!?)

薫:もうしょうがないなあ、私が送ってあげる!

楓:……

シル:薫ちゃん、マジ天使! 二人とも気を付けてね

薫:うん、バイバーイ!

楓:(てめぇ、コラ、いい加減にしろよぉぉぉ!)

薫:楓ちゃん……

楓:ん?

薫:いつまでも私と仲良くしてね♪

楓:薫……私、なんかゴメン……


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