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✜15 新しい街


 ヴァールギュントの第2試練をクリアして1か月が経った。岩山に囲まれた場所を開拓していき、街を作った。


 街の名前はクリエティブの能力で造ったから「クリエ」という名をつけてみた。街には自分とシュリ、ヤコの3人とその他大勢のNPCがいる。


 NPCの彼らには、普通に生活してもらう。この街に冒険者がきたら、宿屋や武器防具店、魔法具店などが充実しているので、NPC達の働きで不自由することは少ないだろう。


 ひとつ問題なのは流通している硬貨が銅貨ばかりで、銀貨や金貨がとても少ないのが挙げられる。これは自動で島のなかをランダムに移動している戦闘ゴーレムのパーティーがゴブリンばかりを狩るため。ダンジョンを見つけても複雑なコマンドが入力できず、ただただ狩って硬貨を回収してくるだけなので発生した問題である。


 というわけで、島内のいたるところへ無数に存在するダンジョンは自分達の手で直接、制覇していく必要がある。制覇していく過程で金貨や銀貨も大量に入手できるはずなので、それまでは仮の通貨を流通させておくことにした。四角い金貨、銀貨、銅貨なので、丸い従来の硬貨とは形が違うのでややこしくならないはず。街のなかで、形の丸い従来の硬貨と換金できるし、冒険者からの支払いに対して、おつりとして仮の通貨で払うことで、当面は済まそうと考えている。


 街づくりが終わったので、土建ゴーレムには街道づくりを始めてもらう。日本や世界でもみられる放射状の道路。方角さえ決めてしまえばゴーレムたちが勝手に海岸へ行き着くまで道路を造ってくれるので、途中障害物があっても谷なら橋、岩山などならトンネルを掘って延々と海岸へ行きつくまで道路を造ってくれる。


「アラタ様、外からの客人がやってきました」


 NPCのひとりで、この街の代表役の男がやってきた。街を造って初めての|人間なので、様子を見に行くことにした。


「だーかーらー、この街って何時(いつ)からあるんだよ?」

「ずっと昔からあるがね」

「嘘つくなよオッサン、去年この岩山の囲まれた場所で野営した時はこんな街なかったぞ!」

「まあまあ……落ち着きなって」


 酒場で声を荒げているのは身なりからして戦士風の男で、興奮している男をなだめているのは軽装のスカウトの男で、カウンターの向こうにいる酒場の店主へ向かって怒鳴っている戦士風の男を両脇へ手を回し、カウンターから引き剥がそうと必死になっている。


「ずっと昔からあるがね」

「オッサン……3回目だぞ? 同じ返事を聞いたの」


 戦士風の男は、自分をバカにされたと思ったのかもしれない。声を低く細く発し、腰に提げている剣の柄へ手をかける。


「どうしました?」

「あ? 誰だお前?」

「いちおう、この街の責任者のひとりです」


 危なかった。この男、どう見ても上級冒険者だ。ステータスもかなり高めだが、なによりその身から発するオーラが、腕の立つ戦士であると証明している。


「顔役か、じゃあ聞くけどよ……」


 この街は去年なかったよな? と質問してきたので、少し嘘をつく。


「ここは去年まで異世界(・・・)にあった街です。街のひとは皆、その時の記憶が消えているので彼らに訊ねても明確な答えは返ってこないでしょう」

「あ? 異世界」

「困惑するのは無理もありません。私もいまだによくわかってないのです」


 ちょっとどころか大嘘をついて、男の質問をはぐらかす。


 酒場の店主は、NPCだが普通に会話をしようと思えばできるのだが、この戦士風の男のように同じ質問を何度も繰り返してきたら、何度でも同じことを答えてしまうというNPCならではの誤作動が起きてしまう。


「ちなみにこの街はどこにも属してないんですか?」


 スカウト風の男が何気に質問してきた。ある理由から素直に答えていいものか悩んだが、ここは嘘をついてもバレてしまいそうなので、正直に答えることにした。


「ええ、どこにも属していません。それがなにか?」

「いえいえ、変な質問しちゃいましたね。ただ少しに気になっただけですから」


 両手を振って大袈裟に振る舞うスカウト。まあこれで落ち着きそうなので、よかった。


「あれ? アンタ達、なにしてんのこんなところで?」

「おー、実はな」


 もうひとりいた。魔法使い風の女性で酒場の入口から顔を覗かせた。


「ふーん、どうでもいいや、そんなこと」

「どうでもよくはないだろ?」

「ぷっしょうもない細かいこと気にしてちゃモテんぞ? それよりこの街の料理、めっちゃ美味しいんだけど!」

「ちっ、わかったよ」


 戦士風の男のわだかまりを鼻で笑って一蹴した。まあ、こちらとしては助かる。


 彼女のおかげで完全に流れは、美味しい料理を出すお店の話になり、3人でわちゃわちゃと話しながら酒場を出て行った。


「アラタ」

「あ、うん、気がついた(・・・・・)よ」


 酒場の端っこで、存在感を消した状態でヤコが壁を背にして立っていた。荒事が起きそうなら腕ずくと止めてくれようとしたのだろう。ありがたいけど、この街の最初のお客でいきなり問題を起こしたら、変な噂でも広まってしまうかもしれない。そうなったら商売あがったりだ。


 3人とも上級冒険者だからお金をたくさんもっているはず。是非、このクリエの街でお金をたくさん使ってもらいたい。あと、できれば、この街の評判をいい意味で広めてもらいたい。


 それと懸念される事案がひとつある……あくまで念のためだが、いちおう対策しておこうと思考を巡らし始めた。






【ファンタジー小噺(14)】

スローライフ過ぎてボケちゃったお爺さんとお婆さん、のお話


爺「まさかワシ等が異世界っちゅうところに転生するとはのう」

婆「土地も広くて、畑も作り放題。ほんに幸せですねえ爺さま」

爺「あの肥しを作ってくれる魔物は何て言ったかのう。す、すら……」

婆「すらすら肥しを作る君でしたかねぇ? 爺さま」

爺「おう、そうじゃった、ところでお主は誰じゃったかのう?」

婆「まあ、ご冗談を。私は隣に住んでいる梅子ですよ」

爺「おう、そうじゃったの秋江さん、ご主人は元気かね?」

婆「ええお陰様で。昨日、元気な男の子を生みました」

爺「その牛の花子は今年、何歳になるかのぅ?」

婆「たしか……昭和58年生まれですから今年で304歳でしたかねぇ?」

爺「そうじゃったかぁ、婆さま、そろそろ昼飯にするべ」

婆「あいよ、爺さま。お昼は花子をいただきしょう」



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